第五十四話
「鳥王が会いたがっています」
セレスの言葉に、一行は森の奥を見つめた。
巨大な影はもう見えない。
だが確かにいた。
あれほど大きな翼は初めて見た。
ナギが小声で言う。
「会わないって選択肢は?」
白冠鳥が即座に鳴いた。
キュイ!
「ないらしい」
ジークが真顔で答えた。
こうして一行は、
白冠鳥の案内で森の奥へ進むことになった。
進むにつれて景色が変わる。
木々がさらに巨大になる。
幹の太さは家ほどもある。
枝は空を覆い隠し。
森全体が一つの神殿のようだった。
ミルが耳をぴくりと動かす。
「風が歌ってる」
ユグも頷く。
「普通の森じゃない」
セレスの表情は真剣だった。
「鳥王は森の守護者です」
「数百年生きています」
レインが目を丸くする。
「数百年!?」
「樹人族でも滅多に会えません」
つまり。
かなり偉い存在らしい。
その時。
森が突然開けた。
巨大な断崖。
そしてその先。
見上げるほど大きな一本の樹。
「うわ……」
ナギが息を呑む。
神樹ではない。
だが。
それに匹敵するほど巨大だった。
枝には無数の巣がある。
何百。
何千。
いや。
もっとだ。
空には鳥たちが飛び交っていた。
そして。
その最上部。
巨大な影が降り立つ。
ドォン――
地面が揺れた。
翼を広げる。
黄金の羽。
白銀の尾羽。
深い蒼色の瞳。
美しかった。
神々しいという言葉が似合う。
鳥王だった。
全員が圧倒される。
しかし。
シオンだけは少し違った。
「羽」
「?」
ナギが振り向く。
「綺麗」
そこだった。
鳥王の目が見開かれる。
静寂。
セレスが青ざめる。
普通なら敬語だ。
畏怖する。
礼を尽くす。
だがシオンは。
「羽綺麗」
二回言った。
鳥王は数秒固まった後。
クルル……
どこか嬉しそうに鳴いた。
ナギが頭を抱える。
「なんで好感度上がってるの!?」
鳥王はゆっくりシオンへ近づく。
巨大な顔。
金色の瞳。
至近距離で見ると迫力が凄まじい。
だがシオンは逃げない。
観察していた。
羽。
爪。
瞳。
呼吸。
その時。
シオンの表情が変わる。
「怪我してる」
静寂。
鳥王の瞳が揺れた。
セレスも驚く。
「どこがです?」
シオンは鳥王の右の翼を指差した。
根元。
羽の下。
見えにくい場所。
そこだけ僅かに動きが硬い。
鳥王は黙っていた。
やがて。
ゆっくり翼を開く。
そこには。
古い傷跡があった。
深い裂傷。
完全には治っていない。
ジークが目を見開く。
「本当だ……」
セレスも気付かなかった。
鳥王は低く鳴く。
どこか懐かしそうに。
そして。
シオンを見つめた。
「……?」
シオンは首を傾げる。
すると。
鳥王が頭を下げた。
全員が固まる。
森中の鳥たちも静まり返る。
守護者が。
王が。
一人の薬師へ頭を下げたのだ。
そして鳥王は口を開いた。
「治せるか」
人の言葉だった。
ナギが目を剥く。
「喋ったぁぁぁ!?」
しかし。
シオンの反応は違った。
「たぶん」
即答だった。
鳥王の目が少しだけ柔らかくなる。
そして静かに言う。
「なら取引をしよう」
風が吹く。
黄金の羽が舞う。
「我を治せ」
「その代わり」
鳥王は森のさらに北を見つめた。
その視線の先。
翠風の庭がある。
「精霊王について話してやろう」
その瞬間。
セレスの顔色が変わった。
精霊王。
樹人族が恐れる存在。
そして神樹を憎む者。
ついに。
翠風の庭の核心へ繋がる情報が現れたのだった。




