第二十三話
ガキィン!!
硬い音が響く。
ナギの短剣が、
黒い核へ深く突き刺さる。
だが。
「っ……硬っ!!」
核は砕けない。
怪物が絶叫した。
衝撃波のような咆哮。
ナギの身体が吹き飛ばされる。
「ナギ!」
シオンが駆け出す。
怪物は胸を押さえながら暴れていた。
理性が崩れている。
研究室の壁が砕け、
天井が軋む。
このままじゃ、
建物ごと崩れる。
オルディスが叫ぶ。
「核が魔力で保護されている!」
「普通の刃じゃ無理だ!」
シオンはナギを支えながら、
必死に考える。
硬い。
でも、
さっき反応した。
つまり。
「熱……」
オルディスが振り向く。
「何だ」
「急激に熱入った時、核ひび割れた」
オルディスの目が鋭くなる。
理解した。
「温度差か」
シオンは頷く。
「一気に壊せるかも」
ナギが顔をしかめた。
「いや簡単に言うけどどうやって!?」
シオンは薬箱を漁る。
瓶。
粉末。
液体。
残り少ない材料。
その中から、
青い小瓶を取り出した。
オルディスが目を見開く。
「それは……冷却薬剤?」
「試作品」
「試作品!?」
ナギが叫ぶ。
シオンは真顔だった。
「多分いける」
「その“多分”怖いんだけど!?」
怪物が再び突進する。
床が割れる。
オルディスが風障壁を展開。
だが押し切られる。
「長く持たん!」
シオンは小瓶を握り締めた。
「ナギ」
「なに!」
「もう一回近づける?」
ナギは怪物を見る。
怖い。
正直かなり怖い。
でも。
隣を見る。
シオンは震えていた。
怖くないわけじゃない。
それでも前へ出ようとしている。
ナギは小さく笑った。
「……ほんと無茶苦茶」
そして立ち上がる。
「やるよ」
シオンが頷く。
オルディスが障壁を強める。
「三秒だ!」
「十分!」
ナギが走る。
怪物の腕を避け、
壁を蹴り、
再び胸元へ飛び込む。
その瞬間。
シオンが小瓶を投げた。
パリンッ!!
青い液体が核へかかる。
ジュゥゥッ!!
黒い核が凍りつく。
そこへ。
「オルディス!」
「任せろ!」
炎の魔法。
灼熱が一気に叩き込まれた。
急激な温度変化。
核が悲鳴みたいな音を立てる。
ピシッ。
亀裂。
ナギが目を見開く。
「今だぁぁ!!」
全力で短剣を叩き込む。
バギンッ!!
黒い核が砕け散った。
次の瞬間。
怪物の動きが止まる。
静寂。
巨大な身体が、
ゆっくり崩れ落ちた。
地響き。
砂埃。
そして――。
怪物の赤い目から、
すっと光が消えた。
研究室が静まり返る。
誰もしばらく動けない。
荒い息だけが響く。
ナギが床へ座り込む。
「はぁ……っ」
「もうほんと無理……」
オルディスも壁へ手をついた。
「……信じられん」
シオンだけが、
倒れた怪物を見ていた。
その顔はもう、
苦しんでいなかった。
シオンは静かに目を伏せる。
「……終わった」
その時。
後ろで倒れていた少年が、
小さく笑った。
「……すごいな」
掠れた声。
シオンが振り返る。
少年はぼんやり天井を見ながら呟く。
「ほんとに……止めた」
シオンは少年のそばへしゃがみ込む。
「名前は?」
少年は少しだけ迷って、
静かに答えた。
「……レイン」
そしてその瞬間。
研究所の奥から、
警報みたいな音が鳴り響いた。




