第二十七話
警鐘は何度も鳴り響いていた。
カン、カン、カン――
朝のルーメンに不安を撒き散らすように。
ナギの表情が引き締まる。
「……まずい」
ジークが街へ戻ってから、
まだそれほど時間は経っていない。
それなのに警鐘。
普通じゃない。
「急ぐ」
シオンは即座に言った。
レインの容態も気になる。
街の患者も気になる。
持ち帰った資料も調べたい。
やることが多すぎた。
「走れる?」
シオンがレインに聞く。
レインは苦笑する。
「……頑張る」
「頑張らなくていい」
シオンは即答した。
「倒れる」
ナギが吹き出す。
「その通りすぎる」
結局、
ナギとオルディスが交代でレインを支えることになった。
そして一行は山を下る。
霧を抜け、
街道へ出る。
やがて。
ルーメンの門が見えた。
だが。
様子がおかしい。
門前に人だかりができている。
怒号。
叫び声。
泣き声。
嫌な予感しかしない。
ジークが住民たちの中心に立っていた。
だが顔色が悪い。
「ジーク!」
ナギが駆け寄る。
ジークは振り向き、
彼らの姿を見るなり安堵した。
「戻ったか」
「何があったの?」
ジークは深く息を吐く。
そして。
「井戸だ」
シオンの目が細くなる。
「汚染?」
「違う」
ジークは首を振った。
「枯れた」
沈黙。
全員が止まる。
「……え?」
ナギが聞き返した。
ジークの声は重かった。
「東区の井戸も」
「西区の井戸も」
「今朝から急に水位が落ちた」
リリが青ざめる。
「そんなこと……」
ルーメンは山水に支えられている。
複数の井戸が同時に枯れるなんて、
普通はありえない。
シオンは静かに考える。
そして。
「上流」
オルディスも頷いた。
「研究所だけじゃなかったか」
誰かが水源そのものに手を加えている。
ベルク。
あるいはその背後にいる組織。
ジークはさらに続けた。
「それだけじゃない」
「病人が増えてる」
「薬が足りない」
「水も足りない」
広場を見れば、
不安そうな住民たちが集まっていた。
東区も。
西区も。
人間も。
獣人も。
今はもう争っている余裕すらない。
生きるための水がないのだから。
シオンは広場を見回した。
不安。
疲労。
焦り。
そして。
助けを求める目。
その瞬間。
シオンの頭の中で、
何かが定まった。
薬だけでは足りない。
病気だけ治しても、
また同じことが起きる。
街そのものを変えなければ。
シオンは静かに言った。
「会議する」
ナギが瞬く。
「会議?」
「うん」
シオンは広場の中央へ歩き出す。
住民たちが道を開く。
ジークも。
オルディスも。
自然と後ろに続く。
シオンは広場を見渡した。
大勢の住民。
疲れた顔。
不安そうな目。
そして。
ルーメンという街。
「水を探す」
「病気を止める」
「薬草園も作る」
広場が静まる。
ナギが思う。
相変わらず説明が足りない。
でも。
なぜか皆、
続きを聞こうとしている。
シオンは真っ直ぐ前を見た。
「街を直す」
短い言葉。
だけど。
それはルーメンで初めて語られた、
未来の話だった。




