3.6.08
「ここにいる元細工師のシユフとは、古い友人です」
アルクが、無表情で、話を始めた。
シユフの顔を見る。
シユフは平凡な表情の男だ。
なにを考えているのか読めない。
アルクも読めないが、種類が違う。
シユフは、凡庸なのだ。
何も考えていないのかもしれない。
「剣の柄は、御覧になりましたか?
それを彫ったのも、シユフです。シユフは、王宮に仕える筆頭金細工師でした」
クロスガードの柄には、花の形の意匠。中央に男性の顔。
芸の無いオレでも感じるところがあるほどに、精巧に彫られている。
「時に金貨はお持ちですか?」
オレは首を横に振る。
「それでは……」
アルクが腰のコイン袋に手を入れて、1枚の金貨を取り出した。
村の者では見たことすらなく、存在を知られれば1枚であっても強盗に押し入られる金貨。
「どうぞ」
アルクが、金貨をオレに差し出す。
「あげませんよ。見せびらかすだけです」
金貨を摘まむ。
おやしろにあった金貨と同じもの。
その表面は……
花の形の意匠に縁取られ、中央には男性の顔が彫られていた。
剣のクロスガードと見比べる。
大きさもさほど変わらない。
ほとんど同じものだった。
「どういうことだ」
質問しながら、アルクに金貨を返す。
「私は、王国から命を受けた特使です。
そして、その柄は、私が特使であることの証明でもあります。少しは、信じていただけますかね」
「特使としての使命と、今回の金型とは、どういう繋がりがある」
「はい……それを話すことは国の極秘事項です。
公言すると、わたしびと様であっても、王国から討伐される可能性があります。
脅しではありません。
私も、機密を漏らした罪で、断罪されることになります。お話してもよろしいですか?」
ウソは、話が大きいほど、成立する。
この男が、どれだけ大きなウソをつくのか、興味もある。
「オレは、おまえの命も軽く考えている。それでもいいなら聞こう」
「分かりました。私の命を、あなたに預けますよ? 話を聞いたら、私に協力してくださいね」
「内容次第だ」
アルクが、ワザとらしい咳払いを、コホンと放つ。
「すでにお気付きかもしれませんが、王都から紛失した金型は、偽造金型ではありません。
紛失した金型は、正規品と瓜二つの試作品。材質が異なるだけのホンモノです」
シユフが、うつむいている。
表情は読めないが、肩を落とし、うなだれている。
「状況的に、持ち去ったのは、シユフしか考えられません。
ですが、シユフがそんなことをするとは信じられませんでした。
私はシユフの追手が出される前に、急いで王都を出て、シユフの後を追いました」
「トールスはなんだったんだ?」
「あれは、急いで雇った、旅の傭兵です。急なこともあり、条件に合うのはあの男だけでした」
「トールスは、金型のことを知っていたのか?」
「無論、偽造の金型であるとしか話していません。
しかし、あの男、腕は良いのですが信用できませんでした。
首尾よく、金型を回収できたとして、帰り道で、いつ寝首をかかれるか分かりません。
もしあの男に、正規品の複製とは知らずとも売りさばくようなことでもされたら、国の経済は混乱することになります。
ですから、いつかは処分しなくてはならない男でした」
身勝手な話だが……
現実世界のオレの職場でも、よくある話だ。
「オレを殺そうとした理由は?」
「あなたも同様です。
ソウジが金型の真実を知ったと想定した私は、トールスに殺害を命じました。
あの時は、ソウジが死のうが、トールスが金型の回収に失敗しようが、どちらでも構いませんでした。
金型の回収に成功したなら、トールスも不要でしたけどね」
まったく、身勝手な話だ……
だが、まぁ道理はある。
余計な火種は、燃える前に消す。
権力者や政治家の思考は、こんなものだ。
「ソウジ。
金型は、王宮に戻さなくてはなりません。
いずれ、この家に討伐隊が派遣されます。
わたしは、友人のシユフと、その家族を守りたいのです。お願いします。金型の場所を教えてください」
「金型を持ち去ったのは、シユフではないのか」
シユフは、なにも喋らない。
代わりにアルクが、推測を述べた。
「おそらくですが……娘のイェシカが、何も知らずに隠し持ち、運んでしまったのではないかと……」
つまり、この一家は……
イェシカのイタズラが原因で、王国に皆殺しにされかけている。
……ということなのか。
腰に差したアルクの剣を、鞘ごと縄ベルトから引き抜く。
柄の意匠は、まぎれもなく、金貨の意匠と同じだった。
「なぜ、アルクは野盗のような格好をしている」
「シユフの正体が、ソウジに見抜かれたのと同種の理由ですよ」
隙が無い。
疑いの掛けどころがない、壮大なウソだった。
真実かどうか、確認したくなった。
「最後に1つ聞かせてくれ。渡し人と、なんの関係がある?」
アルクが、笑顔を見せた。
「それはまた、別の話です。
王国は125年もの間、わたしびと様の再訪をお待ちしております。
あなたは、王国の賓客です。私と共に、王の元へ参じてください」
信じるも信じないもない。
王様に会うなんてゴメンだ。
「すまないが、それはできない」
オレは、剣をアルクに差し出した。
「だが、この剣は返そう」
「そうですか……ですが、感謝します。少しは信用してくれたようですね。王への拝謁は、時間を掛けて説得させていただくこととしましょう」
剣を受け取ったアルクが微笑む。
屈託のない笑顔に見えなくもない。
だが、信用する気はない。
「それで……? 謁見はしないとして、オレになにを協力してほしい?」
「まずは、金型の回収。
その後は、スピカの街までで構いません。私を護衛してください」
利用する者と、される者。
これは……どっちだ……
あとがき#5
~イェシカ~
ん……?
イェシカの?
んとねぇ、いまろくさい。
イェシカはねぇ、パパみたいに、人形つくれるようになりたいからねぇ
(だからぁ……パパがおいてきたやつ……
イェシカのポッケに、まだいっぱいあるよ
お星さまみたいに、きれいなやつも)




