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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第6章 「灰降る国」

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第百四話

春風が吹く。


花びらが舞う。


世界樹の根元には。


一面の花畑が広がっていた。


白い花。


青い花。


黄色い花。


季節を忘れたように。


色とりどりの花が咲いている。


ホタルが目を輝かせた。


「きれい……」


アカネも静かに微笑む。


「今はもう、この花は残っていない」


炎竜が目を閉じる。


『虚無が最初に枯らしたのは、この花々だった』


映像の中では。


少女が花を摘んでいた。


若きヴェルグは薬草籠を抱え。


苦笑しながら後を追う。


「また寄り道?」


少女は振り返る。


「違うよ」


「この花ね」


一輪の白い花を持ち上げる。


「傷ついた土でも咲くんだって」


ヴェルグは興味深そうに花を見る。


「強い花なんだな」


少女は首を振る。


「ううん」


優しく花びらを撫でる。


「強いんじゃないよ」


「誰かが諦めなかったから咲けたの」


静寂。


シオンはその言葉を聞いて。


少しだけ笑った。


「いい言葉」


ナギも頷く。


「誰かが諦めない、か……」


映像では。


少女が一本の白い花をヴェルグへ渡していた。


「はい」


「お守り」


ヴェルグは照れくさそうに笑う。


「薬草より効く?」


少女は楽しそうに笑った。


「心にはね」


その笑顔を見て。


今のヴェルグは静かに目を伏せる。


忘れた日はなかった。


千年経っても。


あの日の笑顔だけは。


色褪せなかった。


映像は続く。


二人は花畑の中央に腰を下ろす。


風が吹く。


世界樹の葉が揺れる。


少女が空を見上げる。


「もしね」


「私が先にいなくなったら」


若きヴェルグが慌てる。


「縁起でもないこと言うなよ」


少女は少し困ったように笑う。


「約束して」


「悲しいことがあっても」


「誰かを助ける人でいて」


静寂。


ヴェルグは少し考えたあと。


大きく頷いた。


「ああ」


「約束する」


「ずっと薬師でいる」


その約束を聞いて。


少女は安心したように微笑んだ。


その瞬間だった。


世界樹の診察記録の映像が。


大きく揺らぐ。


花畑に。


一枚の黒い花びらが舞い落ちる。


風が止む。


鳥の声も消える。


炎竜が低く呟いた。


『始まる……』


映像の中で。


少女が胸を押さえた。


「……っ!」


苦しそうに膝をつく。


若きヴェルグの表情が変わる。


「どうした!」


少女の胸元から。


細い黒い線が。


一本だけ。


静かに広がり始めていた。


世界樹の診察記録には。


淡く文字が浮かぶ。


『虚無侵食症 発症』


約束を交わした、その日。


世界は静かに。


終わりへ向かって歩き始めた。

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