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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第3章  薬草園と新しい住民たち

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第三十四話

始原泉の騒動から二週間後――


ルーメンは少し変わっていた。


朝。


広場には人の声が響いている。


井戸には列。


市場には野菜。


子どもたちが走り回る。


まだ豊かな街ではない。


壊れた建物も残っている。


病人もいる。


でも。


以前のルーメンとは違った。


人々の顔に、

少しだけ笑顔が戻っている。


そして。


その変化の中心には。


「違う」


相変わらず難しい顔をしている少女がいた。


シオンである。


「ここじゃない」


薬屋の裏庭。


地面に棒で図を書きながら、

真剣な顔で考えている。


ナギが覗き込んだ。


「今度は何?」


「薬草園」


「また始まった」


ナギは慣れていた。


シオンが何かを思いつく。

突然動き始める。

周囲を巻き込む。


最近ずっとこれだ。


シオンは地面を指差す。


「今の薬草畑、小さい」

「うん」


「種類少ない」

「うん」


「だから増やす」

「うん」


「街で育てる」


ナギは頷く。


もう驚かない。


しかし。


シオンは続けた。


「百種類くらい」


ナギは驚いた。


「多い!!」


同じ頃。


ルーメンの門では。


自警団が見慣れない集団を迎えていた。


馬車が三台。


旅人ではない。


移住希望者だった。


ジークが腕を組む。


「本当に来たのか」


最近。


始原泉の件が周辺の村へ伝わった。


『ルーメンは病を乗り越えた』


『薬師がいる』


『仕事がある』


そんな噂も広がった。


結果。


人が来始めたのだ。


先頭にいたのは。


大柄な熊獣人の男性。


その後ろには家族。


さらに職人らしいドワーフ。


荷物を抱えた若い夫婦。


様々な種族。


様々な事情。


ジークは少し笑う。


「忙しくなるな」


その日の夕方。


シオンは薬屋で帳簿を見ていた。


すると。


ドアが開く。


カラン。


「こんにちは」


聞き慣れない声。


顔を上げる。


そこにいたのは。


耳の長い女性だった。


エルフ。


だがオルディスとは違う。


もっと若い。


もっと柔らかい雰囲気。


彼女は丁寧に頭を下げた。


「薬草師をしています」


「仕事を探していて」


シオンは瞬きをした。


薬草師。


欲しかった人材。


ちょうど今。


一番欲しかった。


ナギが後ろから顔を出す。


そして。


シオンを見る。


シオンを見るだけでわかった。


目が輝いている。


これはもう決まった。


「採用?」


ナギが聞く。


シオンは即答した。


「採用」


「まだ何も聞いてないよね!?」


その夜。


ルーメンの広場には新しい顔が増えていた。


移住者。


職人。


獣人。


エルフ。


人間。


少しずつ。


少しずつ。


ルーメンは変わり始めている。


シオンは街灯の下でそれを見ていた。


以前は暗かった広場。


今は灯りがある。


人の声がある。


未来がある。


その時。


レインが隣へ来た。


体調も少しずつ回復していた。


「……増えたな」


シオンは頷く。


「うん」


レインは笑う。


「街みたいになってきた」


シオンは少し考えた。


そして答える。


「街だよ」


その言葉に。


レインは静かに笑った。


だが。


その頃。


遠く離れた王都では。


ベルクが一枚の報告書を机へ置いていた。


そこには大きく書かれている。


【ルーメン計画失敗】


ベルクは笑う。


「失敗ではありません」


そして。


机の上には別の資料。


その表紙には。


【第三研究区画】


【神樹計画】


と記されていた。


ルーメンを巡る戦いは、

まだ始まったばかりだった。

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