第二十二話
天井から砂埃が落ちる。
ゴゴゴゴ……!!
研究所の奥で、
何か巨大なものが動いていた。
リリが悲鳴を飲み込む。
「な、なに……!?」
ナギが即座に短剣を抜いた。
オルディスも杖を構える。
だがシオンは、
倒れている少年を診ていた。
「熱高い」
「脈も速い」
腕の黒い痣は、
まるで血管に沿っているかのように広がっている。
普通の病気じゃない。
シオンの顔が険しくなる。
「……投与痕」
オルディスが目を見開く。
「まさか」
シオンは少年の腕をそっと持ち上げた。
小さな針跡。
何度も刺された痕。
実験体。
その言葉が、
全員の脳裏をよぎる。
少年は苦しそうに息をする。
それでもシオンの袖を掴んだ。
「早く……逃げろ……」
「なんで」
「“失敗作”が……起きる」
その瞬間。
奥の扉が、
内側から吹き飛んだ。
轟音。
木片が飛び散る。
霧のような黒煙の中から、
巨大な影が現れる。
人型だった。
だが明らかに人ではない。
異様に長い腕。
黒く変色した皮膚。
胸元には無数の管が埋め込まれている。
そして、
片目だけが赤く光っていた。
リリが震える。
「……うそ」
オルディスの顔色が変わる。
「生体融合実験……!」
怪物が咆哮する。
耳を裂くような声。
研究所が揺れた。
ナギが前へ出る。
「シオン!下がって!」
だが。
怪物はシオンを見た瞬間、
ぴたりと止まった。
赤い目が揺れる。
まるで、
何かを探しているみたいに。
シオンはじっと怪物を見る。
怖い。
でも。
「……苦しそう」
またそれだった。
ナギが叫ぶ。
「今それ言う!?」
怪物の身体には、
巨大狼と同じ黒い痣が広がっていた。
暴走。
感染。
薬物反応。
シオンの頭の中で、
全部が繋がっていく。
「これ……人間にも使ってる」
オルディスが歯を食いしばる。
「禁術だ……」
その時。
怪物が苦しそうに頭を抱えた。
ガァァァァァ……!!
暴走している。
理性と狂気が混ざっている。
シオンは静かに少年へ聞いた。
「止める方法ある?」
少年は震える唇で呟く。
「核……壊せ……」
「胸……」
怪物が暴れる。
壁が砕ける。
ナギたちは飛び退いた。
ジークがいない。
人数も少ない。
かなり危険だった。
だがシオンは、
怪物の胸を見る。
管の中心。
黒い結晶みたいな塊。
「あれ」
オルディスが頷く。
「魔力核だ」
ナギが短剣を握り直す。
「壊せば終わる?」
「たぶん」
怪物が突進する。
床が砕けた。
オルディスの風魔法が直撃するが、
止まらない。
ナギが横へ飛ぶ。
「硬すぎ!!」
その瞬間。
シオンが薬箱を開いた。
ナギが叫ぶ。
「また何かやる気だ!!」
シオンは真剣だった。
瓶。
粉末。
薬草。
頭の中で、
一瞬で組み立てる。
そして。
「オルディス!」
「何だ!」
「火、出せる?」
エルフの薬師が目を細める。
「……できる」
シオンは小瓶を投げた。
「じゃあこれ燃やして」
オルディスが反射的に魔法を放つ。
次の瞬間。
轟ッ!!
凄まじい閃光が研究室を埋めた。
怪物が絶叫する。
シオンは叫んだ。
「今!」
ナギが走る。
狼獣人の脚力。
一気に怪物の胸元へ飛び込む。
ナギは短剣を、
黒い核へ突き立てた。




