6.6.36 - サイバーパンカー
女性は扉を開けたまま、部屋の外で待っていた。
右腕で書類を抱えている。
廊下は暗い。
方角的に、夕方は明るいのかもしれない。
部屋を出ると女性が言った。
「ご案内いたします」
アルベールが扉を閉めた。
ウィルツは同行しないようだ。
女性を先頭に階段へ。
階段がいちばん暗い。
ホラー映画にでてきそうな階段だ。
とくに降りるの怖すぎ。
ちょっと立ち止まって、タデクを先にいかせて、タデクの後ろについた。
「なんだよ嬢ちゃん。主役がそんな後ろでどうすんだ」
「お姫様をちゃんとエスコートして」
「とうとう、ソレ自覚しやがったか」
これで転んでも大丈夫。
タデクなら、わたしが踏み外して激突しても、どうってことない。
女性は1階を通り過ぎ、地下の階段を降りていく。
2番手を歩いていたルシアが言った。
「え、地下なの?」
「はい。評議長室は地下です」
「普通、偉いヒトって最上階の一番隅っことかじゃない?」
階段の先は真っ暗でなにも見えない。
壁伝いでもこれ以上は降りられない、ということろで女性が左手を叩き、ログインデバイスを出した。
すると、地下通路だけが、明かりで照らされた。
見ると天井の隅っこに、光る石が埋め込まれている。
地下からの明かりで照らされた階段を降りると、通路は地面剥き出し。
その奥に、カーテンの幕が見える。
女性を先頭に通路を歩き、カーテンの手前で立ち止まった。
女性は英語で言った。
「評議長、推薦者をお連れしました」
「うん、いいよ。入ってもらって」
中は普通に明るそうだ。
カーテンの隙間から、白色灯の光が漏れている。
タデクが言った。
「扉じゃないのか。ずいぶんと、無防備だな」
女性が、通路の左横に立ち、道を譲った。
「どうぞ」
「オレもいいのか?」
「はい。全員でお入りください」
「剣も持ったまま?」
「はい。構いません」
最初にルシアがカーテンを持ち上げて中へ。
次にタデク。
そしてわたし。
中に入ると、白い石の床と、クリーム色の壁に囲まれた部屋。
天井の高さも普通。
学校の教室くらいの広があり、狭くはない。
地下坑道のような通路の先の部屋だが、普通の部屋だ。
最後に入ったアルベールが言った。
「タデクは、入り口で待っていろ」
「部屋の中でいいんだよな」
「ああ。議長を殺すことは、ダレにもできない」
「え……?」
「あとおまえは、言葉が通じない」
「え?」
「それと、不穏な思考も禁止だ。アタマを空っぽにしていろ。おまえなら得意だろそういうの」
「はい?」
部屋を見渡したが、ダレもいない。
カドに事務机と椅子。
他に入り口はない。
中央には、二人掛けのソファーがふたつと、ローテーブル。
家具のバリエーションは、ウィルツの部屋と大差ない。
背後から、女性がツカツカと歩いて行き、事務机に持参した書類を置く。そして、すぐに振り返る。
「評議長は、英語しか話せません。通訳は必要ですか?」
アルベールが言った。
「必要ない」
「わかりました。では私はこれで」
女性は部屋の入り口に戻り、振り返りもせずに、部屋から出て行ってしまった。
ルシアが英語で言った。
「えーっと? 議長さんは?」
部屋の中を見渡しても、わたしたち3人以外、ダレもいない
「ああ、ごめん。ここにいるよ」
「え?」
声は事務机の方から。
机の下にでも隠れていたのだろうか。
茶褐色の短髪。
若い男性の姿があった。
オフホワイトのローブのようなものを纏っている。
ローブはダブダブだが、それでもわかるくらい、カラダが細い。
クビが細い。手首も細い。
耳も小さい。
そして、異様に肌が白い。
驚いたのは顔。
サラサラで中分けの前髪。
潰れたカエルのような顔。
だが、気になったのは、それじゃない。
男性の目のところに、サングラス……というより、ゴーグルをつけたような青い膜。
しかし、フレームがついていない。
耳にも掛かっていない。
青い膜が、男性の眼球の前に浮いている。
男性がこちらを向くと、浮いている青い膜も、ゴーグルのようにくっ付いてくる。
なるほど……幽霊、宇宙人。
なんか、よく見ると耳たぶの後ろにも、水色のジェルのようなものが浮いている。
なんだ。なんなんだ。
アルベールや、ウィルツの言っていた意味がわかった。
わかったけど、わたしには、もっと違う存在。
サイバーパンクな未来人。
わたしが抱いた最初の印象は、そんな感じだった。
その男性が、英語で言った。
「君、肩に乗せているソレ、なに?」
「え?」
視線がわたしに向いている。
わたしを見てそう言っている。
歳はいくつだろう……同い年か年下。
少年と子供の中間くらい。
ラテン系の顔だが、ヨーロッパ人には見えない。
たぶん、アメリカ人?
彼の視線は、わたしの左肩に向けられていた。
「なんだろ、NPCかな?」
「えっと、みきのこと?」
「うん。肩になにか乗せてるよね?」
「え……と?」
わたしも自分の左肩を見たが、羽織っている水色のケープの生地と左肩があるだけ。
なんにも乗ってないけど……?
「あ、ごめん。怖がってるのかな」
「え? えぇ?」
なにを言っているの?
この子?




