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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
577/587

6.6.28


 ウガーラ族の隠れ家は、霧が立ち込めていた。


 まるで墓場か、戦場跡のようだ。

 霧の中に浮かぶオンボロの住居が、不気味さを際立たせている。


 地面のそこかしこで、男性が倒れていた。

 盗賊のアジトなのに、盗賊に襲われて全滅したあとのような有様。


 死体ではないというのは、すぐにわかった。

 なぜなら、カエルの大合唱のように、あちこちからイビキが聞こえる。

 みんな、酔いつぶれて寝ているらしい。


 ワインの瓶が、いくつか転がっているのが見える。

 昨日運んだ、料理のお皿は綺麗に食べつくされている。


 空き瓶とお皿、持って帰ったほうがいいのかな。

 現代ならなんてことないが、この時代、この地域では瓶は貴重らしい。

 もしかしたら空き瓶1本で、昨日運び込んだガラクタ何杯分にもなったりして。



 でも、めんどうだからいいや。

 空き瓶もお皿も、きっと有効活用してくれるだろう。



「ミキ、おはよう」

 振り向くと、見知った女性の顔。

「あ、ダストス」


「ウガーラ族20人が、ひと晩で全滅したわ」

「あはは……ダレにやれたんだろ……」

「まったく、ヒドイ有様よね」

「ダストスは寝たの?」

「4時間くらい寝たわよ」

「じゃあ眠いでしょ」


「慣れてるから平気よ。それより見張りに立たせてるグックとジンゲが心配だわ。居眠りしていないといいけど」

「今日、いける? カタセ村?」


「もちろんよ。でも、このありさまじゃ、他の連中は役に立たないから、アタシとミキで、きままな女性のふたり旅ね」

「えー、大丈夫、ふたりで?」

「なによ。心配しないでよ。死にかけた回数ならダレにも負けないし、まだ生きてるでしょ」


「あははは、それ自慢すること?」


「ミキこそ、旅の支度は、それでいいの?」

「いいけど、ここはこのままでいいの?」

「そのうちだれか起きるでしょ。それより、いま出ないと、明るいうちにカタセ村に着けないわよ」

「それはそうかもだけど」

「じゃあ行きましょう」


 ダストスも、腰に重そうなポーチをつけているけど、手ぶらだ。

 右腰には、ショートソード。

 それと、使い古した臭そうなマント。

 わたしと大して変わらない。



 すぐ出発するというので、ダストスとふたりで、隠れ家のゲートへ向かった。

 ゲートの手前へ行くと、グックが焚火の番をしていた。


「おでかけですかい、おかしら。ヒメ様も」

「うん、また来るね」

「あんな宴会ができるんなら、いつでも歓迎するぜヒメ様」


「居眠りするんじゃないわよ、グック」

「へいへい」

「みんなが起きてからでいいけど、明日の件もね」

「りょーかい」

「明日?」


「おやしろの修理したいんでしょ?」

「やってくれるの?」

「修理道具と資材持って、あとから来てもらう予定だけど、あの様子じゃ今日明日はムリね」

「あはは。ありがとう。階段壊れそうだから、修理してほしいんだよね」


「そんじゃ、また明後日な、ヒメ様」

「うん。じゃね」


 ゲートを開けて、隠れ家の外へ。

 グックがゲートを閉めて、中からかんぬきをかけた。

 隠れ家の外周は、炭の匂いが染み込む丸太の塀で囲まれている。

 どうやらこの塀は、人間よりも、クマやオオカミの侵入を阻むための塀らしい。


 塀を離れて獣道を進むと、すぐに矢倉が見えてくる。


「おかしら。ヒメ様も。いってらっしゃい」

「あんたも、居眠りするんじゃないわよ」

「わかってやすよ」

「ジンゲ、ありがとね。またね」

「どうか道中、お気をつけて、ヒメ様」


 ダストスが言った。

「ハビラーダ」

 ジンゲも似たような言葉を答えた。

「ハビラァーダ」


 そして、森の獣道へ。


「はびらーだって?」

「ミキにも教えてあげるわ。ウガーラ族に出会ったときの合言葉」

「合言葉?」


「デンゴラバと言われたら、ハビラーダと答えれば、知らないウガーラ族に会っても、殺されたりしないわよ」

「ふーん?」


「でも、気軽に使っちゃだめよ。デンゴラバも、お葬式以外では使っちゃダメ」

「はびらーだの意味は?」


「まだ、大地に抱かれる時じゃない」


 これで、覚えたウガーラ語はふたつ。


 デンゴラバ。

 ”先に行け。後から行く”


 ハビラーダ。

 ”まだ、大地に抱かれる時じゃない”


 でも、役に立つことは、無いな。

 ログアウトしたら、まゆさんにおしえてあげよ。



 ダストスが、先を歩いていく。

 立ち込めていた霧も、いつのまにか消えていた。


 小鳥が囀り、木々の葉が心地よく風に揺れている。



 清々しい朝の、薄暗い森の中だ。



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