6.6.29
耳障りなくらいの鳥の鳴き声。
朝の森は騒がしい。
飛び立つ衝撃で、枝葉が揺れ、どこか森の奥で枝が落ちる。
なんの音かとビクビクしながら、獣道を辿っていく。
「離れちゃダメよミキ」
「……うん」
前を歩くダストスが、頻繁に振り返りながら、獣道を進んでいく。
わたしもそのうしろを、追いかける。
クマも朝から働いているはずだ。
動物も人間も、例外なく死と隣り合わせの場所。
ここは危ない。怖い。早く離れよう。
わたしのものではない思考が、頭の中に響いている。
もしかして、灯巫女が近くにいるの?
そう思って、辺りを見渡しても、それらしい姿はない。
なのに、警報のように、思考に割り込んでくる。
左肩だけ、なんだか涼しげな違和感を感じるんだけど。
しかし、視線を向けても、なにもいない。
涼しい空気が、肩の上に浮かんでいるような気がする。
危ないから、森から出ろと。
唐突に、そればかりが浮かびまくる。
「ねぇ、ダストス」
「うん?」
「もう少し、急ぐ?」
「大丈夫? 転ばない?」
「なんかイヤな予感がするみたい」
「なにそれ。あっはは。でもそうね、この森だけ、急いで抜けましょう」
「うん」
1時間もかからず、無事に森を抜けることができた。
平原に出てからはペースを落として、北西に向かう。
やがて聞こえてくる川の流れる音。
「少し休もうか。疲れたでしょ」
太陽の角度は、まだ午前中の中ほど。
川辺の岩に腰を下ろして、フリッツからもらった木の水筒をズタ袋から取り出した。
ライ麦茶。ぬるい。
けど、水分補給としては、なんの不足もない。
川は手前半分が、中州になっていた。
なんだかいまにも、灯巫女が出そうな空気を感じる。
「ダストスは『あかりみこ』って見たことある?」
「アタシはないわね。ミキは見たの?」
「うーん、見たって言ういか……なんていうか?」
「うん? 子供の近くに出るらしいって聞くけどね」
「他に、どういう条件で出て来るんだろ?」
「さぁねぇ。そういえば、ケイスケも見たって言ってたかしら」
「え、パパが?」
「アタシと出会う前にも見たらしいし。カタセ村に住むようになってからも何度か見たって」
「ふーん。わたしびとなら、出やすいのかな」
ズタ袋から、パンケーキを取り出す。
「ダストスも食べる?」
「あら、もうお昼? まだ早いわよ」
「ここでお昼もすませちゃう」
「それなぁに? パン?」
「うん。パンケーキ」
2枚あるので、蜂蜜をつけて、1枚をダストスに渡した。
「……甘くてやわらかっ! もしかして蜂蜜かしらこれ」
「そうだよ」
だいぶ固くなってるんだけどね。
わたしも蜂蜜をつけて、口に入れる。
固いけど、食感はフィナンシェのようで、中はサクサク。
「どこに売ってるのよ、こんな高級パン」
「わたしびとの国?」
「へぇ。アタシも行ってみたいわ。ケイスケもどこかにいるのかしら」
「いるといいなぁ……」
「ミキは、ケイスケを探しにいくんだっけ?」
「うん。ぜったいにパパを探しだす。見つけたら、ダストスのことも、パパに伝えるからね」
「じゃあ、ミキのこと、うんと優しくしてあげなきゃ。アタシが盗賊になってたとか言っちゃダメだからね。自警団よ」
「あははは。ダストスはカタセ村の自警団だったって言っとく。ほかに、パパに伝言ある?」
「そうねぇ。会いたがってるから、あと1回くらい顔見せなさいって言っといて」
「……うん、わかった」
それは、ムリ……だろうなぁ……
「さぁ、そろそろ行きましょう。パンケーキ美味しかったわ」
ダストスが立ち上がる。
このメモリアは、カウント22で歴史が分岐した。
パパが訪れるカウント22と、わたしが訪れたカウント22。
続くカウント23では、どちらの未来にもパパはいない。
ダストスがパパに会える未来は、永遠に訪れない。
「かならず伝えるからね。ダストス」
ダストスが作り笑いを見せた。
半信半疑。期待はしてないだろう。
それでも、ひょっとしたらいつか会えるかもと。
希望を持ち続けることはできる。
いいな。うらやましい。




