表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第4章 神樹の街ルーメン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/117

第五十八話

泉のほとり。


風だけが静かに流れていた。


「友達を失ったんです」


エアリアの声は震えていた。


誰も口を挟まない。


シオンも。


ナギも。


ジークも。


ただ話を聞いていた。


エアリアはゆっくりと語り始める。


百年以上前。


翠風の庭は今とは全く違っていた。


神樹は大きく。


森は豊かで。


精霊たちは自由に飛び回っていた。


そして。


精霊王には大切な友がいた。


一人の人間。


薬師だった。


静寂。


オルディスが息を呑む。


また薬師。


七つの庭の歴史を辿るたびに現れる。


まるで世界の節目には、

必ず薬師がいたかのように。


「名前は?」


シオンが聞く。


エアリアは少し考える。


「アリア」


その名を口にした瞬間。


シオンの胸元の神樹の種が光る。


ぽうっ。


エアリアも驚く。


「なぜ……」


分からない。


だが確かに反応している。


アリア。


その名前に。


エアリアは続けた。


アリアは旅をしていた。


病を治し。


争いを止め。


種族の違いを越えて歩いた。


精霊王と出会ったのも旅の途中だった。


最初は仲が悪かったらしい。


「父は頑固なので」


エアリアが苦笑する。


ナギが頷く。


「なんか想像できる」


少し空気が和らいだ。


しかし。


話はすぐに重くなる。


ある日。


アリアは精霊王と約束した。


「必ず戻る」


それだけだった。


長い旅へ出る前の約束。


神樹の種を一つ預かり。


そして旅立った。


精霊王は待った。


一年。


五年。


十年。


待ち続けた。


だが。


帰ってこなかった。


静寂。


エアリアは俯く。


「帰れなかったんです」


「途中で亡くなりました」


誰も言葉を発しない。


その結末はあまりにも重かった。


約束を破ったのではない。


守りたかった。


でも。


守れなかった。


エアリアの瞳から涙が落ちる。


「でも父は知らなかった」


「ずっと待ち続けた」


「待って」


「待って」


「待って」


百年。


そしていつしか。


悲しみは怒りへ変わった。


神樹への怒りに。


「神樹は知っていたはずだ」


「なぜ教えなかった」


「なぜ待たせた」


それが精霊王の言葉だった。


セレスが青ざめる。


もしそれが本当なら。


精霊王が怒る理由は分かる。


百年間。


たった一人で待ち続けたのだから。


その時。


シオンがぽつりと言った。


「知らなかったかも」


静寂。


エアリアが顔を上げる。


「え?」


シオンは真面目だった。


「神樹も」


「知らなかったかもしれない」


誰も予想しなかった言葉。


しかし。


シオンは続ける。


「確認したい」


「話聞きたい」


精霊王にも。


神樹にも。


両方に。


それが薬師らしい答えだった。


症状だけ見て診断しない。


双方を見る。


話を聞く。


原因を探す。


そして治療する。


エアリアは呆然とシオンを見ていた。


やがて。


小さく笑う。


百年ぶりだった。


誰かが父を悪者にしなかったのは。


「変な人」


また同じことを言われた。


ナギがため息を吐く。


「それもう褒め言葉だよね」


エアリアは少しだけ笑った。


そして。


「会わせます」


その言葉と共に。


泉の奥の森から。


巨大な魔力が溢れ出した。


風が唸る。


木々が震える。


空が曇る。


エアリアの顔色が変わる。


「父が……」


帰ってきた。


百年の怒りを抱えた精霊王が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ