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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
67/423

3.6.06


 目の前に、動かなくなったトールスが居る。

 陽はもう、間もなく落ちる。


 辺りからは、鈴虫の鳴き声が木霊していた。


 森は暗く、もう灯りなしでは、村に辿り着けそうもなかった。


 右腕には、折れた矢が突き刺さり、肩付近にも矢が貫通している。

 出血は少ないが、痛みは酷い。


 左手を叩いて、デバイスを出す。

 『 ELAPSED 00:52 』


 新記録だ。

 ニフィル・ロードで86時間も過ごした。

 そして、久しぶりに、ボロボロだ。


 ここでログアウトすれば、次のログインで全回復できる。

 しかし、こんな真夜中の河原じゃ、安全とは程遠いだろう。


 目の前には、獣の餌になりそうな肉まで転がっている。


 まだ陽はかろうじて残っている。

 少しでも、見えるうちに、小道へ戻ろう。


 オレは、腕と肩の痛みを堪えて、立ち上がった。

 目の前で川の流れを堰き止めているトールス。


 オレは野盗じゃない。

 遺留品は全て置いていく。


 アルクの動向も気になるが、ひとまずガロムの家へ。


 真っ暗な森へと足を踏み入れる。

 森の先に、微かな闇の切れ目が見える。

 左手を伸ばし、慎重に森をかきわけて進む。


 道だ。

 村はどっちだろう。分からない。


 途方に暮れていると、風に乗った、微かな人の営みの匂い。

 夕食の匂いだ。


 もうあと少しで、何も見えなくなる。

 風の吹いた方向を頼りに、オレは道を歩いた。


 しばらく歩くと、前から松明の灯り。

 誰でも構わない。ガロムの家の場所を教えてくれ。


 近づくと、松明を持った男。

 ルボンスだった……


「ソウジ、大丈夫か!

 どうした、ひでぇ傷じゃねぇか。

 矢傷か? 誰にやられた?」


「ルボンス。どうしたんだ、こんな時間に。散歩か」


「お……おう。そうだ、散歩だ。

 帰りが遅せぇから、ついでに見に来た。肩かしてやるから、捕まれ」


「すまん……助かった」


 オレは、ルボンスの肩を借りて、ガロムの家まで辿り着いた。


 ガロムが、矢羽と矢じりを切り落とし、ルボンスが残った棒を引き抜く。

 のたうち回りたいほどの激痛。


 ルボンスが、傷口にエールをかける。

 そのあとガロムが綺麗な麻布を傷に当てた。


 またこの家族に助けてもらった。

 ガスコスも入れたらこれで、3度目か……



 その後のことはよく覚えていない……




 目が覚めたのは、翌朝。

 久しぶりの藁のベッドだった。

 矢傷も痛むが、背中も痛い。


 右腕と肩には、麻布が巻き付けられていた。

 この部屋のことは覚えている。

 クマに尻を削られて、同じようにここの家族に助けられた日も、ここで目覚めた。


 ガロム達にまた助けられた。


 カラダを起こして、ベッドから立ち上がる。

 痛いが、動けないほどではなかった。



 枝編みの戸が動いた。


 部屋に入ってきたのは、ガロムだった。


「おきたかい、ソウジ。

 全く……あんたは、いつも死にかけだねぇ。動いてだいじょぶなのかい?」


「ああ、大丈夫だ」

「腹減ってるだろ。メシできてるけど、その前にアンタにお客さん来てるんだけど、どうする?」


「客?」

「見た目はゴロツキだけど、言葉遣いは丁寧な男だね」


 アルクか。


「分かった。会おう」

「あいよ。客は外で待ってるよ」


 ガロムと一緒に部屋を出る。

「あっちだよ」

 ガロムが、厨房の外を指で差す。


 外に出ると、アルクがいた。


「おや……ソウジ、どうしたんですか? その怪我……?」


 白々しいヤツだ。


「ちょっとな、転んだだけだ」

 アルクの顔を見たが、表情からは、何も読み取れない。


「少し話そう。いいか」

「そうですね。私もソウジと話したいと思っていたところです」


 オレとアルクは、ひと気のないところまで少し歩いた。



「金型は見つかったか?」


「シユフ……細工師の家へいきましたが、見つかりませんでした。彼は、本当に、金型については何も知らないようです」


 アルクは腕組みをして、木に寄りかかった。

 腰には、鞘に収まった、細長い剣が吊り下がっている。


「殺したのか?」


 アルクとの距離は、3メートル程だが、オレは丸腰だ。

 戦いになれば、オレは殺されるだろう。


 昨夜もギリギリ生き残ったというのに、ここで死んだら、未希を助けることができない。


「ソウジ。わたしは殺人鬼ではありません。

 本当に持っていないのであれば、殺す必要もありませんし、痛めつける必要もありません。

 まぁ、トールスは違うようですが」


「なぜそれを信じた?」


「シユフのことは、以前からよく知っています。あれは、ウソを付くような人物ではありません」


 少し引っかかるが質問を続けた。

「トールスはどうした?」


 アルクの表情が少し険しくなった。

「夕べは、戻ってきませんでしたね」


 トールスに尾行を指示したのは、アルクだろう。

 そのトールスは戻らず、オレはこの怪我。

 何が起きたか。

 最初に顔を合わせた時点で、明白だ。


 剣を抜かれる前に、先に言ってしまおう。

 オレは、左手を叩いて、デバイスを出した。


「オレは、渡し人だ。殺しても生き返る」


 さすがのアルクも、驚いたようだ。


「オレを殺せと指示したのは、おまえか?」


 何秒か沈黙した。


「見つけたのですね? 金型を?」


「金型は隠した。

 渡し人のオレなら、25年後だろうが、50年後だろうが。

 おまえが死ぬまで、おまえは、金型を手に入れることはできない。

 質問に答えてくれ。

 オレを殺せと言ったのは、おまえだな? アルク?」



 これで立場は、逆転したはずだ。

 利用する者と、される者。


 アルクがため息をつく。


「ええ……そうですね。私が指示しました。

 ソウジが先に、金型に辿り着くようなら、金型を奪い、ソウジを殺せと。

 ですが……聡明で、疑り深い、わたしびと様のソウジ。少し私の話も聞いてもらえませんか?」



「なんだ」


「あなたの能力を買っているんですよ、ソウジ。私がソウジに話したことは、半分本当で、半分ウソです。まぁ、それはおそらく、ソウジも気付いていますよね」


「どれが真実で、どれがウソだ」


「ふむ……

 まずは、信頼を得るほうが先のようですね…… 

 今は何を語っても、ソウジには信じてもらえないでしょう。

 そうですね……」



 アルクが、腰の剣に手を触れた。

 オレは身構えたが、剣を鞘から抜くことはなく、紐をほどいて腰から外した。

 そしてアルクは、剣をオレの足元に放り投げた。


「その剣を1日、あなたに預けましょう。あーでも……それは大切な剣なので、なくさないでくださいね……」


「なにがしたい?」


「あなたの信頼を得たいだけです。

 僅か数日ですが、私は、ソウジという人物を信頼し、評価しています。その剣を抜いて私を襲うこともないでしょう。あるいはその剣を持ち去って、売り払う人間でもないということも」


「殺そうとしたオレから信頼を得てどうする? なにがしたい?」


「明日、その剣を持って、シユフの家まで来てください。そこで全てお話します。

 ソウジと、そして、わたしびと様に。全てを……です」



 言い終わると、アルクは立ち去ろうと歩きだした。

 途中で振り向いて、付け加えた。


「あの……その剣なのですが……本当に大切なものなので……絶対になくさないでくださいね。……おねがいしますよ」


 そしてアルクは、小走りで立ち去った。

 だったら、持ち帰ればいいだろうに。


 仕方なくオレは剣を拾う。

 派手さはないが、実用的に見える鞘と、柄。

 柄の中心には、何かの花の形の意匠があり、中央に男性の顔が彫られている。

 この意匠。どこかで見たような気がする。


 引き抜こうと思ったがヤメた。

 剣を縄ベルトの腰に差し、ガロムの家へと戻る。


 また面倒なことになりそうな予感しかない。



 小屋に戻ると、ガロムがスープを用意していた。

 ご馳走になるとしよう。




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