6.6.28
ウガーラ族の隠れ家は、霧が立ち込めていた。
まるで墓場か、戦場跡のようだ。
霧の中に浮かぶオンボロの住居が、不気味さを際立たせている。
地面のそこかしこで、男性が倒れていた。
盗賊のアジトなのに、盗賊に襲われて全滅したあとのような有様。
死体ではないというのは、すぐにわかった。
なぜなら、カエルの大合唱のように、あちこちからイビキが聞こえる。
みんな、酔いつぶれて寝ているらしい。
ワインの瓶が、いくつか転がっているのが見える。
昨日運んだ、料理のお皿は綺麗に食べつくされている。
空き瓶とお皿、持って帰ったほうがいいのかな。
現代ならなんてことないが、この時代、この地域では瓶は貴重らしい。
もしかしたら空き瓶1本で、昨日運び込んだガラクタ何杯分にもなったりして。
でも、めんどうだからいいや。
空き瓶もお皿も、きっと有効活用してくれるだろう。
「ミキ、おはよう」
振り向くと、見知った女性の顔。
「あ、ダストス」
「ウガーラ族20人が、ひと晩で全滅したわ」
「あはは……ダレにやれたんだろ……」
「まったく、ヒドイ有様よね」
「ダストスは寝たの?」
「4時間くらい寝たわよ」
「じゃあ眠いでしょ」
「慣れてるから平気よ。それより見張りに立たせてるグックとジンゲが心配だわ。居眠りしていないといいけど」
「今日、いける? カタセ村?」
「もちろんよ。でも、このありさまじゃ、他の連中は役に立たないから、アタシとミキで、きままな女性のふたり旅ね」
「えー、大丈夫、ふたりで?」
「なによ。心配しないでよ。死にかけた回数ならダレにも負けないし、まだ生きてるでしょ」
「あははは、それ自慢すること?」
「ミキこそ、旅の支度は、それでいいの?」
「いいけど、ここはこのままでいいの?」
「そのうちだれか起きるでしょ。それより、いま出ないと、明るいうちにカタセ村に着けないわよ」
「それはそうかもだけど」
「じゃあ行きましょう」
ダストスも、腰に重そうなポーチをつけているけど、手ぶらだ。
右腰には、ショートソード。
それと、使い古した臭そうなマント。
わたしと大して変わらない。
すぐ出発するというので、ダストスとふたりで、隠れ家のゲートへ向かった。
ゲートの手前へ行くと、グックが焚火の番をしていた。
「おでかけですかい、おかしら。ヒメ様も」
「うん、また来るね」
「あんな宴会ができるんなら、いつでも歓迎するぜヒメ様」
「居眠りするんじゃないわよ、グック」
「へいへい」
「みんなが起きてからでいいけど、明日の件もね」
「りょーかい」
「明日?」
「おやしろの修理したいんでしょ?」
「やってくれるの?」
「修理道具と資材持って、あとから来てもらう予定だけど、あの様子じゃ今日明日はムリね」
「あはは。ありがとう。階段壊れそうだから、修理してほしいんだよね」
「そんじゃ、また明後日な、ヒメ様」
「うん。じゃね」
ゲートを開けて、隠れ家の外へ。
グックがゲートを閉めて、中からかんぬきをかけた。
隠れ家の外周は、炭の匂いが染み込む丸太の塀で囲まれている。
どうやらこの塀は、人間よりも、クマやオオカミの侵入を阻むための塀らしい。
塀を離れて獣道を進むと、すぐに矢倉が見えてくる。
「おかしら。ヒメ様も。いってらっしゃい」
「あんたも、居眠りするんじゃないわよ」
「わかってやすよ」
「ジンゲ、ありがとね。またね」
「どうか道中、お気をつけて、ヒメ様」
ダストスが言った。
「ハビラーダ」
ジンゲも似たような言葉を答えた。
「ハビラァーダ」
そして、森の獣道へ。
「はびらーだって?」
「ミキにも教えてあげるわ。ウガーラ族に出会ったときの合言葉」
「合言葉?」
「デンゴラバと言われたら、ハビラーダと答えれば、知らないウガーラ族に会っても、殺されたりしないわよ」
「ふーん?」
「でも、気軽に使っちゃだめよ。デンゴラバも、お葬式以外では使っちゃダメ」
「はびらーだの意味は?」
「まだ、大地に抱かれる時じゃない」
これで、覚えたウガーラ語はふたつ。
デンゴラバ。
”先に行け。後から行く”
ハビラーダ。
”まだ、大地に抱かれる時じゃない”
でも、役に立つことは、無いな。
ログアウトしたら、まゆさんにおしえてあげよ。
ダストスが、先を歩いていく。
立ち込めていた霧も、いつのまにか消えていた。
小鳥が囀り、木々の葉が心地よく風に揺れている。
清々しい朝の、薄暗い森の中だ。




