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断罪の鍛冶師 〜異世界の神剣と断罪の鉄鎚〜  作者: ボルトコボルト


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第12話 愚かな領主の惨めな悪あがき――血に染まる誇りと、迫り来る壊滅の足音

「領主様! 大変にございます! あの鍛冶師の老いぼれどもが、とんでもない暴挙に出ようとしております!」


 息を荒らげ、汗と油でドロドロになった顔を歪めて領主の執務室へ飛び込んできたのは、衛兵隊長であった。


 豪華な革張りの椅子に深々と腰掛け、肥満した手で高級な干し肉を口に運んでいた領主は、不機嫌そうに眉をひそめた。


 この領主もまた、衛兵隊長と同類……いや、それ以上に欲深く性根の腐りきった男だ。裏で衛兵隊長を子飼いにし、貧しい領民から重税を絞り上げ、悪逆の限りを尽くしてきた悪徳貴族である。


「騒々しいぞ。なんだ、あの鍛冶師のガキ一人と宝剣を回収するだけの簡単な仕事すら仕損じたというのか?」


「そ、それが……! 鍛冶師ギルド長のガルドの奴が、この街から鍛冶師ギルドを完全に撤退させると言い放ったのです! しかも、本部のドワルドからの命令だと嘘を吐きおって!」


 衛兵隊長から報告を聞いた領主は、最初は苦虫を噛み潰したような顔をした。だが、欲深きその脳みそで思考を巡らせるうちに、口元にねっとりとした下品な笑みを浮かべ始めた。


「……ククク、おかしいと思わんか? たかが平の鍛冶師一人の身柄と剣一振りで、ギルド全権を投げ打って撤退だと? 普通なら下っ端のガキなど蜥蜴の尻尾切りで差し出せば済む話だ。それを老いぼれどもが死守しようとしている……」


 領主は立ち上がり、肥満した体を揺らしながら部屋を歩き回った。その目は醜悪な猜疑心と強欲さにギラついていた。


「間違いない……あのガルドめ、相当な価値を持つ国宝級の宝剣を隠匿しておるのだ! 本部の許可などというものは、ハッタリに決まっている! あの頑固で利に聡い本部のドワルドが、一地方の街からギルドを引き揚げるなど承諾するはずがないのだからな!」


「な、なるほど! さすがは領主様! あのジジイ、我らを脅すために出任せを言ったのですな!」


「ハッハッハ! 見え透いた浅知恵よ! よし、騎士隊を動かすぞ。そのハッタリを暴き、宝剣もろとも奪い取ってやる!」


 領主はすぐに子飼いの騎士たちを呼び寄せた。この騎士たちもまた、領主の威光を傘に着て威張り散らす下劣なならず者の集まりである。


「おい、お前たち! 鍛冶師ギルドへ向かい、ギルド長のガルドを引きずってこい! 犯行に使われた証拠品の宝剣を伴ってな!」


 ◇◇


 重厚な鎧の音を響かせ、鍛冶師ギルドの門をくぐったのは、威張り散らした態度で腰の剣をガチャつかせる数人の騎士たちだった。


「おい、ガルド! 領主様がお前をご指名だ! 神妙に面を上げて連行されろ!」


 隊長格の騎士が上から目線で言い放ち、汚い手でガルドの首の根っこを引っつかんだ。高飛車で横暴な振る舞いに、周りの鍛冶師たちが怒りの声を上げるが、騎士たちは剣の柄を叩いて威嚇する。


「黙れ、クソ職人ども! 領主様の命令に背けば反逆罪だぞ! おいガルド、あの宝剣を出せ! 証拠品として領主館へ持参するのだ!」


「断る。あれは我がギルドの至宝にして神聖なる存在。お前たちのような汚らわしい豚どもに触れさせるわけにはいかん」


 ガルドの毅然とした拒絶に、騎士は顔を真っ赤にしてガルドの顔面を平手で殴りつけた。ガルドは口端から血を流しながらも、一切屈する目を見せない。天之尾羽張を持参することだけは頑なに拒み続けた。


 連行される直前、ガルドは陰から見守っていた本部の極秘諜報員へ向けて、悟ったような目配せを送った。


(頼んだぞ……ドワルド様に報告を。そして……)


 ガルドは副ギルド長を振り返り、力強い声で叫んだ。


「副ギルド長! 私の帰りを待つな! 今すぐに準備を整え、全鍛冶師を引き連れてこの街から撤退を開始しろ! 一つ残らず工房を空にするのだ!」


「ガルド様……! 了解いたしました!」


「ちっ、口減らずのジジイが! 大人しく来い!」

 騎士たちは無理やりガルドを押し飛ばすようにして、領主の館へと連れ去っていった。


 ◇◇


 領主館の冷たい石造りの大広間。


 ガルドは騎士たちに膝裏を蹴られ、床に押し付けられていた。目の前の豪華な椅子には、醜く口元を歪めた領主が座っている。


「さあ、ガルド。無駄なあがきはやめろ。あの宝剣はどこに隠した? どこから盗んできた代物だ? 正直に吐けば、命だけは助けてやらんこともないぞ?」


 領主の執拗で下品な尋問。しかし、ガルドは床に伏せたまま、ククッと鼻で笑った。


「無駄なのはお前の方だ、愚かな領主よ。私が口を割るとでも思っていたのか?」


「なに……!?」

「宝剣などという俗な物ではない。あれは我が鍛冶師たちの『神』だ。お前のような強欲で薄汚い豚に渡すくらいなら、この命など安いものだ」


 ガルドは膝を折りながらも顔を跳ね上げ、鋭い眼光で領主を睨みつけた。


「それに……遅かったな。すでに我がギルドはこの街からの撤退を開始している。お前たちの腐りきった街など、今日限りで見捨ててやるわ!」


「ハッ! 強がりを抜かすな! 本部のドワルドがそのような勝手な撤退を許すはずがないだろうが!」

 領主が嘲笑うと、ガルドは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、騎士の手を振り払って領主の足元へ投げつけた。


「ならば自分のその腐った目で確かめるがいい! これこそが、本部のドワルド様直筆の撤退許可証、いや、撤退命令書だ!」


 領主は眉をひそめ、足元の紙を拾い上げて目を通した。


 そこに記されていたのは、紛れもない鍛冶師ギルド本部の絶対印章と、ドワルドの荒々しくも格式高い署名。そして、この街に対する容赦のない絶縁の宣告であった。


『天之尾羽張様を脅かす愚者どもの街から、直ちに全職人を引き揚げさせよ。以後、当該領地への武具の供給、修理、鉄の輸出入を一切禁止する』


「な……なに……!? ほ、本当に本部の許可が……!? ドワルド直々の命令だと……!?」


 領主の顔から、一瞬で余裕が消え去った。脂汗が滝のように噴き出し、血の気が引いて真っ白になる。


 鍛冶師が一人残らず消え、本部から絶縁されればどうなるか。兵士の武器は錆びつき、冒険者は去り、領地の経済と防衛は完全に崩壊する。国王からの問責は免れず、領主一族の処刑すらあり得る絶望的な未来。


 その動転し、怯え切った領主の無様な姿を見て、ガルドは口の端から血を流しながら、心の底からの嘲笑を浮かべた。


「ふははは! ざまあみろ、愚か者め! 自分の強欲さに目を眩ませ、神の逆鱗に触れたのだ! お前の領地は今日この瞬間から終わりだ! 指を咥えて崩壊していく街を見ているがいい!」


「黙れえええぇぇッ!!」


 完璧な『ざまあ』を叩きつけられた領主は、恥辱と恐怖で狂乱した。


「このクソジジイがぁぁッ! 騎士ども、そいつを殺せ! ぶち殺せえぇぇッ!」


「はッ!」

 騎士たちが一斉に長剣を抜き放ち、ガルドへ襲いかかった。


「おのれ悪党どもがッ!」

 ガルドは近くの騎士の腕を掴み、長年の槌振りで鍛えた怪力で投げ飛ばそうと抵抗した。しかし、丸腰の老鍛冶師一人に対し、甲冑をまとった複数の騎士。多勢に無勢であった。


 ズスッ! ガシャアン!


「がはっ……!」

 背後から惨酷な刃が突き刺さり、ガルドの胴体を貫いた。


 ガルドはひざまずき、床に血の海を作りながらも、最期まで領主を冷ややかに睨みつけた。


「……神の天罰が……お前たちに……下るぞ……」


 老鍛冶師は、誇りを胸に抱いたまま息絶えた。


 ガルドの死体を踏みつけながら、領主はガタガタと全身を震わせて叫んだ。


「ひぃ……ひぃ……焦るな! まだ間に合う! 鍛冶師どもを一人たりとも街から出すな! 拘束しろ! 奴らを奴隷にしてでも鉄を打たせるのだ!」


 狂気にとり憑かれた領主は、騎士隊全軍に鍛冶師ギルドの強襲と、職人たちの武力拘束を命じた。


 ◇◇


 ギルド長ガルドの遺志を受け継ぎ、手早く荷物をまとめた鍛冶師たちが、街の門に向かって移動を開始していたその時であった。


「待てぇぁぁッ! 反逆者ども!」


 街の大通りを覆い尽くすような鎧の重厚な足音とともに、武器を露わにした騎士隊がなだれ込んできた。彼らは逃げ出そうとする鍛冶師たちの前方に立ち塞がり、包囲網を形成する。


 騎士隊長は血のついた自らの剣を掲げ、下劣なニヤケ顔で言い放った。


「無駄だクソ職人ども! お前たちの崇めるギルド長ガルドは、領主様に不敬を働いた罪でたった今、みじめに首を跳ねられて死んだわ!」


「「「な……なんだと……!?」」」


 鍛冶師たちに絶望と衝撃が走る。


 騎士隊長はガハハと汚い高笑いを響かせながら、剣先をイゾルフと職人たちへ向けた。


「ガルドの二の舞になりたくねえなら、さっさとその宝剣を引き渡しやがれ! 渡さねえってんなら、お前ら全員の足を叩き折って、一生地下の工房で奴隷として鉄を打たせてやる! おい野郎ども、かかれぇッ!」


 最悪の惨劇と、老鍛冶師の死。


 しかし、騎士たちの残虐な高笑いが響き渡る中、イゾルフの背後で静かに静観していた『ある存在』が、絶対的な神威の怒りを爆発させようとしていた。

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