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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第3章終盤 「神樹計画」

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第四十話

ドォォォォン!!


二度目の爆発音が響いた。


神樹の空間ですら、

振動が伝わってくる。


リリが青ざめる。

「ルーメン……!」


ジークはすでに剣を抜いていた。

「戻るぞ!」


誰よりも早く動いたのはシオンだった。


迷いがない。


神樹の話。

七つの庭。

失われた歴史。

気になることは山ほどある。


でも。

今は違う。


街だ。

薬屋だ。

住民たちだ。

守らなければならない人たちがいる。


森を駆ける。


ナギが先行する。


狼獣人の脚力は圧倒的だった。


枝を飛び越え。


木々の間を駆け抜ける。


「煙が見える!」


その声に全員の心臓が跳ねた。


遠く。


ルーメンの方向。


黒煙が上がっている。


街へ近づくにつれ、

悲鳴が聞こえ始めた。


子どもの泣き声。

怒号。

警鐘。


カン! カン! カン!


始原泉の時と同じ。

いや。

それ以上だ。


門へ辿り着いた瞬間。


全員が目を見開いた。

「なんだ……これ」


ナギが呟く。


街は燃えていた。


大火事ではない。


だが。


広場近くの倉庫が壊れている。


市場も一部崩れていた。


そして。


人ではないものがいた。


灰色の獣。


狼に似ている。


しかし目が赤い。


身体には黒い結晶が食い込んでいる。


灰霧結晶。


いや。


もっと禍々しい何か。


一体や二体じゃない。


十体以上。


住民たちを襲っていた。


「魔物化してる!」

オルディスが叫ぶ。


シオンはすぐに理解した。


始原泉で見た。


研究所でも見た。


人工的に変異させられた魔物だ。


「神樹計画……」


ベルクたちは街を実験場にする気だ。


今度は正面から。


その時。


広場から怒鳴り声が響く。


「下がれ!」


聞き慣れた声。


熊獣人のガロンだった。


大きな木材を振り回し、

魔物を押し返している。


その横ではフィアが負傷者を避難させていた。

住民たちも必死に抵抗している。


だが苦しい。

数が多すぎる。


一頭の魔物が子どもへ飛びかかった。


「危ない!」

誰かが叫ぶ。


間に合わない。


そう思った瞬間。


銀色の影が飛び込んだ。


ドン!


魔物が吹き飛ぶ。


白い耳。

黄金の瞳。


ミルだった。


ナギが目を見開く。

「強っ!?」


小柄な身体なのに、

信じられない力だった。


ミルは子どもを背後へ隠す。


そして静かに言う。


「神樹様の庭」

「壊させない」


その言葉を聞いた瞬間。


シオンの中で何かが定まった。


ルーメン。


薬草園。


街灯。


市場。


笑い声。


全部思い出す。


最初はただの辺境だった。


でも今は違う。


ここはみんなで作り始めた街だ。


だから。


守る。


シオンは薬箱を開いた。


中から小瓶を取り出す。


始原泉の浄化水。


神樹の葉。


薬草園で育てた薬草。


急ごしらえだ。


完成品ではない。


だが。


使える。


「ナギ」

「うん!」


「ジーク」

「任せろ!」


「時間作って」


二人は頷く。


即座に飛び出した。


魔物の群れへ。


シオンは広場の井戸へ向かった。


住民たちが驚く。


「シオンさん!?」


だが彼女は止まらない。


井戸へ薬液を流し込む。


オルディスが気づく。


「まさか……!」


シオンは頷いた。


「水路」


ルーメンの井戸は地下水脈と繋がっている。


つまり。


街全体へ薬を流せる。


オルディスが笑った。


「本当に街ごと治療する気か」


シオンは真顔だった。


「街が患者だから」


ナギが遠くで叫ぶ。


「それもう薬師の範囲超えてるから!」


次の瞬間。


井戸が光った。


地下水脈を通じて。


淡い緑色の光が街へ広がっていく。


石畳。

水路。

噴水。

薬草園。


すべてが繋がる。


そして。


魔物たちの身体に食い込んでいた黒い結晶が、

少しずつ光を失い始めた。


ベルクの実験。


神樹計画。


その正体が、

ついに明らかになろうとしていた――。

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