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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 名前のない薬屋

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第二十六話

外へ飛び出した直後。

背後で研究所が崩れ落ちた。


轟音。

山全体が震える。


石と黒煙が噴き上がり、

霧の中へ飲み込まれていく。


ナギが地面へ倒れ込む。

「はぁっ……はぁ……」

「もう二度と研究所とか行きたくない……!」


リリも膝をついていた。


オルディスは崩壊を見つめたまま、

険しい顔を崩さない。

「……証拠隠滅か」


シオンは息を整えながら、

鞄を確認する。

記録帳。

灰霧化進行報告。

投与記録。

持ち出せた。


「シオン」

ナギが呆れ顔で言う。

「ほんとに持ってきたんだ……」


シオンは頷く。

「必要」


その横で、

レインが苦しそうに咳き込んだ。

黒い痣が少し広がっている。


シオンの顔が変わる。

「悪化してる」

オルディスもしゃがみ込む。

「……進行が速い」

レインは薄く笑った。

「俺、もう長くないから……」

「喋らない」


シオンが即座に遮る。

レインが少し驚く。

シオンは真剣だった。

「まだ治療してない」


ナギが小さく息を吐く。

その言い方は、

妙に安心する。


絶対助ける、

みたいな強い言葉じゃない。


でも。

“まだ終わってない”

と自然に思わせる声だった。


シオンはレインの痣を観察する。

黒ずみ。

熱。

脈。

そして。

「……抑制できるかも」


オルディスが目を見開く。

「何?」

「完全治療は無理」

「でも進行止められる可能性ある」


レインが呆然とシオンを見る。

「そんなの……王都でも無理だった」

「王都の薬、見せて」


レインは少し迷い、

ポケットから小瓶を取り出した。


黒い液体。

シオンは匂いを嗅ぐ。


表情が変わる。

「強すぎる」

「身体壊して抑えてる」


オルディスも眉をひそめた。

「……劇薬か」


シオンは静かに考える。

頭の中で、

薬草の組み合わせが高速で巡る。


熱を下げる草。

毒を薄める根。

魔力暴走を抑える鉱石粉。


完全じゃない。

でも。

「ルーメンなら作れる」


ナギが瞬きをする。

「え?」


シオンは顔を上げる。

その目に、

もう迷いはなかった。


「薬草園作る」


一同が止まる。

今その話?

という顔だった。


シオンは真面目だった。

「必要な薬草、安定して足りない」

「輸入だと遅い」

「だから街で育てる」


オルディスが思わず笑ってしまう。

「……こんな状況で街づくりの話をするのか」


シオンは首を傾げた。

「必要だから」


ナギが額を押さえる。

「ぶれないなぁ……」


でも。

その言葉を聞いた時。

リリが小さく顔を上げた。


「……薬草園」

エルフの少女の耳が、

ぴくりと動く。

「それなら……」


皆が見る。


リリは少し緊張しながら言った。

「森の奥に、“陽だまりの段丘”があるの」

「昔、薬師たちが使ってた場所」


シオンの目が少し輝く。

「水は?」

「綺麗」

「日当たり」

「いいと思う」


シオンは即答した。

「行きたい」


ナギが笑う。

「切り替え早っ」


でも。

その空気は、

少しだけ明るかった。


絶望だけじゃない。

前へ進む話が、

そこにはあった。


その時。

山の下――。

ルーメンの方角から、

鐘の音が響いた。


カン、カン、カン――

異常事態を知らせる警鐘。

街で何か起きている。

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