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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
69/417

3.6.08


「ここにいる元細工師のシユフとは、古い友人です」


 アルクが、無表情で、話を始めた。


 シユフの顔を見る。

 シユフは平凡な表情の男だ。

 なにを考えているのか読めない。

 アルクも読めないが、種類が違う。


 シユフは、凡庸なのだ。

 何も考えていないのかもしれない。


「剣の柄は、御覧になりましたか?

 それを彫ったのも、シユフです。シユフは、王宮に仕える筆頭金細工師でした」


 クロスガードの柄には、花の形の意匠。中央に男性の顔。

 芸の無いオレでも感じるところがあるほどに、精巧に彫られている。


「時に金貨はお持ちですか?」


 オレは首を横に振る。


「それでは……」


 アルクが腰のコイン袋に手を入れて、1枚の金貨を取り出した。

 村の者では見たことすらなく、存在を知られれば1枚であっても強盗に押し入られる金貨。


「どうぞ」

 アルクが、金貨をオレに差し出す。

「あげませんよ。見せびらかすだけです」


 金貨を摘まむ。

 おやしろにあった金貨と同じもの。


 その表面は……

 花の形の意匠に縁取られ、中央には男性の顔が彫られていた。


 剣のクロスガードと見比べる。

 大きさもさほど変わらない。

 ほとんど同じものだった。


「どういうことだ」

 質問しながら、アルクに金貨を返す。


「私は、王国から命を受けた特使です。

 そして、その柄は、私が特使であることの証明でもあります。少しは、信じていただけますかね」


「特使としての使命と、今回の金型とは、どういう繋がりがある」


「はい……それを話すことは国の極秘事項です。

 公言すると、わたしびと様であっても、王国から討伐される可能性があります。

 脅しではありません。

 私も、機密を漏らした罪で、断罪されることになります。お話してもよろしいですか?」



 ウソは、話が大きいほど、成立する。

 この男が、どれだけ大きなウソをつくのか、興味もある。


「オレは、おまえの命も軽く考えている。それでもいいなら聞こう」


「分かりました。私の命を、あなたに預けますよ? 話を聞いたら、私に協力してくださいね」


「内容次第だ」


 アルクが、ワザとらしい咳払いを、コホンと放つ。


「すでにお気付きかもしれませんが、王都から紛失した金型は、偽造金型ではありません。

 紛失した金型は、正規品と瓜二つの試作品。材質が異なるだけのホンモノです」



 シユフが、うつむいている。

 表情は読めないが、肩を落とし、うなだれている。


「状況的に、持ち去ったのは、シユフしか考えられません。

 ですが、シユフがそんなことをするとは信じられませんでした。

 私はシユフの追手が出される前に、急いで王都を出て、シユフの後を追いました」



「トールスはなんだったんだ?」


「あれは、急いで雇った、旅の傭兵です。急なこともあり、条件に合うのはあの男だけでした」


「トールスは、金型のことを知っていたのか?」


「無論、偽造の金型であるとしか話していません。

 しかし、あの男、腕は良いのですが信用できませんでした。

 首尾よく、金型を回収できたとして、帰り道で、いつ寝首をかかれるか分かりません。

 もしあの男に、正規品の複製とは知らずとも売りさばくようなことでもされたら、国の経済は混乱することになります。

 ですから、いつかは処分しなくてはならない男でした」



 身勝手な話だが……

 現実世界のオレの職場でも、よくある話だ。


「オレを殺そうとした理由は?」


「あなたも同様です。

 ソウジが金型の真実を知ったと想定した私は、トールスに殺害を命じました。

 あの時は、ソウジが死のうが、トールスが金型の回収に失敗しようが、どちらでも構いませんでした。

 金型の回収に成功したなら、トールスも不要でしたけどね」



 まったく、身勝手な話だ……

 だが、まぁ道理はある。

 余計な火種は、燃える前に消す。

 権力者や政治家の思考は、こんなものだ。


「ソウジ。

 金型は、王宮に戻さなくてはなりません。

 いずれ、この家に討伐隊が派遣されます。

 わたしは、友人のシユフと、その家族を守りたいのです。お願いします。金型の場所を教えてください」



「金型を持ち去ったのは、シユフではないのか」


 シユフは、なにも喋らない。

 代わりにアルクが、推測を述べた。


「おそらくですが……娘のイェシカが、何も知らずに隠し持ち、運んでしまったのではないかと……」


 つまり、この一家は……

 イェシカのイタズラが原因で、王国に皆殺しにされかけている。

 ……ということなのか。


 腰に差したアルクの剣を、鞘ごと縄ベルトから引き抜く。

 柄の意匠は、まぎれもなく、金貨の意匠と同じだった。



「なぜ、アルクは野盗のような格好をしている」

「シユフの正体が、ソウジに見抜かれたのと同種の理由ですよ」



 隙が無い。

 疑いの掛けどころがない、壮大なウソだった。

 真実かどうか、確認したくなった。



「最後に1つ聞かせてくれ。渡し人と、なんの関係がある?」


 アルクが、笑顔を見せた。


「それはまた、別の話です。

 王国は125年もの間、わたしびと様の再訪をお待ちしております。

 あなたは、王国の賓客です。私と共に、王の元へ参じてください」



 信じるも信じないもない。

 王様に会うなんてゴメンだ。


「すまないが、それはできない」


 オレは、剣をアルクに差し出した。


「だが、この剣は返そう」


「そうですか……ですが、感謝します。少しは信用してくれたようですね。王への拝謁は、時間を掛けて説得させていただくこととしましょう」


 剣を受け取ったアルクが微笑む。


 屈託のない笑顔に見えなくもない。

 だが、信用する気はない。


「それで……? 謁見はしないとして、オレになにを協力してほしい?」


「まずは、金型の回収。

 その後は、スピカの街までで構いません。私を護衛してください」



 利用する者と、される者。



 これは……どっちだ……




あとがき#5


 ~イェシカ~


 ん……?

 イェシカの?


 んとねぇ、いまろくさい。

 イェシカはねぇ、パパみたいに、人形つくれるようになりたいからねぇ


 (だからぁ……パパがおいてきたやつ……

   イェシカのポッケに、まだいっぱいあるよ

       お星さまみたいに、きれいなやつも)


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