3.8.08
宿屋を出る。
アルクを先頭に十数分。
案内された服屋は、入って来た門とは反対側の城壁の近くだった。
こじんまりとした建物だったが、店内の棚には、ごちゃごちゃと大量の服が積まれていた。
「ここも私が持ちます」
アルクが銀貨を3枚、店主に渡し、適当に見繕ってもらった。
オレは、あまり目立たない服装にした。
白っぽい色の麻布のチュニック。
その上に、街で浮かないブラウン色の袖なしガウンを合わせる。
泥まみれの革のズボンから、ウールで織られた、がっしりとしたズボンに穿きかえる。
靴も新調した。頑丈な革でできているが靴底は無い。
変なものを踏まないように注意しよう。
クラゲはというと、くすんだ青色のチョッキのような上着にしたようだ。
「これで、嫁さんもイチコロだ」
と、息まいている。
「その格好なら、ヒミコの目も惹けるんじゃないか」
まぁ、クラゲに似合っている。
ウソではない。
「そうかぁ? でもマスターが落ちねぇよ」
「それもそうだな」
オレ達が着替え終わると、最後にアルク。
カラダにぴっちりとフィットした、赤茶色のジャケットを着ていた。
中心には、ジッパーのように大量のボタンが縦に並ぶ。
マントも、旅用のごわごわしたウールから、軽そうな紺色のマントに変わっている。
この時代の貴族と呼んでも相応しい威厳が漂っていた。
「いいですね。もう野盗には見えません……ただ……」
アルクがクラゲの顔を見ながら言った。
「クラゲさんは、髭を剃った方がいいですねぇ。あと、だいぶ臭いです」
「また、さらっと、ひでぇこというなぁアルク」
「ソウジさんは、長旅を終えたというのに、さほど臭くもありませんし、髭もありませんね。何故でしょう?」
ログインしなおしたからだろう……
と、言っても、あとの説明が面倒だ。
「体質だ」
とだけ言う。
クラゲは、アルクから床屋の場所を聞いて、独りで歩いていった。
「役場は、街の中心にあります。行きましょう」
オレはアルクと2人で、役場へと向かった。
「ソウジさんが探しておられる、シチリというのは、どのような女性ですか?」
「カタセ村出身の、記憶の回廊を知る人物だ。歳は56歳前後だったかな」
「なるほど……では、シチリに限らずとも、記憶の回廊を知る人物であれば構わないのですか?」
「まぁ、そうだな。アルクは知っているのか? 記憶の回廊を」
「文献で読んだことがあるだけです」
「この国には、いないのか?」
アルクの説明では、プレイヤーがヴィルゴ王国を拠点にしていたのは、125年前までだった。
それ以降のプレイヤー……
渡し人と呼ばれるプレイヤーは、カタセ村を拠点にした。
以降、ヴィルゴ王国では、記憶の回廊に関する記録も、歴史書に残されるだけとなったようだ。
「王国としては、再び、この国を拠点にしていただきたと願っています」
「オレに会わせたい理由はそれか」
「理由の1つです。他にもいろいろあります」
「オレはそんなに立派な存在じゃない」
「ソウジさんは、財や名誉に左右されません。それはかなり希少な人物だと思いますが……違いますか?」
違う。
左右されないんじゃない。
巻き込まれたくないだけだ。
だから、王様とやらに会う気はない。
アルクの問いかけに、否定も肯定もしないうちに、役場とやらについたようだ。
レンガ造りで3階建ての大きな建物だった。
アルクが少し、悩んでから、また質問した。
「あなたが、わたしびと様であることを、役場の上役に伝えてもよろしいですか?」
「上役とは?」
「この街の行政の長です。テーベという名の男です」
伝えた方が、捜索が早くなるかも知れないが。
「用事が済むまで、政治には巻き込まれたくない」
「テーベは元は商家の男で、国に仕えているわけではありません。大丈夫だと思いますよ」
「少し様子を見てからにしてくれ」
「分かりました。それでは中へ……」
アルクに促され、レンガ造りの建物の中へと入った。




