第五十一話
夕暮れ。
広場の街灯に火が灯る。
ぽつり。
ぽつり。
やがて広場全体が暖かな光に包まれた。
ルーメンで初めて灯された街灯。
今では住民たちの誇りになっている。
その下に。
長い机が並べられていた。
住民たちも集まっている。
農家。
職人。
商人。
獣人。
エルフ。
移住者。
子どもたちまでいる。
ナギが辺りを見回す。
「増えたねぇ」
本当にそうだった。
数か月前まで寂しかった広場が、
今は人でいっぱいだ。
広場の中央。
シオンが立っている。
少し緊張していた。
薬の説明はできる。
治療方針も話せる。
でも。
大勢の前で話すのは苦手だ。
「シオン」
ジークが肩を叩く。
「いつも通りでいい」
シオンは頷いた。
そして。
街会議が始まる。
最初に話したのはセレスだった。
翠風の庭の現状。
枯れ始めた森。
消えた精霊。
弱っていく神樹。
樹人族の苦境。
すべてが語られた。
広場は静かだった。
皆真剣に聞いている。
やがて。
セレスが頭を下げる。
「助けてください」
静寂。
そこで。
シオンが前へ出る。
少し考えて。
ゆっくりと言った。
「助けたい」
住民たちが頷く。
予想通りだった。
「でも」
シオンは続ける。
「ルーメンも大事」
今度は皆が少し驚く。
以前のシオンなら。
迷わず出発していた。
患者がいるなら。
困っている人がいるなら。
飛び出していた。
でも。
今は違う。
「街を空ける」
「困る人いる」
シオンは真面目に言う。
フィアが微笑む。
成長したな。
そう思った。
その時。
一人の老人が手を挙げた。
移住してきた農家だ。
「シオン先生」
「はい」
「わしらは何のために街を作ってると思う?」
シオンが首を傾げる。
老人は笑った。
「困ってる人を助けるためだろう?」
静寂。
別の住民も頷く。
「そうだな」
「始原泉の時に助けてもらった」
「今度は俺たちの番だ」
「街は俺たちが守る」
一人。
また一人。
立ち上がる。
ガロンが胸を叩いた。
「薬草園は任せろ!」
フィアも笑う。
「薬屋も大丈夫です」
ジークが腕を組む。
「自警団もいる」
レインも言う。
「記録は続ける」
ナギが笑う。
「ほら」
シオンは黙っていた。
胸の奥が少し温かい。
不思議な感覚だった。
今まで。
ずっと一人で何とかしようとしてきた。
でも。
違った。
ルーメンは。
もう自分一人の街ではない。
みんなの街だ。
その時。
小さな手が上がった。
子どもだった。
「シオン先生」
「?」
「困ってる人いるなら助けた方がいいと思う」
広場に笑いが広がる。
シオンも少し笑った。
そして。
立ち上がる。
「行く」
その一言に。
広場中から拍手が起きた。
こうして。
ルーメンの決定が下された。
翠風の庭救援隊結成。
メンバーは。
シオン。
ナギ。
ジーク。
リリ。
レイン。
ミル。
ユグ。
そして案内役のセレス。
ルーメン初の大遠征である。
だが。
誰も知らなかった。
翠風の庭で待っているのが、
神樹の病ではなく――
「神樹を憎む精霊王」
であることを。




