第十三話
広場に、重い沈黙が落ちていた。
東区の住民たちは顔を見合わせる。
西区を責めていた男も言葉を失っていた。
「……同じ川って、どういうことだ」
ジークが低く聞く。
シオンは広場の端にある水路を指差した。
「ルーメンの水、山側から来てる」
「井戸は違っても、水源は同じかもしれない」
東区の男が顔をしかめる。
「そんなの……今まで問題なかった」
「最近雨多かった?」
シオンが聞く。
「あ?」
「川、濁ったりしてない?」
周囲がざわつく。
年配の女性が思い出したように呟いた。
「……確かに、先月の大雨のあとから水が変だったねぇ」
「匂いも少し……」
ナギが目を見開く。
シオンは静かに頷いた。
頭の中で点と点が繋がっていく。
「上流確認したい」
「今からか?」
ジークが呆れた声を出す。
外はもう薄暗い。
山側は危険だ。
魔物も出る。
けれどシオンは真剣だった。
「放置すると広がる」
「子どもと老人から倒れる」
その言葉に広場の空気が変わる。
病気。
それはこの街で誰もが恐れているものだった。
ルーメンは昔、
疫病で大勢死んでいる。
だからこそ、
皆“病”という言葉に敏感だった。
ジークが深く息を吐く。
「……自警団を出す」
ナギが驚く。
「マジ?」
「原因が街全体なら放っとけねぇ」
そう言ってからジークはシオンを見る。
「お前も来るんだろ」
「行く」
即答だった。
ナギが頭を抱える。
「知ってた!!」
リリがおずおずと手を挙げる。
「あ、あの……」
「わたし、山側の薬草道知ってる」
シオンの目が向く。
「案内できる?」
「う、うん」
ナギがリリを見る。
「危ないぞ?」
リリは少しだけ迷って、
それでも頷いた。
「でも……このまま病気増えるの嫌」
その声は小さい。
けれど、
しっかりしていた。
シオンは静かに言う。
「ありがとう」
リリの耳がぴくりと揺れる。
褒められるのに、
まだ慣れていない顔だった。
その時。
広場の端から、
別の声が響いた。
「……馬鹿げてる」
皆が振り向く。
黒いローブを纏った、
細身の男が立っていた。
長い耳。
エルフだ。
冷たい目をしている。
「たかが人間の薬師が
街を救えるとでも?」
空気が張る。
リリの顔が少し強張った。
ジークが眉をひそめる。
「……オルディス」
その目には露骨な不信があった。
「水が原因だと?」
「証拠はあるのか」
シオンは少し考えた。
「まだない」
「なら軽々しく騒ぐな」
「でも病人いる」
「病など昔からある」
ナギが苛立つ。
「おい……!」
だがシオンは、
静かにオルディスを見返した。
「治せるならいい」
空気が止まる。
オルディスの目が細くなる。
「……何だと」
シオンは真顔だった。
「あなたが治せるなら問題ない
でも増えてるから原因探す」
周囲が静まり返る。
ナギは心の中で叫んでいた。
(真正面から行ったぁぁ!?)
オルディスはしばらく黙っていた。
怒るかと思われた。
だが――。
「……面白い」
低い声が漏れる。
「そこまで言うなら見せてもらおう」
エルフの薬師は静かにシオンを睨んだ。
「お前の“診方”をな」




