6.6.34
ここに来るのは、2週間ぶりくらいだ。
評議会の敷地を見下ろす丘の上。
以前訪れたときは、テント群と建築資材の山だったが、だいぶ様変わりしている。
建築の音は変わらず飛び交っているが、テント群は全て撤去されていた。
「あの建物が、専任評議員の仮設事務所だ」
以前、テントがあった場所の近くに、建物ができている。
2階建てで横長。
学校の校舎のような木造建築の建物だった。
壁も屋根もあるし、窓枠にはガラスの窓もついている。
木造ではあるが、1カ月で完成させたらしい。
驚くより先に、あの建物、大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
アルベールが、建物を背にして振り返った。
「部屋の前についたら、タデクはドアの前で待機していろ。おまえが剣を抜くのは、相手が剣を抜いたあとにしてくれよ」
「へいへい」
わたしがアルベールに尋ねた。
「いつも不思議なんだけど、なんでそんなに警戒するの?」
「いままでは運がよかっただけだ。今後は、さらに危険な時期に入る。評議員の派閥争いが苛烈になり、ギルド間の抗争も起きるだろう」
「えっ、ちょっとまって、ギルド同士でケンカするの?」
「信頼のエレメントの最初の争いは内戦だ」
「……そんなんで、いつエレメント・コアに辿り着けるの?」
「ウィルコープスと戦うのは、内戦が決着してからだ。早く辿り着きたいなら、君もウィルツに協力してやってくれ」
「協力って、なにすれば……?」
「ウィルツの派閥を、評議会で最大化することだが……まぁ君に関しては、普段通りでいい」
なにそれ、不安まみれなんだけど……
って、アルベールが背を向けて、スタスタと丘を下って行ってしまった。
アルベールのあとを追う。
「今日はなにをしたらいいの?」
「選抜評議員の推薦には、書類を提出し議長と面談する必要がある。書類はすでに用意してある。あとは議長に会って会話をするだけだ」
「議長さんと面談? 議長って、どんなヒト?」
「私も数回、見かけただけだが……ひとことで言えば、奇妙な存在だ」
「なにそれ……宇宙人?」
「ッフフフ、宇宙人か。あながち間違いじゃないかもしれない」
「え、っと、冗談で言ったんだけど、人間のプレイヤーなんだよね?」
「見た目は人間だ。そういえば雰囲気だけなら、さっきのヒョロっとした日本人と似てるかもしれない」
「うん? 世川君?」
「姿も形も別人だがな」
世川君に似てるってことは、もしかして量産型。
「話しは終わりだ。どこで聞かれているかわからん。ここから先は無駄口禁止だ。言葉に気をつけろ。とくにタデク」
建物の真ん中にある玄関へと向かう。
中に入ると、新築の木造家屋の匂いが充満していた。
ヒトの気配もしないし、窓が少ないので薄暗くて、薄気味悪い。
正面に階段。2階へ上がる階段と、地下へ潜る階段が伸びている。
右と左は廊下。壁の等間隔に扉が取り付けられている。
アルベールが階段へと近づいた。
「先に、ウィルツの執務室へ行く。2階だ」
「ここ、地下もあるんだ?」
ルシアが、左側から地下に下る階段を眺めていた。
「レストランの厨房にも、ワインセラーを作っているだろう。珍しいことじゃない」
地下へ続く階段の先は真っ暗。ダンジョンでも作ってるのだろうか。
階段を昇り切り、右の廊下へ。
窓の数もサイズも1階と同じなので、この廊下も暗い。
廊下の途中の扉の前で、アルベールが立ち止まった。
「タデクはここで待ってろ」
「ウィッ、ムッシュッ」
アルベールがノックする。
中から「どうぞ」と女性の声。
アルベールが扉を開けて、最初に部屋の中へ入った。
廊下とは違い、部屋の中は明るかった。
ウィルツは正面の事務机に座っている。
わたしたちに視線を送りながら、左手スッとを上げてすぐに下げる。
ウィルツも右手にペンを持ち、書類仕事の真っ最中のようだ。
その背後には、大きな窓があり、青空と雲が見える。
窓は南東向で、午前中の陽当たりはすこぶる良さそうだ。
あの事務机に半日座っていたら、うなじだけ日焼けするかもだ。
部屋の中央には、向かい合う二人掛けのソファーとローテーブル。
その下のカーペットの色は緑色。
右手前にも事務机があり、両脇に書類を積んだ女性が座ってこちらを見ていた。
書類に視線を落としたまま、ウィルツが言った。
「まぁ座れ」
普通にどっかの、役員室のような部屋だ。
アルベールが、わたしに視線を向けて座れと指図する。
なすがまま、その目線の先のソファーに腰を下ろした。
ルシアが、わたしの正面に座り、アルベールは右向かいに座る。
あれ、全員座るんだ?
背もたれの背後には本棚。
本は1冊も飾られていないけど、ウィスキーらしきボトルと、いくつかのタンブラーが無造作に置かれていた。
ウィルツが事務机から立ち上がる。
誰もが、このおじさんは悪の親玉だから油断するなと警告する。
でも、わたしにはあいかわらず、教頭先生にしか見えなかった。
今日も、鼻の下に紳士髭がくっついている。
教頭先生がスタスタと歩いて、事務机を周ってくる。
そして、どさっと。
わたしのとなりに座った。




