第二十四話
――ギィィィィン!!
耳障りな警報音が、
研究所全体へ響き渡る。
赤黒い光が廊下を点滅し始めた。
ナギが顔をしかめる。
「うるさっ!?」
オルディスの表情が変わる。
「……自壊術式」
「は?」
「研究施設を証拠ごと消すための魔法だ!」
リリが青ざめる。
「じ、自爆ってこと!?」
床が大きく揺れた。
天井の石材が崩れ落ちる。
シオンは即座にレインの腕を取る。
「動ける?」
レインは苦しそうに笑った。
「……たぶん無理」
黒い痣は腕だけじゃない。
首元まで広がっている。
かなり衰弱していた。
ナギが舌打ちする。
「背負う!」
そのままレインを担ぎ上げた。
「うわ軽っ……!」
まともに食べていなかったのだろう。
骨みたいに細い。
シオンは研究室を見回す。
散乱した資料。
薬瓶。
記録紙。
そして、
壁際の棚に並ぶ黒い結晶。
「シオン!」
ナギが叫ぶ。
「早く!」
だがシオンは棚へ向かった。
オルディスが目を見開く。
「何をしている!」
「証拠いる」
「今は逃げる方が先だ!」
「両方やる」
真顔だった。
ナギが叫ぶ。
「知ってたけど今じゃない!!」
それでもシオンは止まらない。
机の資料を掴む。
記録帳。
地図。
投与記録。
読めない専門用語も多い。
でも、
持ち帰れば調べられる。
その時。
シオンの目が、
一冊の古びた手記で止まった。
表紙には掠れた文字。
《灰霧化進行報告》
シオンの目が細くなる。
灰霧。
ルーメンを覆う霧と同じ名前。
「……これ」
直感だった。
重要だ。
シオンは迷わず鞄へ入れる。
次の瞬間。
天井が崩れた。
轟音。
石材が落下する。
オルディスが風魔法で弾く。
「限界だ!」
研究所の奥から、
黒い液体が流れ始めていた。
魔力暴走。
施設そのものが崩壊している。
シオンは周囲を見る。
出口まで遠い。
しかも。
「……水」
廊下に流れる黒水。
シオンの顔が険しくなる。
「触っちゃ駄目」
ナギが叫ぶ。
「いや避ける余裕ある!?」
床が崩れ、
黒水が一気に広がる。
オルディスが舌打ちした。
「飛ぶぞ!」
風魔法。
突風が巻き起こる。
ナギとリリの身体が押し出される。
シオンも巻き込まれた。
出口へ向かって走る。
後ろでは研究所が崩れ続けていた。
まるで、
存在そのものを隠そうとしているみたいに。
その時。
レインがナギの背中で、
かすかに呟く。
「……まだ、いる」
シオンが振り返る。
「誰が?」
レインの赤い瞳が、
暗い研究所の奥を見る。
「“先生”」
空気が変わる。
オルディスが低く呟く。
「……責任者か」
その瞬間。
奥の闇で、
誰かの影が揺れた。
白衣。
細い男。
口元だけが、
笑っていた。




