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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 終盤「灰霧病と壊れた街」

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第三十三話

光だった。


眩しくて暖かい光。


始原泉全体を包み込み、

黒く濁った湖面を照らしていく。


ゴォォォォ……


大地が震える。


風が吹く。


結晶が共鳴するように輝き始めた。


湖畔。


森。


山肌。


地下水脈。


ルーメンのあちこちに広がっていた灰霧結晶が、

まるで呼吸するように光る。


オルディスが目を見開いた。


「……循環が戻る」


シオンは湖を見つめていた。


薬草だけじゃない。


魔法だけでもない。


古代人が残した仕組み。


自然。


水脈。


結晶。


全部が繋がった結果だ。


湖の底。


巨大な石の扉が震える。


その向こうにいた巨大な存在が、

ゆっくりと目を閉じた。


怒りではない。


安堵。


そんな感情に見えた。


やがて。


ズズズズズ……


石の扉が閉じ始める。


黒い霧も消えていく。


ベルクが叫んだ。


「やめろ!」

「それは人類の進歩だ!」

「失われた力なんだぞ!」


だが。


誰も耳を貸さなかった。


ナギが短剣を構える。

「進歩じゃない」


ジークも剣を握る。

「ただの迷惑だ」


ベルクは後退する。


顔を歪めながら。


理解できなかった。


なぜだ。


なぜ誰も求めない。


力を。

知識を。

支配を。


その時。


シオンが静かに言った。

「街が壊れる」


ベルクが睨む。


シオンは続けた。

「だから駄目」


単純だった。


けれど。


それがシオンの答えだった。


どんな理屈より。


どんな権力より。


目の前の人が苦しむなら、

それは間違っている。


ベルクは数秒黙った。


そして。


苦々しく笑った。


「……理解できませんね」


次の瞬間。


転移魔法陣が足元に浮かぶ。


オルディスが叫ぶ。

「待て!」


だが遅い。


光が弾ける。


ベルクの姿は消えた。


静寂。


残ったのは風の音だけ。


ナギがため息を吐く。

「逃げたか」


ジークも剣を下ろす。

「また会うな」


誰も否定しなかった。


ベルクは終わっていない。


きっとまた現れる。


でも今は――。


湖だ。


始原泉が静かになっていく。


黒い濁りが薄れる。


透明な水が戻る。


リリが涙ぐんだ。


「……綺麗」


本当に。


初めて見る景色だった。


始原泉は、

朝日を映して輝いていた。


その時。


遠くから水音が響く。


さらさらと。


流れる音。


シオンが耳を澄ます。


そして。


少しだけ目を見開いた。


「……流れた」


オルディスも気づく。


地下水脈。


止まっていた水が動き始めている。


つまり。


ルーメンの井戸へ水が戻る。


ジークが笑った。

「助かったな」


ナギもその場に座り込む。

「終わったぁ……」


レインは空を見上げていた。


穏やかな顔だった。


そして。


シオンを見る。


「ありがとう」


シオンは首を傾げる。

「みんなやった」


レインは笑った。


そういうところだ。


手柄を自分のものにしない。


だから人が集まる。


本人は気づいていないけれど。


その日の夕方。


ルーメンの広場。


人々が集まっていた。


井戸には再び水が湧き始めている。


病人の容態も落ち着いてきた。


まだ終わってはいない。


けれど。


希望は戻った。


そして。


広場の中央に、

一本の木柱が立てられた。


ナギが首を傾げる。

「なにこれ」


職人が笑う。

「街灯だよ」


シオンが瞬きをする。


「街灯」

「夜暗いだろ?」


住民たちが笑う。


誰かが火を入れる。


ぽっ、と明かりが灯る。


小さな光。


でも。


ルーメンにとっては初めての街灯だった。


一人が拍手する。

二人。

三人。


やがて広場中に広がる。


シオンはその光を見上げていた。


暖かい。


綺麗だ。


そして。


少しだけ思う。


この街は。


変われるかもしれない。

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