6.6.30 - 17歳の常識に
ダストスと、歩き続けていた。
川沿いを北上し、ときには葦の茂みを避けて、平原を歩く。
すれ違うヒトはダレもいないし、いくら見渡しても人影すらない。
お昼を過ぎても、休みなく歩き続けた。
会話も最小限で歩くことに集中した。
ときおりダストスが振り返る。
わたしの体力を心配してくれている。
大丈夫。わたしだって旅慣れている。
初めて旅をしたときは散々だったけど、いまは本当に旅に慣れた。
1日歩き続けても、疲れはするけど、倒れることはない。
そもそも今日は、荷物もないし。
わたしもダストスも、ちょっとその辺を散歩に行くくらいの軽装。
まったく疲れないわけじゃないけど、足取りは軽い。
そして、日が傾きだした頃。
ようやく、カタセ村を見渡す丘の上へと辿り着く。
酒場の煙がよく見える。
陽が沈む方向に、レクサムコンフィの農場。
反対側には、アロハたちの畑。
おやしろはここからじゃ見えなかった。
村に入ると、仕事終わりの村人らとすれ違う。
最初は悪臭だと感じたこの村の臭い匂いにも、いつのまにか慣れていた。
みんな疲れた顔をして歩いているが、ニコニコと笑顔を向けながら、手を振ってくる。
酒場に辿り着く。
お客さんは、村人がテラス席に3人。
あいさつを交わして、わたしとダストスもテラス席のテーブル席に座った。
店の中からも、騒ぐ声が聞こえる。
今夜も繁盛しているらしい。
「お腹すいたでしょ。なにか食べましょう」
「でも、みきおカネ持ってないからね」
「無一文で旅をするなんてミキも大物よねぇ。ウガーラ族になりたかったらいつでもいいなさい。いますぐでもいいわよ」
「それはどうだろ……」
「パンケーキと昨日の宴会のお礼には足りないかもだけど、今夜はアタシが奢ってあげるわよ」
「やった!」
この酒場で、対価を払って食事するって、まだ2回目とかじゃないかな。
「でも、アタシもおカネ持ってないけどね」
「えー!」
「ツケよ」
マスターは、どうやって店を運営しているのだろうか。
「あー、ダストスだー! みきもいらっしゃい」
最近、わたしより年上だと聞かされたガロム。
やっぱり、中学生くらいにしか見えない。
「こんばんわ、ガロム。エールと食べ物2人前ね」
「はいはーい。ミキも今日はお客さん?」
「うん……みきはエール要らないけど、でも、おカネないよ」
ガロムちゃんは、わたしの言葉も聞かずに、店の中へと消えた。
「この店でおカネ払うのって、旅人くらいじゃないかしら」
「そんなんで、どうやって経営してるの……」
「穀物とか野菜は村の人たちが持ってくるし、肉はアタシたちの担当。旅人からもらったおカネは、調味料とかの買い付けに使ってるみたいよ」
「ふーん……」
ほぼ、ボランティアじゃないのかなソレって。
「おまたせー。今夜はシカ肉のトマト煮込み。おいしいよ」
「すごっ……いい匂い」
「ありがとガロム。それとね、手が空いたらでいいから、マスター呼んでくれる?」
「はーい。じゃごゆっくりー」
ダストスが、エールを煽る。
喉を鳴らし、ジョッキをテーブルに降ろしながら、ぶはーっと息を吐く。
わたしは、トマト煮込みにスプーンを沈める。
ぬー……っつ。
美味しい……
シカ肉ホロホロ。野菜は玉ねぎとラディッシュ。
肉の油とトマトが染み込んで、トマト煮の甘みが口の中に充満する。
このままパスタにかけてもいい。
いやむしろ、これは、ご飯にかけろだ!
「ねぇ、ミキ」
「え……?」
「2日後のお昼くらいに、おやしろ行ってもいい?」
「うん。階段の修理?」
「それもあるんだけど、ちょっと相談を聞いてほしくてね」
「相談? みきに? ダストスが?」
「そうだけど、そんなに驚くこと?」
「ウガーラ族には、ならないよ?」
「あっははは、そんなんじゃないわよ」
「おう、ダストス。来てたのか。どうした」
今度は、マスターが、テーブルの横に立った。
「こんばんわ。例の件なんだけど。そろそろ進めようと思ってね」
「そうか。まぁ、ガロムも17だしな。異論はねぇよ」
「なんの話? みきも聞いてていいの?」
「どうせわかることだからね。実はね……」
ダストスが身を乗り出して、手で壁を作りながら、わたしを手招きする。
耳を寄せると、ダストスが言った。
(ガロムの結婚の話)
え……
「ガロムちゃんが、け……」
「あー、はいはい、そこまで。ここではその先を言っちゃダメ」
「あ……はい。ごめんなさい」
「で、相手はダレだ?」
「それも含めて、お店終わってから、時間もらえる?」
「わかった。じゃまた、後でな」
マスターがお店に戻っていく。
わたしは、口の中に残っていた、トマト煮込みを吞み込む。
「えっと、どういうこと……?」
「続きは、2日後。話題変えましょ」
「う……うん。相談てもしかしてソレ?」
「そ。恋の相談」
「えっと……みきじゃ、役にたたない気が」
でも気になる。
気になる、気になる……
ガロムちゃんが……結婚……
まぁでもそうか。そうだよね。
ここは、いつ死ぬかわからない、中世社会。
17歳は、早いかもしれないけど、たぶん遅くもない。
むしろ、適齢期なのかもしれない。
ガロムちゃんが結婚かよ。
わたしも盛大に祝ってあげなきゃ。




