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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
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6.6.27 - 青い羽


 翌朝。


 ルシアを起こさないように、静かに起き上がる。

 毛布は、寝てるルシアの毛布の上に掛けた。

 朝は少し冷える。


 朝陽はまだ昇りかけ。

 太陽は見えてない。

 東のソラが朝焼けに染まっているだけだ。


 厨房の調理台に、3枚のパンケーキと蜂蜜の小瓶。

 少し硬くなっている。

 ハンナちゃんも疲れていただろうに、帰る前に焼いてくれたんだろう。

 こんど、めいっぱいお礼しなきゃと誓う。


 1枚をもぐもぐしながら、残りの2枚は布に包んで、ズタ袋へ。


 厨房を出て噴水広場へと向かう。

 小川を飛び越える。

 燻るだけの焚火の横で、タデクと数人の大工さんがいびきをかいている。


 まだ、みんな寝ている時間だ。

 噴水広場にもダレもいない。



 右手を叩いて、ログインデバイスを出す。

 操作しようと、左手を出したとき。

 ふっと、目の前を青い光が横切った。


 なにかと思って、顔を上げると……


 え……

 ウソ、なんで?


 噴水広場を背景にして、そこに浮いていたのは、あの妖精。


「……あかりみこさん?」 


 樹皮のような肌色。

 花のつぼみのような頭。

 間違いない。灯巫女だ。

 ハタハタと、青い羽を動かして、わたしの目の前を飛んでいた。


 デバイスを操作するつもりだった左手を、青い羽の灯巫女の方へと向けた。

 すると、灯巫女も、ふわふわと左手の上まで浮遊した。


 左手から、灯巫女の意識が流れ込んでくる。

 言葉ではない。意識に割り込む、灯巫女の感情。

 まるで魔法の意識通話。



 ……ああ、やっとだれもいなくなった。

 

 どうして? どうしてここにいるの?


 ……ついてきた。肩につかまって。


 肩に? いつから?


 ……いつから? 川辺の夜から?


 川辺の夜?

 もしかして、ずっと川岸から見ていた、あの青い光の子?


 ……みき、またどこかに行ってしまうの?


 うん、ずっとあの川原にいることはできないよ。


 ……じゃあいっしょに連れていって。

 ……みきは同じ色をしてる。どうして?

 ……ねぇ、食事ってなぁに?

 ……パンケーキってなぁに?


 え、ちょっと、ちょっとまって。

 質問多すぎ。


 ……みきに入り込めないのはどうして?


 入り込む? どういうこと?


 ……あの夜、みきに入ろうとした。入れたけど追い出された。


 追い出された? どういうこと?


 ……焚火。あったかい。

 ……でも他の人間が歩いてきた。

 ……隠れていようと思ったのに、追い出された。



 どういうこと?



 って、あれ? 消えちゃった?

 手のひらにいた、青い灯巫女が、消えてしまった。



「おはようございます。マドモワゼル。お出かけですか?」


 振り向くと、フリッツが立っていた。

 わたしは、ぽかんとした目を、フリッツに向けた。


「どうかなさいましたか?」


 突き出したままの、おねだりポーズの左手に視線を落としたが、青い灯巫女の姿はない。


「うーうん、なんでもない……のかな」

 まぼろし……?


「また、旅に行かれるのですか?」

「う……うん、旅っていっても、今日1日だけど」

「では、どうかお気をつけて」

「うん。いつもありがとう、フリッツ」


 フリッツが、スーツの裾から右手を差し込み、背中をまさぐった。

「よろしければ旅のお供にこちらを。ライ麦茶でございます」


 巻物みたいなサイズの、木でできた水筒。

「麦茶! ありがとう! 助かるかも!」


 今回も、パンケーキを持参しただけで、なんの旅支度もしていない。


「衛生のため、中身は本日中に飲み切ってください。水筒を再利用する場合は、水筒も本日中に洗浄し、次の使用前にも洗浄なさってください」


「うん。わかった」

 フリッツが、保健所のヒトみたいに見えた。


「それでは、くれぐれもお気をつけて。いってらっしゃいませ」

「いってきます。フリッツ」


 さっきの灯巫女も気になるけど、ダストスを待たせているかもしれない。

 ログインデバイスを出し直す。


 念のため、辺りを見渡したけど、灯巫女らしき姿はない。


 肩につかまってきたって、どういうことだろう。

 左肩、右肩と順番に見たけど、なにもいない。


 わたしの挙動を見て、フリッツがクビをかしげている。



 そのフリッツに手を振りながら。

 記憶の回廊へ渡った。



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