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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
83/417

3.8.08


 宿屋を出る。


 アルクを先頭に十数分。


 案内された服屋は、入って来た門とは反対側の城壁の近くだった。

 こじんまりとした建物だったが、店内の棚には、ごちゃごちゃと大量の服が積まれていた。


「ここも私が持ちます」

 アルクが銀貨を3枚、店主に渡し、適当に見繕ってもらった。


 オレは、あまり目立たない服装を選ぶ。

 くすんだ灰色の麻布のチュニック。

 その上から、ブラウン色の袖なしガウンを合わせた。

 ズボンは、ウールでがっしりと織られた重みのあるものを穿いた。


 靴も新調する。

 革でできているが、靴底は無い。

 足にはめるグローブのような靴下だ。


 クラゲはというと、くすんだ青色のチョッキのような上着を選んだようだ。


「これで、嫁さんもイチコロだ」

 と、息まいている。


 オレ達が着替え終わると、最後にアルク。


 カラダにぴっちりとフィットした、赤茶色のジャケットを着ていた。

 中心には、ジッパーのように大量のボタンが縦に並んでいる。

 マントも、旅用のごわごわしたウールから、軽そうな紺色のマントに変わっていた。

 この時代の貴族と呼んでも相応しい威厳を漂わせている。


「いいですね。もう野盗には見えませんね……ただ……」


 アルクがクラゲの顔を見ながら言った。


「クラゲさんは、ヒゲを剃った方がいいですねぇ。あと、だいぶ臭いです」

「また、さらっと、ひでぇこというなぁアルク」


「ソウジさんは、長旅を終えたというのに、さほど臭くもありませんし、ヒゲもありませんね。何故でしょう?」


 ログインしなおしたからだろう……

 と、言っても、あとの説明が面倒だ。


「体質だ」

 とだけ言う。


 クラゲは、アルクから床屋の場所を聞いて、独りで歩いていった。


「役場は、街の中心にあります。行きましょう」

 オレはアルクと2人で、役場へと向かった。


「ソウジさんが探しておられる、シチリというのは、どのような女性ですか?」

「カタセ村出身の、記憶の回廊を知る人物だ。歳は59歳前後だと思う」


「なるほど……では、シチリに限らずとも、記憶の回廊を知る人物であれば構わないのですか?」


「まぁ、そうだな。アルクは知っているのか? 記憶の回廊を」

「王城に所蔵されている文献で読んだことがあります」


「じゃあ、この国には普通はいないのか?」


 アルクの説明では、プレイヤーがヴィルゴ王国を拠点にしていたのは、125年前までだと言う。


 それ以降のプレイヤー……

 渡し人と呼ばれるプレイヤーは、カタセ村を拠点にした。

 以降、ヴィルゴ王国では、記憶の回廊に関する記録も、歴史書に残されるだけとなったようだ。


「王国としては、再び、この国を拠点にしていただきたと願っています」

「だから、オレに会いたいのか」

「理由の1つです。他にもいろいろあります」

「オレはそんなに立派な存在じゃない」


「ソウジさんは、財産や欲に左右されません。それはかなり希少な人物だと思いますが……違いますか?」


 違う。

 左右されないんじゃない。

 巻き込まれたくないだけだ。

 だから、王様とやらに会う気はない。


 アルクの問いかけに、否定も肯定もしないうちに、役場とやらについたようだ。


 レンガ造りで3階建ての大きな建物だった。


 アルクが少し、悩んでから、また質問した。

「あなたが、わたしびと様であることを、上役に伝えてもよろしいですか?」


「上役とは?」

「この町の行政の長です。テーベという名の男です」


 伝えた方が、捜索が早くなるのは明らかだが。

「用事が済むまで、政治には巻き込まれたくない」

「テーベは元は商家の男で、国に仕えているわけではありません。大丈夫でしょう」

 

「少し様子を見てからにしてくれ」


「分かりました。それでは中へ……」



 アルクに促され、レンガ造りの建物の中へと入った。




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