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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
584/588

6.6.35


 となりに座ったウィルツ。

 ちらっと、顔を向けると、仏間のような匂いがした。


 わたしの隣に座った意味を考えてみたが、ただの気まぐれだよね。

 

 向かいに座っているのは、ルシアとアルベール。


 わたしは祖母のことは少し聞いたけど、祖父の話を聞いたことがない。

 見たこともない。

 存在しなきゃ、わたしも生まれてこないわけだけど、存在してたことすら知らない。


 もしかしたら、おじいちゃんの家に遊びにきたら、こんな感じなのかなと。

 だとしたら、わたしは、となりに座ったウィルツの孫娘か。

 ウィルツも、そんなふうに思ってたり……なわけないか。


 ウィルツが最初に口を開いた。

「レストランの準備は順調か」

「店舗の完成はまだ先ですが、注目度は高まっています」


「急だが、あと2週間でプレオープンさてほしい」

「2週間? かなり厳しいですが……なぜ?」


「ひとつやって欲しいことがある」

「なんでしょう?」


「選抜投票日の数日前に、7人、あるいは9人の専任評議員を昼食会に招きたい」


「票集めの仕掛けのひとつですか」

「うむ。重要な人物が多く会する。野外ではなく室内で食事できることは必須だ」


「なるほど……フリッツと相談してみましょう」

「まだどうなるかわからないが、最大でも9人だろう。ディナーではなく昼食会だが、可能な限りの準備を整えてほしい」


「わかりました。明日にでも、フリッツを連れて伺いますので、具体的な計画を立てましょう」

「そうしてくれ。それと……」


 ウィルツが、わたしを見た。


「ご令嬢にも助力願いたい。昼食会に出席する必要はないが、なんらかの形で姿を見せてほしい」


「えーと、お料理を運ぶとかでもいいの?」

「それで構わない」


「でも9人なの? 専任評議員全員じゃなくて?」

「そうしたいところではあるが、そういうわけにもいかなくてな。仲のいい友達だけで昼食会を開きたい」

「ふーん。専任評議会のお友達かぁ……」


 偉い政治家だけが集まるお食事会になるのか。

 いっしょに食べろと言われなくてよかった。


「それから、ご令嬢。今日は別の依頼がある」

 ウィルツが顔を向ける。

 口はお酒臭い。

「うん?」

「ご令嬢を、選抜評議員へ推薦したいが。かまわないか?」


 ああ。それね。

 事前にアルベールから聞かされている。

 イエスと言わなきゃいけないやつ。


「うん……みきでいいの?」

「ご令嬢だからこそお願いしたい。私からは他に2人のギルドマスターを推薦する。ご令嬢も含めた3人全員を選抜入りさせるつもりでいる。ご令嬢とそのギルドは、そのための重要なピースだ」


「ふーん……」

 そもそも、ご令嬢なんてのもウソなんだけど。


「まぁ、難しいことを言ったが、ご令嬢はいつも通りでいい」

「いつも通りって?」

「なにも考えてなさそうで、なにかやってくれそうな、いつものご令嬢のままでいい」


 じゃあ、ご令嬢じゃなくて「みき」でいいってことか。


「なんか、褒められてない気がする」

「ッハハハハ」

 ウィルツが、頬だけ緩めて薄ら笑いを見せる。

「重圧だと感じるかもしれないが、この老人を助けると思って、引き受けてほしい」

「うん。ウィルツさん、推薦してくれてありがとう」


 笑顔を向けると、ウィルツも好々爺な表情を返した。


 これは儀式だ。

 わたしなんかに、なにを期待しているのか知らないけれど。

 教頭先生のお願いに、ノーと言えるわけもない。


「では手続きを進めよう」


 ウィルツがソファーから立ち上がった。

 事務机の女性に歩み寄り、小声で話しかける。

 すると女性は立ち上がり、扉を開けて部屋から出て行った。


 ウィルツはソファーに戻り、わたしの隣に腰を下ろした。

 視線はルシアに向いている。


「君は、ディナーのときにもいたな。たしか……ルシア、と言ったか」

「はい。お名前を憶えていただき光栄です。ウィルツ閣下」

「忘れるはずもないだろう。ファールスにあれだけの啖呵を切ったんだ」


 ルシアが、ちょっとだけ頭を傾けた。

「お見苦しいところをお見せしました」


 ウィルツは、紳士髭をいじくりながら、ルシアの顔を眺めていた。


 ルシアも、ウィルツの目を観察している。

 その好奇心は、いったいどこから湧いてくるのか。


「ご令嬢に、側近のルシア。スラブの護衛もいたいな。あれも腕がたちそうだ。面白そうな人物ばかりじゃないか、アルベール」

「彼らが付き従っているのは、私ではなくご令嬢です閣下」

「なるほど。そのようだな」


 ふと……思いついたことを口にした。

「アルベールも正式にみきの部下になる? お給料は払わないし、払えないけどね」


 ウィルツが人差し指で、紳士髭の形を整える。

「ほう。それはいい提案だ。給料は私が立て替えよう。どうだアルベール?」

「おたわむれを……」


 アルベールもウィルツも、作り笑い以上に表情は変わらない。

 にやけているのは、ルシアとわたしだけだった。


 部屋のドアが開く。女性が戻ってきた。

「評議長が、議長室でお待ちです」


「うむ。運がいいなご令嬢」

「そうなの?」

「議長が部屋にいるのは、せいぜい2〜3時間だ」

「忙しいんだね、議長さん」

「いや、それ以外の時間はログアウトしている」

「えぇ? 2~3時間でログアウトしちゃうの?」

「とにかく、いまから評議長と面談してきなさい」


「どんなこと話すんだろ?」

「世間話をするだけだろう。気負う必要はないが……まぁその心配は不要か、ご令嬢には」

「どんなヒト?」


「うーむ。あれはまるで、亡霊……おっと。いまのは聞かなかったことにしてくれたまえよ。ッハハハ」



 アルベールは宇宙人だといい。

 ウィルツが亡霊だと喩える議長さん。



 いったいどんなプレイヤーなんだろう。



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