第四十二話
ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
ルーメン全体が震える。
住民たちが不安そうに周囲を見回した。
「地震か?」
「違う……」
オルディスの表情が険しい。
魔力の流れがおかしい。
まるで。
地下から何かが目覚めている。
その時。
薬草園の方向から光が立ち上った。
緑色の光。
神樹と同じ色だ。
ミルが顔を上げる。
「神樹様」
次の瞬間。
シオンの胸元で何かが温かくなった。
始原泉で拾った小さな結晶。
あの時、
記念のように持ち帰っていた欠片だ。
その結晶が光っている。
シオンは静かに見つめる。
すると。
頭の中に映像が流れ込んできた。
暗い場所。
石の壁。
巨大な扉。
その先には。
研究施設。
無数の培養槽。
黒い結晶。
そして。
地図。
ルーメンの地下全体を示す地図。
映像はそこで止まった。
一つの場所を映し出す。
薬草園。
その真下。
シオンが呟く。
「地下」
ナギが振り向く。
「何?」
「ある」
「何が」
シオンは即答した。
「研究所」
全員が固まる。
また研究所である。
ナギは頭を抱えた。
「もう研究所はお腹いっぱいなんだけど」
しかし。
その予感は正しかった。
地面が割れる。
薬草園の中央。
新しく作った畑の近く。
ドォォォォン!!
土が吹き飛んだ。
住民たちが悲鳴を上げる。
巨大な穴。
そして。
その底から現れたのは。
金属の扉だった。
誰も言葉を失う。
古代遺跡ではない。
始原泉とも違う。
比較的新しい。
人工的な施設。
ベルクたちのものだ。
オルディスが低く呟く。
「第三研究区画……」
神樹計画。
本拠地。
ついに見つかった。
その時。
黒い巨木が苦しそうに揺れた。
ミルが耳を伏せる。
「急いで」
シオンも頷く。
原因を断たなければ。
治療は終わらない。
ジークが前へ出た。
「行くメンバーを決める」
即座に判断する。
街を守る者。
地下へ行く者。
分けなければならない。
ガロンが胸を叩いた。
「街は任せろ!」
フィアも頷く。
「怪我人は私たちが診ます!」
移住者たちも武器を取った。
もうルーメンは誰かに守られるだけの街じゃない。
自分たちで守る街になっていた。
シオンは地下への扉を見る。
嫌な予感がする。
でも。
行かなければならない。
その時。
ミルが服の裾を引っ張った。
「薬師様」
「?」
ミルは少し迷ってから言った。
「神樹様がね」
「うん」
「死なないでって」
静寂。
ナギが苦笑した。
「それ私も思ってる」
ジークも頷く。
「同感だ」
オルディスは腕を組む。
「頼むから無茶をするな」
シオンは少し考えた。
そして。
真面目な顔で答える。
「努力する」
全員が不安になった。
ギィィィ……
地下施設の扉が開く。
冷たい空気が流れ出る。
暗い階段。
奥へ続く通路。
そして壁には。
かすれた文字が残されていた。
神樹計画 最終区画
関係者以外立入禁止
ナギが短剣を握る。
レインが息を飲む。
シオンは薬箱を背負い直した。
そして。
一歩踏み出す。
街を守るため。
病気を治すため。
ルーメンの未来を守るため。
彼らは地下研究区画へ足を踏み入れた。
その最深部で待つものが、
ベルクですら制御できなかった失敗作だとは、
まだ誰も知らなかった。




