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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第4章 神樹の街ルーメン

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第五十五話

鳥王の巣は、巨大樹の最上部近くにあった。


普通の人間なら辿り着けない高さだ。


だが鳥たちが協力してくれた。


太い枝を伝い。


風の流れに乗り。


一行は王の住処へ案内される。


巣というより広場だった。


枝と蔦で作られた巨大な円形の空間。


中央には柔らかな羽毛が敷き詰められている。


周囲には珍しい薬草まで生えていた。


シオンの目が光る。


「薬草」


ナギが即座に肩を掴む。


「後」


「……後」


少し残念そうだった。


鳥王はゆっくりと翼を広げる。


改めて傷を見る。


古い。


かなり古い。


何十年も前かもしれない。


シオンは慎重に触れる。


鳥王は微動だにしない。


「痛い?」


「雨の日はな」


「飛べる?」


「飛べる」


「全力は?」


鳥王は少し黙った。


「無理だ」


その一言で十分だった。


シオンは傷を観察する。


羽ではない。


筋肉でもない。


もっと奥。


「風脈」


オルディスが顔を上げる。


「わかるのか?」


「少し」


鳥王の体内には独特な魔力の流れがある。


風の力を巡らせる経路。


それが途中で歪んでいた。


セレスが驚く。


「樹人族の治療師も気付かなかったのに……」


シオンは首を傾げる。


「痛い場所探しただけ」


本人はいつも通りだった。


しかし鳥王は違った。


蒼い瞳でシオンを見ている。


「昔もいた」


突然そんなことを言った。


「?」


「お前のような薬師が」


静寂。


ミルが顔を上げる。


「初代薬師?」


鳥王は頷いた。


「まだ若かった頃だ」


数百年前。


まだ七つの庭が繋がっていた時代。


鳥王はその時代を知っていた。


「翼を折ったことがあった」


「その時も治された」


「同じことを言われた」


シオンが首を傾げる。


鳥王は少し笑う。


「無理して飛ぶな、と」


ナギが吹き出した。


「あー」


確かに言いそうだ。


シオンも頷く。


「無理よくない」


「やはり似ているな」


鳥王はどこか懐かしそうだった。


しばらくして診察が終わる。


シオンは薬草をいくつか選ぶ。


鳥王の巣に生えていたもの。


持参したもの。


そしてルーメン産の薬草。


即席の湿布薬を作る。


鳥王は興味深そうに見ていた。


やがて。


薬を塗る。


数分後。


鳥王の翼が僅かに震えた。


「どう?」


「軽い」


初めて鳥王の表情が変わる。


驚いている。


何十年も治らなかった痛みだ。


完全ではない。


だが確かに違う。


シオンは頷いた。


「続ければ治る」


静寂。


そして。


鳥王は約束を果たした。


「精霊王の話をしよう」


風が吹く。


森の鳥たちが一斉に鳴く。


まるで昔話の始まりだった。


「精霊王は元々、神樹を愛していた」


全員が驚く。


神樹を憎む存在ではなかった。


むしろ逆。


誰よりも神樹を守っていた。


鳥王の目が遠くを見る。


「だが百年前」


「神樹は約束を破った」


静寂。


セレスの顔色が変わる。


「そんな……」


樹人族の伝承にはない。


鳥王は続ける。


「だから精霊王は怒った」


「だから森は閉ざされた」


「だから神樹は枯れ始めた」


風が止まる。


誰も言葉を発しない。


神樹が約束を破った。


その事実はあまりにも衝撃だった。


シオンだけが違うことを考えていた。


「約束」


鳥王が頷く。


「そうだ」


「約束だ」


シオンは静かに言う。


「内容知りたい」


鳥王は少し笑った。


「当然そう言うと思った」


そして。


空を見上げながら告げる。


「その約束に関わる者が今も生きている」


静寂。


「え?」


レインが声を上げる。


百年前の約束だ。


普通なら誰も生きていない。


だが鳥王は断言した。


「精霊王の娘がな」


風が吹く。


その瞬間。


シオンの胸元にある神樹の種が淡く光った。


まるで。


その名前を知っているかのように。


そして遠く。


翠風の庭の方角で。


誰かがこちらを見ていた。

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