表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 名前のない薬屋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/119

第十一話

ジークはゆっくりシオンへ近づいた。

重い足音。


周囲の獣人たちが、

自然と道を開ける。


ルーメンの自警団。

つまり、

この街を守る側の人間だ。


その彼が、

じっとシオンを見下ろしている。


「……で?」

ジークが低く言う。


「お前は何者だ」


シオンは少し考えた。


「薬師」

「見りゃわかる」

「元」

「そこも聞いた」


ナギが横で小さく笑う。


ジークは腕を組んだ。

「なんで辺境に来た」


普通なら、

ここで警戒する。


言葉を選ぶ。

でもシオンは違った。


「追い出されたから」


周囲が静まる。

あまりにもあっさり言った。


ジークが片眉を上げる。


「……罪人か?」

「違う」

「じゃあ何した」


シオンは少し悩んだ。

説明が難しい。


「貴族用の薬を、孤児に使った」


沈黙。


風が吹く。

誰もすぐには言葉を返せなかった。


シオンは続ける。


「あと獣人にも配った」

「怒られた」


ナギの目が少し見開かれる。


ジークはしばらく黙っていたが、

やがて鼻で笑った。


「そりゃ追い出されるな」

「うん」


「納得すんな」

ナギが即座に突っ込む。


けれどジークの目が、

少しだけ変わっていた。


試すような視線から、

観察する目へ。


その時だった。


「ジーク兄!」


若い団員が駆け込んでくる。

息を切らしていた。


「東区で揉め事です!」

「またか」


ジークが顔をしかめる。


「今度は?」

「水ですよ」


その言葉に、

西区の空気が変わる。


団員が続ける。


「東区の連中、“西区の井戸が汚れてるせいで病気が広がる”って」

「井戸封鎖しろって騒いでます」


獣人たちの顔色が変わった。


怒り。

不安。

諦め。


いろんな感情が混ざる。


西区は貧民街に近い。

獣人も多い。


だから何かあると、

真っ先に疑われる。


ナギが低く舌打ちした。

「……またそれかよ」


空気が重くなる。


けれど。

シオンだけは、

静かに首を傾げていた。


「でも実際汚れてた」


全員が固まる。


ナギが慌てる。

「ちょ、今それ言う!?」


シオンは真剣だった。

「原因は井戸」

「でも西区だけの問題じゃない」


ジークが目を細める。

「……どういう意味だ」


シオンは立ち上がった。

さっきまで空腹で倒れかけていたのに、

こういう時だけ妙に動く。


「見に行く」

「東区を?」

「うん」


ナギが嫌な予感を覚える。


「……シオン」

「なに」

「たぶん揉めるよ?」

「?」

「人間と獣人で空気悪いから!」


シオンは少し考えた。

それから静かに言う。


「でも病気は種族選ばない」


その場が静まる。


風が吹く。

ジークは数秒シオンを見つめ、

やがて小さく笑った。


「……なるほどな」


その笑みは、

最初より少しだけ柔らかかった。


「行くぞ」

ジークが踵を返す。

「東区だ」


シオンは頷く。

ナギは深いため息を吐いた。

嫌な予感しかしない。


でも――。

少しだけ。

期待もしていた。


この変な薬師なら。


止まっていたルーメンを、

本当に変えてしまうかもしれないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ