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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
578/587

6.6.29


 耳障りなくらいの鳥の鳴き声。

 朝の森は騒がしい。


 飛び立つ衝撃で、枝葉が揺れ、どこか森の奥で枝が落ちる。

 なんの音かとビクビクしながら、獣道を辿っていく。


「離れちゃダメよミキ」

「……うん」


 前を歩くダストスが、頻繁に振り返りながら、獣道を進んでいく。

 わたしもそのうしろを、追いかける。


 クマも朝から働いているはずだ。

 動物も人間も、例外なく死と隣り合わせの場所。



 ここは危ない。怖い。早く離れよう。


 わたしのものではない思考が、頭の中に響いている。

 もしかして、灯巫女が近くにいるの?

 そう思って、辺りを見渡しても、それらしい姿はない。

 なのに、警報のように、思考に割り込んでくる。

 左肩だけ、なんだか涼しげな違和感を感じるんだけど。

 しかし、視線を向けても、なにもいない。

 涼しい空気が、肩の上に浮かんでいるような気がする。


 危ないから、森から出ろと。

 唐突に、そればかりが浮かびまくる。


「ねぇ、ダストス」

「うん?」

「もう少し、急ぐ?」

「大丈夫? 転ばない?」

「なんかイヤな予感がするみたい」

「なにそれ。あっはは。でもそうね、この森だけ、急いで抜けましょう」

「うん」


 1時間もかからず、無事に森を抜けることができた。

 平原に出てからはペースを落として、北西に向かう。

 やがて聞こえてくる川の流れる音。


「少し休もうか。疲れたでしょ」


 太陽の角度は、まだ午前中の中ほど。

 川辺の岩に腰を下ろして、フリッツからもらった木の水筒をズタ袋から取り出した。


 ライ麦茶。ぬるい。

 けど、水分補給としては、なんの不足もない。


 川は手前半分が、中州になっていた。

 なんだかいまにも、灯巫女が出そうな空気を感じる。


「ダストスは『あかりみこ』って見たことある?」

「アタシはないわね。ミキは見たの?」

「うーん、見たって言ういか……なんていうか?」

「うん? 子供の近くに出るらしいって聞くけどね」

「他に、どういう条件で出て来るんだろ?」

「さぁねぇ。そういえば、ケイスケも見たって言ってたかしら」

「え、パパが?」

「アタシと出会う前にも見たらしいし。カタセ村に住むようになってからも何度か見たって」

「ふーん。わたしびとなら、出やすいのかな」


 ズタ袋から、パンケーキを取り出す。

「ダストスも食べる?」

「あら、もうお昼? まだ早いわよ」

「ここでお昼もすませちゃう」


「それなぁに? パン?」

「うん。パンケーキ」


 2枚あるので、蜂蜜をつけて、1枚をダストスに渡した。


「……甘くてやわらかっ! もしかして蜂蜜かしらこれ」

「そうだよ」


 だいぶ固くなってるんだけどね。

 わたしも蜂蜜をつけて、口に入れる。

 固いけど、食感はフィナンシェのようで、中はサクサク。


「どこに売ってるのよ、こんな高級パン」

「わたしびとの国?」

「へぇ。アタシも行ってみたいわ。ケイスケもどこかにいるのかしら」

「いるといいなぁ……」

「ミキは、ケイスケを探しにいくんだっけ?」

「うん。ぜったいにパパを探しだす。見つけたら、ダストスのことも、パパに伝えるからね」

「じゃあ、ミキのこと、うんと優しくしてあげなきゃ。アタシが盗賊になってたとか言っちゃダメだからね。自警団よ」

「あははは。ダストスはカタセ村の自警団だったって言っとく。ほかに、パパに伝言ある?」


「そうねぇ。会いたがってるから、あと1回くらい顔見せなさいって言っといて」

「……うん、わかった」


 それは、ムリ……だろうなぁ……


「さぁ、そろそろ行きましょう。パンケーキ美味しかったわ」

 ダストスが立ち上がる。


 このメモリアは、カウント22で歴史が分岐した。

 パパが訪れるカウント22と、わたしが訪れたカウント22。


 続くカウント23では、どちらの未来にもパパはいない。

 ダストスがパパに会える未来は、永遠に訪れない。


「かならず伝えるからね。ダストス」


 ダストスが作り笑いを見せた。

 半信半疑。期待はしてないだろう。

 それでも、ひょっとしたらいつか会えるかもと。

 希望を持ち続けることはできる。



 いいな。うらやましい。



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