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異世界ロボコン

 いよいよ決闘の当日となった。場所は草原。障害物も特になく、車輪走行には最適のフィールドだ。


 「あの、本日はよろしくお願いいたします」

 対戦相手のビアンカが、ご丁寧にあいさつにやってきた。


 「こちらこそ。貴女の魔導甲冑を見るのも本当に楽しみにしていたんですよ」

  彼女は魔導学者だという。この世界で魔導に精通した者が魔導甲冑を改修するとどうなるのか、非常に興味がある。


 両者の魔導甲冑が、草原の真ん中で背中合わせに並ぶ。

 ビアンカが改修したエレイナの魔導甲冑は、予想通り太いケーブルでつながっている。つながる先は例の蒸気機関だ。やはり蒸気機関発電機で来たな。

 しかし腕には異様な形状の、見たことのない武器が握られている。これは一体・・・


 決闘は、互いに十歩、背中合わせに歩いてから開始される。

 「1,2,3」

 互いに一歩ずつ遠ざかる。十歩目で振り返り、機動力を生かして相手機体へ突進するーーー

 これが僕とハイディの作戦だ。


 「7,8,9・・・10!」


 振り返る!

 その瞬間、ハイディ機の頭上に激しい火花が爆ぜ、すさまじい衝撃音とともに頭部の瓶がバシンと吹き飛んだ。


 「何が起きた!?」

 エレイナ機ははるか遠くで、例の見慣れぬ武器を構えていた。あれは・・・


 「レールガンだ・・・!」


 信じられない。僕の世界でも研究中の代物が、目の前にある。これをビアンカが発明したというのか。

 「初手で一点取られるとはね」

 ハイディ機は脚部の車輪を走らせ、激しく蛇行、回避行動に移った。その刹那、エレイナの二射目がハイディ機の肩をかすめていった。


 「もう二射目が撃てるのか!」

 僕が驚愕してつぶやくと、ビアンカは嬉しそうにこちらを振り返った。

 「そうなんです。火薬式の砲と違い、磁力を使った砲なら、装填を工夫することで連射ができるんです」


 この世界にも銃や大砲はある。しかしそのいずれも前装填式の単発砲だ。

 一発撃てば、砲身内を清掃し、火薬と弾を込める必要がある。

 ビアンカはレールガンを開発することで、そのデメリットを克服したんだ。

 そして射程の長い飛び道具は、動くことができないエレイナの魔導甲冑との相性も抜群に良い。


 「距離を取れば不利だ!一気に間合いを詰めるぞ!」

 ハイディは機動性を生かし、三射目を鋭く回避しながらエレイナに肉薄する。


 エレイナの魔導甲冑は剣を構える。近距離戦もこなせるようだが、槍のリーチ分こちらが有利だ。

 

 カキン


 エレイナの剣術は凄まじく、ハイディの槍の一撃は、そのことごとくを剣で弾かれてしまう。


 カキン!カン!


 決定打が出せない中、ハイディは揺さぶりをかけた。巧みな位置取りで、エレイナを発電機から遠ざけるよう誘い出す。

 エレイナ機の最大の弱点、言うまでもなくそれはあのケーブルだ。エレイナはケーブルの届く範囲でなければ戦うことができない。


 ハイディが大きく槍を振りかざす。そしてすれ違いざまに、エレイナ機の右肩の瓶を鮮やかに薙ぎ払った。

 そのままスピードに乗り、通り過ぎるハイディ。その背中はガラ空きだ。しかしそれでいい。エレイナ機はケーブルの限界までおびき出されていた。ハイディの背中を斬ることはできないはずーーー。


 ガシャン


 できないはずだった。しかし、ハイディの左肩の瓶は砕け散った。


 何が起きた?

 エレイナ機は、ケーブルの限界点を超えて踏み込み、ハイディ機を後ろから斬り抜いていた。

 見れば、エレイナを縛るはずのケーブルは抜け落ち、地に転がっている。なら何故エレイナ機は動ける?


 「SMES(超電導磁気エネルギー貯蔵)だ・・・」

 「そういう名前なのですか?ミスリルコイルに磁気エネルギーを蓄え、それを魔力として抽出しているんです」

 ビアンカは満面の笑みで答えた。


 確かに僕は以前、磁力から魔力を生み出すことができると教えた。たったその一言のヒントで、SMESを実用化させてしまったのか。


 超電導材であるミスリルに流した電流は、永遠に流れ続ける。電気抵抗が無いため、いくらでも流すことができる。理論上は無限に近いエネルギーを貯めることができる。

 ・・・合点がいった。あの小さな蒸気機関の発電機程度の電力で、レールガンを撃てるはずがない。つまりは決闘の前からすでに、レールガンのミスリルコイルには磁気エネルギーが貯められていたんだ。


 今の点数は2対1。こちらにはあと一点しか残っていない。


 距離を取ればレールガンが襲い掛かる。こちらに飛び道具がない以上、接近戦を仕掛けるしかない。


 キン!カキン!


 互いの刃先が激しく火花を散らす。


 ハイディが勝負に出た。車輪をフルスロットルで回し、槍を構えてエレイナ機の懐に突進する。

 大きく振りかざした槍が、エレイナの魔導甲冑を貫いたーーー と思った瞬間。


 エレイナの魔導甲冑が上下に分離した? いや、違う!


 エレイナが魔導甲冑のコクピットから飛び出したのだ。

 空を貫いているハイディの槍に、エレイナはまるで枝にとまる小鳥のように、音もなく舞い降りる。


 エレイナはそのまま槍の上を走り上がり、ハイディの魔導甲冑に付けられた最後の瓶を、生身の剣で斬り飛ばした。


 「えええ!? 魔導甲冑で倒してくださいよ!」

 思わず叫んでしまった。

 ロボコンなのに、最後のとどめが肉弾戦になるとは・・・



 かくして、異世界ロボコンの勝敗は決した。

 振り返ると、ビアンカの新技術に圧倒されっぱなしの試合だった。


 「その、足の魔導車輪、いいですね。画期的です」

 ビアンカは僕の作った車輪走行装置まじまじと眺めている。そう評価してくれるか。


 「自分でもそう思ってたんですけどねぇ・・・ そちらのレールガンとSMES、すごいじゃないですか。エレイナの弱点をすべて克服してしまった」

 「同志ヒラガのアイディアのおかげです。最近魔導の研究も行き詰っていて、本当に助かりました」


 そう、初めて出会った時から、ずっと引っかかっていた。

 「その、同志というのは何です?」


 「私たちは仲間をそう呼ぶのです。私は、平民でも扱える魔導を研究しています。そして私たちは、貴族、平民、奴隷の身分差を無くす革命軍”レベリオン連盟”なのです」



 背筋に冷たいものが走った。あきれるのを通り越して、自分の軽率さに戦慄した。

 つまりは僕は、楽しい楽しいロボコンで、国家の転覆を目論むテロ組織に多大な技術供与をしてしまったというわけだ。


 この決闘で、蒸気機関発電機とレールガン、SMESが発明されてしまった。

 革命軍は火薬式に変わる新兵器レールガンを手に入れることになる。平民でも扱える、強力な魔導兵器だ。

 魔導自動車もSMESと超電導モーターにより、飛躍的に性能を高めるだろう。

 そしてそれによって強化された平民による革命軍が、貴族軍を襲うことになるだろう。


 「ビアンカは、貴族を倒すために研究をされているのですか?」

 「そうなってしまうかもしれませんね・・・ でも私は、みんなが魔力を扱うことができるようになるのは悪いことではないと思っています。えっと、きっとより良い生活につながるのではと・・・」


 ビアンカの言葉には迷いが感じられた。

 エンジニアとして、迷いの意味は分かる気がした。


 自身の知的好奇心に抗うことはできない。それによって生み出されたものは、人を生かすこともできるし、殺めることもできるだろう。

 それでも、生み出すことをやめることができない。無責任ながら、あとは平和利用されることを願うだけなのだ。


 遠くでエレイナは、自身の魔導甲冑を眺めていた。心なしかその表情には、不敵な笑みが浮かんでいるように、僕には見えた。



 ともあれ、様々な欲望の渦巻いたロボコンは終わった。

 「敗者のハイディには、風呂で背中でも流してもらおうか」


 敗者であるはずのハイディの願望は、図らずもかなってしまった。

 この戦いで最も平和的な誤算であった。



 ビアンカが滞在して一月にもなる。本来ここまで長く滞在する予定はなかったが、ロボコンに夢中になっていたら、季節が移り替わるほどの時間が過ぎていた。


 結局、彼女と技術的情報交換をする時間はあまりとれなかった。ロボコンの敵陣同士だったため、食事以外で会うことすらなかった。


 「同志ヒラガとはもっといろいろなお話ができるとよかったのですが・・・」

 彼女も同じ思いでいてくれたようだ。一体次はいつ会えるのだろうか・・・


 「ヒラガよ 君もビアンカに付いて行くがよい」


 エレイナから思いもしなかった出張の要請が来た。

 「よろしいのですか? 僕には魔導甲冑の改修の任務が振られるとばかり思っていましたが」

 「すべての甲冑に魔導車輪とレールガンを装備したいのだろう? それぐらいなら君が今まで助手代わりに使っていた兵士たちにでも出来よう」


 ビアンカの方を向くと、彼女は満面の笑みで答えた。

 「そ、それがいいですよ。私の住む町”レベリオンブルク”には鉄鋼や化学等の様々な職人が居ます。きっと、同志ヒラガが作りたい物も形にできるはずですよ」


 なるほど。あの蒸気機関を生み出した街か。

 精密機械加工や化学薬品の扱いに長けた職人が居るとなれば、工作の幅はぐっと広がるぞ。


 「興味深いですね。きっと新しいものも作り出せると思います。ぜひ行かせてください」

 僕はエレイナのこの提案に乗ることにした。この出張にはエレイナの裏のたくらみがあるのかもしれない。いや、きっとある。しかし、レベリオンブルクの職人たちという好奇心に抗うことができなかった。

 この世界に来て、作りたくても作れなかったものは山ほどある。


 「君の活躍には、私も興味津々だよ。それとこれも頼まれてくれ。レベリオン総監への密書だ」

 早速姫騎士様の策謀の種を渡されてしまった。いったいこの小さな種は、どんな巨大な策謀へと育つのやら。


 こうして、往路ビアンカが蒸気機関を積んできた魔導自動車に、復路は超電導モーターと僕を積み込み、レベリオンブルクに向けて出発した。


 魔導自動車は、現代日本の自動車と比べると非常に遅い。加えて道も舗装されているわけではないため、せいぜい2,30km/h程度の速度だ。

 途中の村で幾度か休憩と魔力の補給を行い、翌早朝にはレベリオンブルクに到着した。


 「ご苦労様です。同志」

 門番に通してもらうと、城壁の中には見渡す限りの麦畑が広がっていた。

 しばらく走ると、また城壁と門だ。さすが革命軍の本拠地、まるで・・・いや、正真正銘の要塞都市だ。


 二つ目の門をくぐると、景色は一変した。

 曲がりくねった石畳の道。

 所狭しと並ぶ商店や工場。

 いたるところから立ち上がる、蒸気と煙。


 「産業と労働者の街 レベリオンブルクへようこそ。同志ヒラガ」

 ビアンカは笑顔で僕にそう言った。

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