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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 名前のない薬屋

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第十二話

東区は、西区とは空気が違っていた。


石畳は比較的綺麗で、

建物も崩れていない。


商人や職人が多く暮らす区域だ。


その代わり――。

視線が冷たい。


シオンたちが通るたび、

通行人が足を止める。


特に、

ナギや西区の獣人たちへ向ける目は露骨だった。


「……感じ悪」

ナギが小さく呟く。


ジークは慣れた様子で歩く。


「騒ぐなよ」

「騒いでない」


「顔が怖ぇ」

「元から」

シオンがぽつりと言った。


ナギが睨む。

「シオンまで!?」


でも少し空気が和らいだ。


やがて、

広場のような場所へ出る。


人だかりができていた。


怒鳴り声も聞こえる。


「だから西区の井戸を閉じろって言ってんだ!」

「病気が広がったらどうする!」

「こっちまで巻き込まれる!」


向かい合っているのは、

東区の人間たちと、

西区の獣人たち。


険悪だった。

今にも殴り合いになりそうな空気。


ナギが顔をしかめる。

「最悪……」


その時。


人混みの奥で、

小さな咳が聞こえた。


シオンの目が動く。

広場の端。

木箱にもたれて座る、

若い女性。


顔色が悪い。

呼吸も浅い。

シオンは迷わずそちらへ歩き出した。


「ちょ、シオン!?」

ナギが慌てる。


だがもう遅い。


人混みを抜け、

シオンは女性の前へしゃがみ込んでいた。


周囲がざわつく。


「なんだあいつ」

「人間……?」

「いや薬箱持ってるぞ」


シオンは女性の額へ触れる。

熱い。

かなり。


「水飲んだ?」

女性はぼんやり頷く。


「東区の井戸……」

シオンの表情が少し変わる。


「……ナギ」

「なに」

「東区の井戸、どこ」


空気が静まる。

ジークが目を細めた。

「まさか」


シオンは立ち上がる。

「たぶん東区も汚れてる」


ざわっ、と人々が騒ぐ。

東区の男が怒鳴った。


「ふざけるな!」

「うちの井戸は西区と違う!」


シオンは真顔で答える。


「でもこの人熱ある」

「腹痛も」

「あと脱水」


女性が驚いた顔をする。

図星だった。


シオンは周囲を見る。


人の顔。

咳。

疲労。

肌色。


そして静かに言った。

「……他にもいる」


広場の空気が凍る。

ナギは息を呑んだ。


シオンは、

もう“街”を診ていた。


一人じゃない。

区域でもない。

ルーメン全体を見ている。


ジークが低く聞く。

「原因は」


シオンは短く答えた。


「水」

「たぶん上流」

「……上流?」


シオンは広場の先を見つめる。

霧の向こう。

ルーメンの山側。


「同じ川、使ってる」


その瞬間。


東区と西区、

両方の住民が黙り込んだ。


つまり。


敵は互いじゃない。


街そのものに、

問題が起きている。

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