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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 終盤「灰霧病と壊れた街」

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第二十八話

ルーメンの広場は、人で埋まっていた。

東区の商人。

西区の獣人たち。


職人。

農夫。

老人。

子ども。


皆、不安そうな顔をしている。

無理もない。


病人は増えている。

井戸は枯れた。

原因もわからない。


街全体が、

じわじわと追い詰められていた。


そんな中。

広場の真ん中に立つのは、

まだ十六歳の少女だった。


シオン。

小さな薬屋の薬師。

誰もが、

少し前まで知らなかった名前。


それなのに今は、

皆がその言葉を待っている。


シオンは周囲を見回した。

そして言った。

「まず確認」


静まり返る広場。

「水、あと何日ある?」

誰も答えない。


そこでジークが前へ出る。

「東区は三日」

「西区は二日」


ざわめきが起きる。

短い。

想像以上に短い。


シオンは頷いた。

「思ったよりある」


全員が固まる。

ナギが頭を抱えた。

「言い方!!」

もっと絶望的な数字だと思っていたらしい。


シオンは続ける。

「二日あれば動ける」

「だから今から分ける」


オルディスが興味深そうに見る。

シオンの頭の中では、

もう優先順位が組み上がっていた。


「病人」

「子ども」

「高齢者」

「優先」


短い。

だが合理的だった。


住民たちも少しずつ聞き始める。

パニックになりかけていた空気が、

わずかに落ち着く。


シオンは地面へ簡単な図を書いた。


井戸。

川。

街。

山。


「原因は上流」

「だから別の水探す」


ジークが頷く。

「自警団で調査隊を出す」

「俺も行く」


すると。

リリがおずおずと手を挙げた。

「あの……」


皆が見る。

リリは少し緊張していた。

「陽だまりの段丘の近くに泉がある」


広場がざわつく。

「本当か?」

「う、うん」

「昔エルフが使ってた」


シオンの目が少し輝く。

「案内できる?」


リリは頷いた。

その時だった。


人混みの後ろから声が上がる。

「そんな簡単にいくわけない!」


中年の男だった。

商人らしい。

疲れた顔。


怒りと不安が混じっている。

「水もない!」

「病気もある!」

「薬だって足りない!」

「何をどう直すんだ!」


沈黙。

多くの住民も、

同じ気持ちだった。


シオンは少し考える。

それから答えた。

「全部」


広場が静まる。

男が呆然とする。

「……は?」


「全部直す」

シオンは真顔だった。

冗談じゃない。

本気で言っている。


ナギが小さく笑う。

(出た)

いつものシオンだ。


無理そうなことを、

無理だと思わない。


その時。

レインがふらつきながら前へ出た。

まだ顔色は悪い。

でも。

「……俺も手伝う」


住民たちが振り向く。

知らない少年だった。


シオンが少し驚く。

「休んでて」

「嫌だ」

即答だった。


レインは小さく笑う。

「初めてなんだ」

「誰かが街を助けようとしてるの」


その言葉に、

広場が静かになる。


レインは続ける。

「だから俺もやる」

リリが頷く。

「わ、私も」

ナギも肩をすくめる。

「今さら降りられないし」

ジークが鼻で笑う。

「俺もだな」


そして。

少しずつ。

一人。

また一人。

住民たちが前へ出始めた。


「井戸なら手伝える」

「荷運びできるぞ」

「薬草探しなら任せろ」


シオンはその光景を見ていた。

胸の奥が少し温かい。

まだ街は壊れている。

病気も終わっていない。


ベルクも逃げた。

問題だらけだ。

でも。

今までと違う。


初めて。

ルーメンの人々が、

同じ方向を向き始めていた。


――その夜。

小さな薬屋の机の上で。

シオンは研究所から持ち帰った

『灰霧化進行報告』を開く。


そして。

あるページで手が止まった。

そこに記されていたのは。


【第二実験場 ルーメン地下水脈】


シオンの瞳が細くなる。

「……地下?」

街の本当の問題は、

まだ始まったばかりだった。

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