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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
92/419

3.8.17


 男3人の旅と比べて、ペースは落ちる。

 それでも、初日の旅は順調だった。


 コユルギは、クラゲの質問攻めにされているが、大部分は無視していた。

 ときどき、チラチラと助けを求めるようにオレを見る。


 まぁ、クラゲは悪いやつじゃない。

 たいくつな旅の気晴らしくらいに、なっているといいが。

 あるいは、余計に疲れるかもしれないな。

 たぶん後者だろう。


 気にかかるのは、シチリの方だった。

 足取りが重い。

 疲れているのとは、別の理由がありそうだ。


 置き去りにした遺構の未来。

 この先で待ち受けている過去。

 重いのは荷物とは違うものだろう。


 喋っているのはクラゲだけで、他の4人は、黙々と歩みを続けた。


 やがて夕方になり、小川の近くで荷物を下ろし、野営の準備が始まった。


 オレとアルクは、焚火の準備を始め、クラゲは近くの林へ向かった。

 シチリとコユルギは、食事の下準備を始めたようだ。


 シチリは家から、調味料を持ち出していたようだ。

 袋から取り出したのは、岩塩、こま切れにされた乾燥ハーブ。

 それと何かは分からないがスパイスのようなもの。


 途中でベリーを抱えたクラゲが戻る。

 クラゲがベリーも鍋に加えようと提案したが、明日の朝食にさせてほしいと断られていた。


 驚いたのは、シチリが革袋からボウルを取り出したことだ。

 それも、5つ。

 ボウルによそった今夜の食事は、ちぎって溶かした大麦パンとそら豆のシチュー。


 そして驚きの2つ目がスプーンだ。

 アルクは、自前のスプーンを持ち歩いている。

 しかし、オレとクラゲは持っていないので、野営で使うスプーンは手斧だった。

 ぬるくなってきたら素手だ。


 でも今夜は、野営なのにボウルによそったシチューをスプーンで食べた。


 シチリが煮込んだシチューは美味かった。

 やさしいハーブの香り。

 様々な調味料で整えられた味付け。

 そら豆の丁度よい歯ごたえと、とろみのある大麦パンの食感。


「いやぁ素晴らしい夜ですね。なんだか、心まで安らぎます」

「おぉう。おれ達だけじゃこりゃ不可能だな」


 オレの知る現代日本とは、似ても似つかない食文化。

 だが、このシチューの味を支えているのは、作った人の心、食べる人に向けた配慮だろう。

 たぶんこれは、おふくろの味。

 全世界共通の隠し味だ。


 そういえば、食べていないな……オレも……

 やめよう。

 考えるのはよそう。

 

 食べ終えてシチリに視線を向ける。

 隣でシチューを運ぶコユルギの口を、指で拭っていた。

 積み上げてきたシチリの年月が、手の皺の1本1本に刻まれている。


 鍋がカラになり、全員が食べ終わると、コユルギが立ち上がってボウルとスプーンを集める。

 それをぜんぶ鍋に入れて、シチリと2人で川へと歩いていく。


「おっ、おれも、手伝うぜ」

 クラゲが、その後を追う。


 焚火の前に残ったのは、オレとアルクの2人。


「家庭的な人がいると、野営もずいぶん変わりますね」

「ああ……そうだな。あと何日くらいかかりそうだ」


「そうですねぇ……少しペースは抑えますが。

 ボーテスには明後日到着として、そこから4日というところですね」


 あと6日か。



 そのあとオレ達は、見張りの順番を決める。

 シチリとコユルギは、見張り免除だ。


 最初の夜は、オレが1番、アルクが2番、クラゲが3番。


 デバイスを出して時間を確認した。

『 ELAPSED 01:38 』


 枝と地面を使って、ざっくりと計算してみる。

 現実世界の時間だと、2~3時間以内でカタセ村に到着できる見込みだった。


 ログアウトなしで、一気にカタセ村まで行けるだろう。 

 そんなことを考えながら、旅の最初の夜が更けていった。




 翌朝。


 目が覚める。

 アルクはまだ、眠っていた。


 驚いたことに、クラゲが……

 働いていた。


 手早く焚火に鍋を準備してから、リスの下処理をしている。

 前日の夕方に仕掛けたらしい罠にかかっていたと言う。

 作業をしながら、コユルギへウインクのアピール。


 コユルギは若干、嫌そうだ。

 シチリも、コユルギも早くに起きて、朝食の支度を始めていた。


 夕べから、ひと晩干したベリーを煮込み、それに浸した甘酸っぱい乾燥パンの朝食だった。

 それだけじゃない。

 昼のおやつ用にと、5つの乾燥パンも軽く浸して、布に包んでいる。


 旅なのに、あたたかい。

 なにか、くすぐったいものが湧いてくる。

 かつて感じていた、包み込んでくるような、くすぐったいなにかだ。


 ダメだ。

 浸ってはダメなやつだ。

 だから、振り払う。


 そして立ち上がる。


「行くぞ」


 まだ食べ終わらない、アルクやクラゲに言葉を続ける。



「片づけたら、出発だ」




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