3.6.07
「なにか手伝えることはないか?」
ガロムに尋ねるが「怪我人は黙って寝とれ」とはねつけられた。
することが無いので、横になる。
デバイスを出して、ログイン時間を確認する。
『 ELAPSED 01:01 』
そろそろ、ログアウトするか……
と思ったが、金型騒動はまだ決着していない。
明日、アルクから話しを聞くまで、留まろう。
アルクにしてみても、信用したわけではない。
剣を渡し、油断させたところで殺しに来ることだってあり得る。
むしろ、オレならそれをやりかねない。
この剣に毒を塗り込む可能性もある。
だから、ガロム達に触らせるのもやめておく。
矢傷が痛む。
ガロムの言葉に甘え、今日は休ませてもらおう。
時々、フィーダが、煎じた薬湯を持ってくる。
オレは「傷は勝手に治るから、大丈夫だ」と言ったが、持ってくる。
口にすると、とても苦い。
だが、少しは痛みが引くようだ。
そして、眠くなる。
アルクが、皆殺しに来る可能性だってある。
眠るわけにはいかない……
眠るわけには……
気が付くと夜だった。
時間は分からないが、静まり返っている。
そして暗い。
何も見えない。
デバイスを出して、灯りを灯す。
『 ELAPSED 01:10 』
ベッドの脇に、黒パンと薬湯が置かれていた。
矢傷の痛みは、少し良くなった。
だが、まだまだ痛い。
激痛が、鈍痛になった程度だ。
耳を澄ますと、外からは鈴虫の鳴き声。
それと、どこからかイビキが聞こえる。
カラダを起こす。
黒パンを齧ると、柔らかかった。
具はなにも挟まれていないが、なんども噛むと、パン独特の甘みが口の中に広がる。
最後に薬湯を飲み干し、そのまま朝が来るのを待った。
そして朝。
連続ログイン5日目の朝を迎えた。
厨房へ行くと、ガロムが湯を沸かしている。
「ソウジかい。おはようさん。
まだ、傷は治ってないみたいだねぇ」
「いや、だいぶ良くなったよ。ありがとう」
「腹減ってるかい?」
「大丈夫だ。ちょっと出かけてくる」
「はいよ。気を付けてな」
右の腰にアルクの剣。
左の腰に手斧を差して、ガロムの家を出る。
まだ、だいぶ早いが、構わないだろう。
オレは、シユフの家へと向かう。
わざわざ行く必要は無い。
殺されに行くようなものだ。
アルクの言う通り、この剣を持ち去って、質にいれるほうが安全だし簡単だ。
だが、その方が面倒なことになる可能性が高い。
今日で、全てを終わらせる。
フフフ……
なるほど、見透かされている。
アルクという男に。
自分ですら分かっていないオレの性格を、アルクは見抜いている。
なぜなら、オレは今、シユフの家へ向かっている。
用心深いオレが、殺されるかもしれない場所へ。
警戒しながら進んだが、襲われることもなく、シユフの家の前。
扉が閉まっていたので、ノックする。
すぐに中から、中年の女性の返事が聞こえると、扉が開いた。
小奇麗な、明るいブラウン色のウェストギャザー着た、気品のある女性だった。
「ソウジと言います。アルクは?」
「お待ちくださいね」
女性が奥へと消える。
物腰も、言葉のトーンも、村人とは違う。
王都から移住してきたという、シユフの妻だろうか。
女性はすぐに戻った。
「どうぞ」
女性に促され、奥の部屋へ。
部屋に居たのは、細工師のシユフとアルクだった。
「おはようございます。ソウジ。今夜でもよかったのですが、ずいぶんせっかちですね」
オレは、剣に右手を添えながら、アルクに言った。
「おまえの剣は、ここにある。話しを聞かせてもらおうか」
「もちろんです。正念場の朝になりそうですね」
アルクが、笑顔を見せる。
どうぞと、椅子に促されたが、オレは座らずに壁に寄りかかった。
「さて……どこから、お話しましょうか」




