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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第一章 灰霧の辺境

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第四話

夕暮れが、ゆっくりとルーメンを染めていく。


壊れた窓から赤い光が差し込み、

薬屋の埃を金色に浮かび上がらせていた。


シオンは床へ膝をつき、

散乱した瓶をひとつずつ拾い集めていく


「・・・使えそう」

「いや、絶対使えないでしょ、それ」


ナギが即座に突っ込む


シオンが持ち上げた瓶には

大きなヒビが入っていた


「液体は漏れる」

「当たり前!」


「でも乾燥薬草なら入る」

「無理やり使おうとしないで!?」


シオンは少し考え込む

「・・・なるほど」

「今ので納得するんだ・・・・」


ナギは呆れながら

崩れた椅子を起こした


ギシ、と嫌な音が鳴る


その瞬間


ぐぅぅぅぅ


静かな店内に

妙に大きな音が響いた


シオンが動きを止める


ナギがゆっくり振り返る


「今の・・・」


シオンは無表情のまま視線を逸らした


「気のせい」


ぐぅぅぅぅぅぅ


「気のせいじゃないね!?」


シオンのおなかは正直だった

朝から何も食べていない


王都を追い出されてから

まともな食事も少なかった


ナギはじっとシオンを見る


細い


薬箱は大きいのに

本人は驚くほど華奢だった


「あんた、ちゃんと食べてる?」

「食べてる」

「嘘」


「昨日は食べた」

「昨日!?」


シオンは首を傾げた


「1日ぐらい平気」

「平気じゃない!」


ナギは頭を抱える

この薬師、自分のこととなると途端に雑だ


シオンは平然としていた


「慣れてる」


その言葉にナギは少しだけ眉をひそめる

なるほど、慣れるほどにこんな生活をしてきたのか


空気が少し静かになる


するとナギは

ぼそりとつぶやいた


「・・・スープぐらいならある」


シオンが顔を上げる


「食べる?」


数秒の沈黙


それからシオンは

ものすごく真剣な顔でうなづいた


「食べる」

「即答・・・」


その反応がおかしくて

ナギは吹き出しそうになる


外はすっかり暗くなり始めていた


ナギの案内でふたりは薬屋を出る


ルーメンの夜は静かだった

家々にはほとんど明かりがない

貧しく、油も薪も足りないのだ


その暗い通りを歩きながら

シオンは周囲を見回していた


「夜あぶない」

「そりゃそうでしょ」


「灯かりが少ない」

「油が高いんだよ」


ナギは肩をすくめる

「みんな最低限しか使わない」


シオンは少し考え込んだ

頭の中で何かを組み立てている顔だった


ナギはそれに気づく


「何考えているの?」

「薬草油ならつくれるかも」


「は?」

「もっと安いやつ」


ナギは呆れた顔になる

「いや、今その話?」

「大事」

「いや今その話?」

「いや、そうだけど!」


シオンは真面目だった。


「夜が明るいと怪我減る

犯罪も減る

あと安心する」


ナギは言葉を失う


この少女は街を見ている

建物じゃない

そこに住む人を見ている


気づけば

ナギは少しだけ笑っていた


「ほんと・・へんな薬師」


その時だった


通りの奥で

誰かの怒鳴り声が響いた


「だから獣人は入れるなと言っただろ!

 何度言えばわかるんだ!!!!」


空気が凍る


ナギの耳がピクリと動いた


酒場の前だった


人間の男たちが

小柄な少女を突き飛ばしている


長い耳

整った顔


エルフだった


まだ幼い


腕には大きな荷袋を抱えている


「ご、ごめんなさい・・・」

「謝って済むか!

 商品に触っただろ!!」


少女が震える


ナギが舌打ちした

「またかよ・・・」


そうつぶやいた瞬間


隣からシオンが消えた


「え?」


気づけば、シオンは男たちの前に立っていた


無表情のまま


男のひとりが睨む

「あ?」


シオンは静かに少女を見る

「怪我してる?」

「・・・へ?」

症状は呆然と目を向けた


男たちが苛立つ

「おいガキ、関係ないならひっこんでろ」


「その子、手首腫れてる」

シオンは淡々と言った

「重い荷物持ちすぎ

 しばらく冷やしたほうがいい」


男たちはぽかんとした

話がかみあわない


ナギは遠くで頭を抱える

(あぁもう始まった・・・!)


でも


怯えていたエルフの少女だけは

少しだけ目を見開いていた



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