第五十三話
ルーメンを出発して三日。
遠征隊は順調に進んでいた。
街道を離れ。
森へ入る。
木々は高く。
空は葉に覆われている。
風が吹くたびに枝が揺れた。
「気持ちいいね」
レインが空を見上げる。
リリも頷いた。
「良い森です」
エルフの感覚からしても、
生命力に満ちた場所らしい。
しかし。
セレスだけは油断していなかった。
何度も空を見ている。
「どうしたの?」
ナギが聞く。
セレスは少し困った顔をした。
「灰羽の森は普通の森ではありません」
「鳥たちの縄張りです」
その瞬間。
遠くから声が聞こえた。
キュイイイイイ!!
キュルルルル!!
ギャアアアア!!
全員が空を見上げる。
いた。
ものすごくいる。
鳥だ。
大量の鳥。
木の上。
枝。
岩。
至る所に。
「多いな!?」
ジークが思わず言った。
「多いですね」
リリも苦笑する。
「多い」
シオンも頷く。
「だから言った」
オルディスがため息を吐いた。
どうやら昔来たことがあるらしい。
その時だった。
バサァッ!!
一羽の大きな鳥が目の前へ降り立つ。
白い羽。
青い瞳。
人間ほどの大きさ。
立派だ。
そして。
やたら偉そうだった。
鳥は一行を見回す。
じーっ。
ナギを見る。
じーっ。
ジークを見る。
じーっ。
最後に。
シオンを見る。
そして。
近づいてきた。
とことこ。
とことこ。
全員が警戒する。
シオンだけは動かない。
鳥はシオンの前で止まり。
すっ。
荷袋をつついた。
「?」
もう一回。
つつく。
「?」
ナギが気づく。
「あ」
保存食だ。
鳥は明らかに食べ物を狙っていた。
シオンは考える。
そして。
干し果実を一つ差し出した。
鳥は受け取る。
ぱく。
数秒。
じっとシオンを見る。
ぱくぱく。
食べる。
そして。
満足そうに鳴いた。
キュイ。
その瞬間。
森中から鳴き声が響いた。
キュイイイイ!!
キュルルル!!
ギャアアア!!
「なになに!?」
レインが慌てる。
セレスは青ざめていた。
「まずいです」
「え?」
「気に入られました」
静寂。
次の瞬間。
空が埋まった。
鳥。
鳥。
鳥。
全部こっちへ向かってくる。
「うわあああああ!?」
遠征隊は大混乱になった。
数分後。
シオンの周りだけが鳥だらけになっていた。
肩。
頭。
荷車。
馬車の屋根。
全部鳥。
ナギは笑い転げている。
「なんで!?」
「わからない」
シオンも困っていた。
すると。
一番最初の白い鳥が胸を張る。
キュイ!
セレスが目を見開く。
「まさか……」
「どうした?」
ジークが聞く。
セレスは信じられないものを見る顔をしていた。
「あれは」
「白冠鳥です」
「鳥王の使いです」
静寂。
全員が白い鳥を見る。
鳥は誇らしげだった。
「つまり?」
ナギが聞く。
セレスはゆっくり答えた。
「鳥王が会いたがっています」
森の奥で。
風が吹く。
そして遠く。
巨大な翼が空を横切った。
あまりにも大きい影。
竜かと思うほどの。
灰羽の森の支配者。
鳥たちの王が。
彼らを見ていた。




