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3.8.10 - Company


 宿屋の夕食は豪勢だった。

 肉料理と野菜料理が同時にテーブルに並ぶ光景を、この世界で初めて見た。

 しかも、アップルパイのデザート付きだ。

 気に入らなかったのは、甘すぎるリンゴのワインだけだ。


 オレだけ、エールに変えてもらった。

 そのエールもドロドロしておらずカスも浮いていない。

 ハーブの香りが良く、村で呑むエールよりも雑味が少ない。

 パンの味は変わらないが、美味い。


 食事を終えて、部屋に戻る。


 オレの考えはまとまった。

 

 ソファーでアルクと向かい合い、対価についての相談を持ちかけた。

 クラゲもいるが、聞かれても問題は無いだろう。


「アルク、会社……株式会社というのは知っているか?」


「……存じません。どういうものでしょうか?」


 オレは、コイン袋から鉄コインを3枚取り出してテーブルに並べた。

 そのコインを動かしながら、説明を始めた。



「会社とは、

 出資と配当で成り立つ組織だ。


 まず何人かでカネを出し合う。

 それが出資だ。


 そのカネを元手に、商売をする。


 儲けが出たら、

 カネを出した連中で儲けを分配する。

 それが配当だ。


 そして、商売が潰れても出資者は破滅しない。

 損をするのは出資した額だけだ」



 言い終わってから、3枚のコインのうちの1枚を人差し指で弾く。


 アルクが押し黙ったまま、テーブルのコインを見つめている。

 おそらく、猛烈な勢いで、頭を回転させているのだろう。


 クラゲは、離れて、リンゴのワインをチビチビと舐めていた。


「それは……エングル語ではなんと言うのでしょうか」


 英語か。


「カンパニーだ」


「 Company... 」


 アルクがまた押し黙る。

 もう少し説明が必要かと思ったが、アルクが続けた。


「みんなでパンを食べよう……ですか。なるほど……面白い」


「対価になりそうか?」

「ええ、これは、商売の根底が覆ります……」


「ならこれで行こう」


「ソウジさん、もう少し詳しく教えてください……カンパニーについて」


「ああ、オレはエングル語が喋れない。テーベに説明するのはおまえだ」


 その後オレ達は、夜遅くまで、会社と株式についての話をした。

 クラゲは、とっとと寝室に下がり寝てしまった。



 そして翌朝。


 やられた……


 アルクは、宿に居なかった。

 宿の店主に聞くと、夜明けと同時に王都に向かったという。


 アルクが居なくては、テーベと対価の話ができない。

 情報を受け取ることができなくなった。


 オレはアルクが戻るまで……

 スピカの街を離れられなくなった。



 まぁいい……

 あいつは分かっていない。


 会社というものの恐ろしさ。

 カネで支配する組織の恐ろしさをだ。


 オレが渡したのは、

 知識や知恵じゃない。


 火種だ。


 王や国の権力が、会社が生み出すカネの力にどこまで耐えられるのか。



 見ものだな。



あとがき#8


 ~アルクと総司~


 会社……ですか……とてもいい言葉ですね。


 カンパニーは、どうして『パンを食べる』になるなんだ?


 Com - pany

 お金を出し合って、パンを作らせ、我々で食べよう……

 出資と利益だけを軸に考えると、この言葉からは、従業員への慈悲や敬意を感じにくいです。

 最初に浮かぶのは、出資者が、パン(利益)を食べる情景です。

 出資者と従業員、全員でパンを食べよう……という意味にもなりますけどね。

 それでも、少し、闇が深い方が目立ちます。


 ですが……

 「会社」という言葉からは、全員の力で、全員で豊かになろう……という気概を感じます。



 わからない……

 まぁ、どうでもいい。


 ただの言葉だ。

 意味が通じればそれでいい……





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