第四十九話
神樹計画事件から一か月後――
ルーメンは大きく変わっていた。
広場には露店が並び。
市場には人が集まる。
子どもたちの笑い声。
職人の掛け声。
荷車の音。
以前の静かな辺境の村とは、
もう呼べないほど賑やかになっていた。
広場の中央には新しい看板が立っている。
そこには大きく書かれていた。
神樹の街 ルーメン
ガロンが胸を張る。
「どうだ!」
「かっこいいだろ!」
住民たちも満足そうだ。
一方。
シオンは看板の前で首を傾げていた。
「長い」
「えぇ……」
ナギは脱力した。
みんなで三日かけて決めた名前である。
だが。
住民たちが笑っている。
楽しそうだ。
その様子を見て。
シオンも少しだけ口元を緩めた。
薬草園も順調だった。
陽だまりの段丘には、
色とりどりの薬草が広がっている。
フィアは毎日忙しい。
嬉しい悲鳴だ。
「また増えてる!」
薬草を見たフィアが叫ぶ。
シオンは頷く。
「元気」
「元気すぎます!」
神樹の影響なのだろう。
普通では考えられない速度で育っていた。
その薬草園の奥には。
小さな神樹の芽が植えられている。
ヴォイドが遺した芽。
まだ背丈ほどしかない。
しかし。
毎日少しずつ成長していた。
その芽の前には。
よく二人の姿があった。
ミルとユグだ。
ミル
ユグ
二人とも正式にルーメンへ住むことになった。
ユグは最初戸惑っていた。
家がある。
食事がある。
名前で呼ばれる。
それが当たり前ではなかったから。
ある日。
市場でパンを買った時。
店主に言われた。
「ありがとう、ユグちゃん」
たったそれだけで。
ユグは泣いてしまった。
店主は慌てた。
今ではルーメン名物になっている。
「ユグちゃん泣かせた事件」
本人は恥ずかしいらしい。
そんな平和な日々。
しかし。
神樹が認めた街になったことで、
新たな変化も起き始めていた。
ある朝。
門番をしていたジークの元へ、
見慣れない一団がやって来た。
長い旅装。
立派な馬車。
そして。
特徴的な耳。
「エルフ?」
ジークが呟く。
だが違う。
少し違う。
耳は長い。
しかし肌には木の紋様が浮かんでいる。
先頭の女性が頭を下げた。
「初めまして」
「私たちは樹人族です」
静寂。
ジークが固まる。
そんな種族は聞いたことがない。
女性は続けた。
「神樹の祝福を受けた街が現れたと聞きました」
「確認に参りました」
その知らせは瞬く間に広がった。
ルーメンに。
また新しい種族がやって来たのだ。
その頃。
薬屋で薬を調合していたシオンは。
フィアからその話を聞いて。
一言だけ言った。
「薬草詳しいかな」
ナギが頭を抱えた。
「まずそこなの!?」
しかし。
シオンの予想は半分当たっていた。
樹人族は薬草や植物と深い関わりを持つ種族だった。
そして。
彼らは重大な知らせを持ってきていた。
「第二の神樹の庭が危険です」
その言葉に。
ルーメンの空気が変わる。
神樹が言っていた。
残る庭は二つ。
一つはルーメン。
そしてもう一つ。
ついに。
第二の神樹の庭を巡る旅が始まろうとしていた。




