↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
580/587

6.6.31 - 大工騎士団


 酒場で夕食を済ませた。


 今日も朝が早かったから眠い。

 ダストスも寝てないだろうに、これからマスターと話しがあるという。


 わたしは、もう限界だった。

 ダストスを残し、酒場の宿泊部屋へ。

 そこで寝ちゃおうかと思ったけど、我慢して噴水広場へ渡った。


 噴水広場の端っこに人だかりができていた。

 カタセ村の酒場は閉店間際だけど、エレメント・ノードはまだ賑やかだ。


 なんだか、威圧的なドイツ語が聞こえる。

 ケンカかと思ったけど、言い争ってるだけのようだ。


 スパイだなんだと、ドイツ語で騒いでいる。

 関わりたくないので無視しようとした。

 なのに、視界の隅に入り込んできたのは、どっかで見たことある光景。


 7人の男性プレイヤーが、小柄なプレイヤーを囲んでいた。

 何日か前の学校での記憶が、フラッシュバックする。


 人だかりに近づくと、ああ、やっぱりだ……

 彼は、ここでもまた……取り囲まれていた。


 あのときと違うのは、浴びせられている言葉がドイツ語。

 囲んでいるのは、女子高生じゃなくて、エンピツ臭くて背の高い外国人の男。


 なのに、ずいぶん落ち着いた顔をしている。

 ぼーっとしているというか、心ここにあらずというか。

 その表情が、周囲のプレイヤーの感情を、ここでも逆撫でしている。


 なんだか笑いがこみ上げてくる。

 たぶんこれは、嬉しさと、安堵だ。


 真ん中にあったのは、世川君の横顔。

 あの時と同じで、また正座されられていた。



 学校では、なにもしてあげられなかったけど。

 ここは魔境じゃない。

 ニフィル・ロードのエレメント・ノードだ。


 わたしは、世川君を取り囲む、プレイヤーの中に入り込んだ。

 周囲はドイツ語でなんか言ってるけど、どうでもいい。


 世川君の真横にしゃがみ込み、日本語で語りかけた。


「世川君! やっと来てくれたー!」

「あ……みきさん……」


 あれ。なんか、ちょっと涙ぐんでる。

 やっぱ、怖かったのかな。

 そうだよね。怖いよね。


 服装は、小奇麗なチュニックと、ゆるそうな革のズボン。

 ひとことで言うなら、おろしたての農民の服装だった。


 横から、ドイツ語。

「おいおい、嬢ちゃん、なんだよ? 知り合いか?」


 無視して、日本語のまま、世川君に問いかけた。

「世川君、どうしたの?」

「すいません。英会話を覚える時間がなくて、まったくわかりません」

「あれね、英語じゃなくてドイツ語なんだよね」

「はぁ。そうなんですか。覚えられるかな……」

「大丈夫だよ。みきでも覚えたし。世川君、みきより頭いいでしょ」

「それは、どうでしょうか……」


「おい、嬢ちゃん、なにコソコソ喋ってんだ?」

 後ろからドイツ語。

 足音も聞こえる。後ろから近づいてくる。


 立ち上って振り向くと、背の高いドイツ人が、すぐ目の前だった。

 上を向いても、見えるのはお尻みたいな形のアゴ。

 そしてお酒臭い。


「あの……なんて言ってるんですか、みきさん?」

「うーん……酔っ払いに絡まれてるかもな会話」


 とっさに、ブルームシードに右手を伸ばしたけど。

 こんなところで剣を抜いたら、大変なことになるかも。

 どうしよう? 


 ドイツ人の右手が、わたしの襟首に伸びてくる。

 もう、大声出しちゃおうかな。




「ポマ、クシィ、マーラ?」

(Pomóc ci, mała?)


 なんか聞いたことあるセリフ。


 わたしの襟を掴むはずだった手が、途中で止まっている。

 横から、別の腕で、がっしりと掴まれていた。


 腕の方へと視線を向けた。

「タデク!」


 タデクのドイツ語。

「どうした嬢ちゃん? ケンカか?」

「うーん、そういうんじゃないと思うけど」


 うぇ、タデク酒くさっ!

 見た目にもかなり酔っている。


 タデクは、掴んだドイツ人の腕を突き放すように離すと、胸の前で両手を丸めて、ボキボキと音を鳴らしながら、ドイツ人に言い放った。


「そんじゃ、女子供を取り囲む、クソったれのプロイセンさんよ。うちの姫にハナシがあるなら、まずはオレを通してもらおうか。全員まとめでもかまわねぇが、命の保証はしねぇからな」


「なんだこのスラブ? だれだオメェは」


「オレか? オレはな……

 フォリオ・ノーメルシ、大工騎士団の団長。

 タデウシュだ。おぃ、おめぇらぁ!」


「おぅ!」


 え……え、えーっ……


 10人以上のムキマッチョが、噴水広場に寄せ集まっていた。

 みんな、レストランの建設現場で見かける大工さん達。

 ムキムキのタンクトップ集団。

 そしておそらく、全員酔っぱらっている!

 もうこれ、噴水広場が! 全体的に酒臭い!


「ああ、心配しなくていい。あいつらはただの観客だ。オレ対7人だ。いつでもいいぞ。かかってこい」


「うぉお、団長!」

「団長対ドイツ小隊だ!」

「俺は、2人倒すに300だ!」

「じゃあ俺は3人ぶちのめしてから団長が負けるに200!」

「俺は団長の独り勝ちに賭けるぜ。50だけどな!」

「大穴か。俺もそれに乗った30だ」

「俺は団長のボロ負けに500!」


 いったい何の話し……


 マッチョの大工が、2人、こちらに歩いてきた。

「さ、お嬢さんたちはこっちへ、特等席にご案内だ」


 わたしと世川君は、離れた場所へ誘導された。

「……みきさん、なにがおきてるんですか?」

「よくわかんないけど、たぶんこれから……」


 ドイツ人が言った。

「よ……ようし! だったら、代表者同士でケリつけようじゃねぇか!」


 タデクが言い返す。

「…………はぁ?」


 しばらく、噴水広場が、静かになった。


「変更だ! 団長に1000ジェノ!」

「俺は団長に明日の日給全部だ!」


 大工の1人が、後ろにいた6人のドイツ人の元へ歩み寄った。

「すいやせん。サシだと賭けにならないんで、そちらさんから、1人500ジェノ徴収させてもらっていいですか?」


「……なんの話しだ?」

「賭けですよ。そっちの代表が勝ったら、こっちの掛け金総取り。おたくらで好きに山分けしてくだせぇ」

「ふざけるなよ、下等なノラ犬どもが……」

「え……ちょ、まさか、プロイセンの旦那が、あんなスラブに負けるんですかい? まさかねぇ? もう掛けに勝ったようなもんでしょこんなの?」


「ふざけんじゃねぇよ……」


 いつのまにか。

 噴水広場の周囲には、騒ぎを聞いて集まった野次馬の群れ。

 中央のタデクと、ドイツ人に、歓声と罵声が浴びせられている。

 もうダレの目にも明らかだ。

 千鳥足の酔っ払い同士のケンカが始まろうとしている。


 なんの合図もなく、ドイツ人がタデクの横っツラを殴った。

 勝負は、その数秒後に終わった。


 鼻血を垂らしたタデクが、不敵な笑みを浮かべながら、ドイツ人を殴り飛ばした。

 ドイツ人は、その身長と同じくらいの距離を、殴り飛ばされた。


 そのまま大の字に寝そべったドイツ人は、もう起き上がらなかった。



 タデクの圧勝だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。