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3.8.19 - 花言葉


 食事を終えても、雨は降り続けていた。


 夜は深まるが、焚火の周囲は暖かい。

 クラゲとコユルギが、マントの上に腰かけて、小声で談笑している。


 アルクは剣を鞘から抜いて、手入れをしていた。

 オレにもやり方を教えてくれと、そこに近寄り腰を下ろした。


 アルクに聞くと、別段、たいしたことはしていなかった。


「焚火の近くで布で拭きながら、湿気を飛ばしているだけですよ」


 オレも真似て、剣を抜く。

 そういえば、この剣を抜いたのは、初めてだった。


 剣の学識は全く無いが、それでも分かる白く輝く美しい剣だ。

 安物の剣ではないだろう。


 幅の狭い両刃の剣。


 柄元は指2本程度の幅。

 そこから少しづつその面積が絞られていく。

 端は鋭く尖り、焚火の灯りを切り落とすようにチラチラと反射させていた。


 全長は1メートルも無く、刃渡りは80センチくらいだろうか。

 重さは1キロを遙かに下回っているだろう。

 細く脆そうな印象を受けるが、軽くて扱い易そうな剣だった。


 武骨なクロスガードの柄には、逆さのチューリップの意匠。

 銘は確か……サンダーソニアだったか。


 アルクに名前の由来を尋ねると、サンダーは雷ではなく「引き裂く」という意味らしい。

 ソニアは「知恵」。

 力を否定し、戦術と技を求めるその銘は、この剣によく似合っているように感じる。


「つまり、この剣は、賢く引き裂くということか」


「そうですね。銘が体を表す名剣です。

 しかし……厳密には違います。

 サンダーソニアは……」



 思ったままを言ってみたが、違うようだ。

 2つが合わさることで、別の意味になるのか?


「今は、秘密です」


 教えてくれなかった。

 言い終わると、焚火を離れ、幹に寄りかかり目を閉じてしまった。


 まぁいい。

 思い出したとき、未希かまゆに聞いてみよう。


 オレが、目指すエレメント・ノードは知恵。

 剣を使いこなす自信は皆無だが。

 扉を開けるのに相応しい銘だ。



 サンダーソニアを鞘に戻す。

 すると今度は、シチリが歩み寄り、隣りに腰かけた。


 乾いた小枝をくべながら、シチリがオレに話しかけた。


「いよいよ明日、カタセ村ですね」

「そうだな。シチリは40年ぶり……だったか」


「ええ……そうです。まさか、あの村に戻る日が来るなんて」


「シチリの両親はどうした」


「私が15歳のときに……まだカタセ村にいたときです」


「そうか」


「それから、私はスピカの街へと移り、16歳で結婚しました」


「ニシカタとは、どういう幼馴染だったんだ?」

「ふふ……実は私の初恋の相手なんですよ」


 シチリのはにかむ笑顔。


「最後、お別れするとき……

 また逢おうねとは言いませんでした。

 もう逢えないと思っていましたから」



 シチリが視線を流し、クラゲと談笑するコユルギを眺める。


「夫は役場の要職についていましたので、

 生活にも不自由のない、幸せな日々でした。

 それから、すぐに男の子が生まれて……

 20年経って、コユルギが生まれて……」



 それから、また暗い顔をして、はぁ……とため息をついた。


「夫は15年前に病気で亡くなりました」


 視線をコユルギから外し、焚火に向けた。


「息子が成人して後を継いだんですけどね。

 その頃から借りてるお金も、返せなくなって。

 気が付いたら、

 コユルギだけを残して、

 ぜんぶ亡くしていました」



 焚き火がオレと一緒に、パチパチと相槌を打っている。


「あの街には……

 夫と、息子と、可愛らしいお嫁さん。

 家族みんなで過ごした思い出。

 それと3人のお墓があります。

 だから離れたくありませんでした。


 でもね……

 あのまま街にしがみついても……


 私が残りの人生を我慢しても、

 コユルギの未来がありません。

 だから、前を向くことにしたんです」



 言いながら、シチリの顔に笑みが戻る。


「あっ……でも……コユルギのため……っていうのはウソかも」


「ん? 本当はなんだ」


「コユルギが付けてる、あのブローチ。あれは……カタセ村を出る日に、ニシカタ君から貰ったものなんですよ」


 言いながら、シチリが、コユルギのブローチに目を向ける。


「あれはね……ダイヤモンドリリーっていうお花なんです。ご存じですか? 花言葉?」


「いや、すまん。おれは無学だ」

「うっふふっ……ニシカタ君は知ってるのかなぁ……知っててあのブローチを、私に持たせたのか、それを知りたいんです」


「花言葉はなんだ?」


 シチリが、皺だらけの手で、薪木を掴み、焚火に投げ入れた。

 オレの質問には答えずに、笑顔を作りながら、話を続けた。


「本当はずっと隠していたんです。

 スピカでの生活を続けていくために。


 ずっと……思っていました。

 40年前のあの日……

 また逢おうねって、

 言って欲しかった。


 だから、ニシカタ君に会って、言ってやるんです」


 残酷な日々を乗り越えて、前を向き直した女性の横顔。

 それは、どこの世界でも同じだった。

 強く、美しい。



「また、逢いに来てやったぞって」







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