第13話 神殺しの怒りを喰らえ! 神剣の威光に平伏す騎士隊と、涙の一刀両断
「ガルド様が……殺された……?」
街の大通りを埋め尽くす騎士たちの残虐な高笑い。その最前線で、騎士隊長が血のついた自らの剣を誇らしげに掲げ、イゾルフたちを見下していた。
「そうだ! あの分からず屋のジジイは領主様に見苦しく命乞いをしながら、惨めに首を叩き切られたわ! ガルドの二の舞になりたくねえなら、さっさとその宝剣を引き渡しやがれ! さあどうした、クソ職人ども! 怖気づいて声も出ねえか、ヒヒッ!」
「ガルド様を……よくも……よくもガルド様をぉぉっ!」
鍛冶師たちの間から、獣のような激しい怒号が上がった。長年自分たちを導き、父親のように温かく見守ってくれた老ギルド長。
その尊い命が、目の前の腐れ騎士どもの下劣な強欲によって奪われたのだ。職人たちが手に手を取った鉄パイプや打槌を握りしめ、血走った目で前に出ようとする。
だが――その誰よりも深く、激しい感情に打ちのめされていたのは、イゾルフだった。
(僕のせいだ……。僕がこの街にやって来て、天之尾羽張様をギルド長に見せたから……。僕を守るために、ガルド様は命を懸けて本部の命令すら突っぱねて……!)
胸をかき乱すのは、狂おしいほどの悲しみと自責の念。目からボロボロと溢れ出す大粒の涙が、地面の土を黒く染めていく。イゾルフの指先が、悲痛な震えとともに天之尾羽張の柄へと伸びた。
その瞬間――イゾルフの脳内、そして空間そのものを揺るがすように、かつてないほど強烈な神威の怒りが爆発した。
『……許さぬ』
地獄の底から響くような、絶対的な破壊の意志。
毎日朝と晩、誰よりも純粋な敬意と祈りを捧げてくれたあの老職人。天之尾羽張にとって、ガルドは己を正しく崇める至高の使徒であった。
その使徒を泥足で踏みにじり、命を奪った卑劣な豚ども。神剣の自尊心と怒りが、限界を超えて燃え盛る。
『我が使徒の血を流せし愚者どもめ……万死に値する!!』
「ハッ! 何だその死人みたいな面は! 泣いて許しがもらえるとでも思ってんのか、ガキが!」
騎士隊長が下品に唾を吐き捨てる。集まった騎士隊の数は二十名。一人残らず完全武装を施し、この街で彼らの権力と圧力に逆らえる者など存在するはずもなかった。二十人の威圧がイゾルフに重くのしかかる。
しかし、イゾルフは二十人の圧力をまるで感じていないかのように軽々と受け流し、静かに一歩前へ出た。涙で濡れた瞳には、凍てつくような殺意だけが宿っている。
「俺がイゾルフだ。……そしてお前たちが探している神剣はここにある。天之尾羽張様だ!」
シャリィィィン……!!
イゾルフの手によって、天之尾羽張が鞘から解き放たれた。
その瞬間、緋緋色金の刀身が眩いばかりの神光を放ち、周囲の空気が重密な神威によって支配された。
「イゾルフ! ダメだ、一人で行くな! 俺たちも戦う!」
副ギルド長や鍛冶師たちが、イゾルフを守ろうと叫びながら前に出ようとする。しかし、イゾルフの背後から放たれた天之尾羽張の絶対的な威圧が、職人たちの足をその場に縫い付けた。
『我に任せよ! 我が威光を汚せし雑種どもに、神の裁きを下す!』
鍛冶師たちの脳裏に直接響き渡る、神剣の厳かな声。職人たちは息をのみ、その神聖なる威圧に震え上がった。
一方、威圧の意味すら理解できない愚かな騎士たちは、相変わらず下品な笑みを浮かべていた。
「へっ! 鍛冶師風情が、剣の一本抜いたくらいで俺たちに勝て――」
最前線にいた騎士の一人が、嘲笑を浮かべながら剣を抜き、イゾルフへ飛びかかろうとした。
だが、そのセリフが最後まで紡がれることはなかった。
――サクッ。
「……え?」
声にならない音。イゾルフが動いたようには見えなかった。
ただ、騎士の首が滑らかな切り口を残して胴体からすぽんと落ち、遅れて真っ赤な血柱が勢いよく立ち上った。
「「「…………っ!?」」」
静寂。残り十九人の騎士たちが、何が起きたのか理解できずに口を滑稽に開けたまま唖然と立ち尽くす。
イゾルフの姿が、揺らめく影のように掻き消えた。
次の瞬間、イゾルフは騎士たちの間を、まるで流れる水のように滑らかに、そして美しく駆け抜けていた。
赤く光る天之尾羽張の刃文が、一瞬だけ残像を描く。
ドシャッ! ドサリ! ズザアッ!
イゾルフが通り過ぎた背後で、次々と首を失った騎士たちの胴体が、血の海の中に崩れ落ちていく。鎧が重苦しい金属音を立てて倒れるたび、惨劇の規模が跳ね上がっていく。
ほんの数秒の出来事であった。
「……残り、十人」
イゾルフの低く、冷え切った声が路地に響く。
手に持った天之尾羽張には、一滴の血すら付着していない。究極の切れ味が、切られたことすら金属に伝えていないのだ。
残り十人となった騎士たちは、全員が剣を抜いて身構えてはいた。しかし、その膝はガクガクと小刻みに震え、顔面は蒼白となり、滝のような冷や汗が全身から噴き出していた。
「き、貴様……っ! こ、こんな暴挙をして、ただで済むと思うなよ……! 領主様と王国が黙っちゃ――」
ガシャリ。
言い切る前に、その騎士の首が空気の刃に削ぎ落とすかのように飛んだ。
「ひ、ひえぇぇぇぇっ!?」
「化け物! 化け物だあぁぁぁッ!」
先ほどまで「クソ職人」「身の程を知れ」と威張り散らしていた重装騎士たちが、なりふり構わず武器を投げ捨て、股間を濡らしながら逃げ出し始めた。
下劣なプライドも、領主への忠誠も一瞬で吹き飛び、ただの醜い生への執着だけが彼らを動かしていた。
「逃がさない……ガルド様の無念を、お前たちの血で洗う……!」
イゾルフは怒りと悲しみに瞳を濡らしたまま、脱兎の如く逃げる騎士たちの背後を追い、機械的な正確さでその首を跳ねていく。刃が走るたび、下劣な悪党どもが悲鳴を上げて転がり、死体の山が築かれていった。
「イゾルフ! 天之尾羽張様! もう……もう十分です! 行きましょう!」
副ギルド長の切羽詰まった叫び声が、路地に響き渡った。
「こんな腐りきった街に、これ以上留まる必要はありません! 一刻も早く出ていきましょう!」
副ギルド長の声に、イゾルフの手がピタリと止まった。
最後の一人の騎士が泣き叫びながら街の奥へと逃げていくのを、イゾルフは冷めた目で見送る。そして、刃を静かに鞘へと収めた。
イゾルフはゆっくりと振り向いた。その顔は、ガルドを失った絶望と悲しみでぐしゃぐしゃに歪んでいた。涙が溢れて止まらない。
「ガルド様……ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
「イゾルフ、お前のせいじゃない。ガルド様は……最後まで職人の誇りを守り抜かれたんだ」
副ギルド長がイゾルフの肩を優しく抱き寄せ、周りの鍛冶師たちもまた、ボロボロと涙を流しながらイゾルフを囲んだ。
職人たちは手早く荷物を纏め、ガルドが最期まで守り抜いた誇りと神剣を抱き、死屍累々となった惨劇の街を後にした。
残されたのは、首を失った騎士たちの悲惨な死体と、やがて訪れる鍛冶師不在による街の完全な壊滅という、惨めな未来だけであった。




