3.8.18
カタセ村への旅を始めて、3日目の夕方。
オレ達5人は、ボーテス村に到着した。
さすがに5人は多い。
今回は、シチリとコユルギの2人を、クラゲの知人宅に泊めてもらうことにした。
シチリは、私達こそ外で構わないと言ったが、それを断固拒否したのは、意外にもアルクだった。
「旅路で女性を優先するのは、紳士の義務であり名誉です」
などと言う。
オレ達は、夕食だけ民家のリビングを間借りし、食事の時間を共にした。
そのあと男3人は、家畜小屋で寝た。
家畜小屋は、とても暖かく、とても臭かった。
クラゲはすぐにイビキをかき、アルクも静かに寝息をたてている。
だが、オレは寝付けなかった。
あまりの臭さ。
そして、ときおり動きだす家畜の騒音。
とても寝られたものではない。
ログアウトしようかとも考えたがヤメた。
家畜小屋の外で眠れば良いだけだ。
外へ出て、近くの木の根元へと場所を変える。
そこでマントに包まって眠った。
翌日。
早朝のうちに食糧の調達を済ませ、朝が終わる頃に旅を再開した。
ボーテス村を離れてからも、旅は順調だった。
しかし、異変を最初に予言したのはクラゲだった。
ボーテス村を出て3日目。
明日にはカタセ村へ着く予定の朝だった。
その時、クラゲが言った。
「雨が降りそうだ」
空は青々と晴れていた。
オレにはいつもと変わらないように見える。
「なんだろうなぁ……これは勘じゃねぇ。予兆だ」
「なんですか、それは動物的なやつですか?」
「空気の重さっていうのかな……これを感じると、数時間以内に雨になる」
気圧の変化でも感じたのだろうか。
そしてその日。
昼頃から曇りだし、午後には雨が降り出した。
最初は、ぽつりと。
だが、時間を置かずして、少し強めの本降りの雨となった。
オレにとっては、ニフィル・ロードで経験する、初めての雨だった。
「よし、おれにまかせろ」
クラゲが言い放ち、オレ達を先導した。
オレは少し不安だったが、アルクは何も言わず、クラゲの後に従った。
シチリは、寒そうに震えるコユルギを自分のマントに入れ、身を寄せて歩いていた。
クラゲは、林の方へとオレ達を導いた。
ポプラや松の林を無視して進んでいく。
そこを過ぎると、こんどはブナやカバの木が乱立する森の近くを歩いていた。
雨宿りするのにも、充分な枝葉に見える。
しかし、クラゲはそれも無視して先を進んだ。
雨に打たれながら、さらに歩き続ける。
最初は雨水を弾いていたマントも、ぐっしょりと水を吸い込み、何倍もの重さになっている。
暖かさは微塵もなく、冷たくて重い。
濡れた毛布を背負って歩くような不快さ。
そして、夕方に差し掛かる少し前。
「あったぞ。今夜のおれ達の宿だ」
クラゲが指さす先。
森から少し離れた場所。
仲間外れにされたように、もっさりと枝葉を広げたブナの木だった。
邪魔されることなく孤独に育った1本のブナが、思う存分、枝を広げていた。
「店員もいなけりゃ、ベッドも無いが、宿泊代は無料だ。あっはは」
クラゲを先頭に、ブナの木の下へ。
幾重にも広がった枝葉の下に雨は入らず、根元の土は、乾いていた。
クラゲが、枝葉を見上げながらブナの木を一周し、シチリとコユルギを一番太い枝の下へと誘導した。
そして、右手をくるくると回し、地面の上で大げさにお辞儀をした。
「ご婦人方。こちらがこの宿のスイートルームでございます」
言い終わると、マントを外し、バサバサと水滴を落とす。
そして、マントを裏返して地面に敷くと、再び右手を広げて「さぁどうぞ」とひと言。
オレもアルクも、思わず吹き出してしまった。
見栄を張ることもしない。
卑屈になることも、虚勢を張ることもない。
クラゲはただ、おちゃらけて見せただけだ。
それが、クラゲという男。
先ほどまで寒さに震えていたコユルギまでが、軽く握った手で口を隠して、クスクスと笑っていた。
このどうにもならない雨の中で、オレ達の心に暖かさが戻っていた。
オレも、濡れていない根元に荷物を降ろす。
この日の野営のリーダーは、必然的にクラゲになった。
クラゲが、オレとアルクに指示を出す。
「おれぁ、森で食えるもんを探してくる。
2人は太めの薪木を何本か集めてくれねぇか。多少は濡れててもいいからよ」
「ああ、わかったよ」
クラゲに言われて、森へと入り薪木を集める。
落ちている枝は大半が濡れていた。
乾いている枝はマントに包んで運ぶが、それでも少し濡れてしまう。
クラゲは、キノコやベリーを森から持ち帰った。
それから、腕の太さほどある太い枝をガリガリと削り始める。
すると枝の中心は、湿り気も無く充分に乾燥していた。
少し掘った穴に、湿り気の少ない薪木を積上げる。
そしてクラゲは、火打ち石と斧で火花を散らし、削りだした木くずに引火させて、いとも簡単に湿った薪木を焚火に変えた。
雨水をためていた鍋を焚火の上へ。
そこから先は、シチリとコユルギに担当が変わった。
枝葉の外は絶え間なく雨が降り注ぐ。
オレの知識や経験は、なんの役にも立たず、ただ雨を憎んでいただけだ。
それでも、オレ達が囲む焚火の周りは、いつも通りの野営だった。
コユルギも、少しはクラゲに慣れたのか。
クラゲの質問に、もじもじとしながらも、短く返答している。
シチリがかき混ぜる鍋から、ハーブとスパイスの香りが立ち昇る。
アルクは、濡れたオレ達のマントを、焚火の近くの枝にかけている。
悪くない。
悪くない光景だ。
ただの苦痛でしかなかった雨音さえも。
今は心地よかった。
あとがき#9
~クラゲの天気予報~
おれの天気予報はなぁ。
外れたことがねぇ。
なんでかって?
ぜったいにあたるって確信したときしか、言わねぇからだ。
微妙な時は言わねぇ。
ぜったい言わねぇ。
言うわけがねぇ。
万が一、雨が降らなかったとしても、ここじゃねぇどこかで降ってる。
だから、外したことはねぇ……
どうだ?
すげぇだろ?




