6.6.25
胸元に、ピーチサイダーのボトルを抱えたまま。
ようやく、タルトに歩み寄る。
キングサイズのホールケーキのようなタルトだったけど。
すでに、あちこちの角度から削り取られて、虫食いのような状態だ。
テーブルはあるけど、椅子はないから、地べたに座って手を伸ばす。
お皿はないので、ちぎって、そのまま口へ運ぶ。
生地のさくさく。リンゴのシャキシャキ。モモのトロトロ。
ほんのりベリーの酸味を含んだ、ふわふわのカスタード。
いったい、なんだこれは!
こんなタルト、食べたことない!
自分のポーチから木のコップを取り出して、ピーチサイダーを注ぐ。
そして、喉に流し込む。
サイダーしゅわしゅわ。
そして、冷たい。中身のサイダーもだけど、瓶も冷たい。
事前に冷やしてくれたんだろう。
これがソムリエの存在感なのか。
クララすげぇ。
ハンナちゃんすげぇ。
タルトとピーチサイダーの相性、抜群だ。
ねんのため、野菜も少し食べてみる。
ポーチから自分のフォークを取り出して、口に運んだ。
うん。美味しい。ごてごてしてなくて、すっきり、さっぱり。
ミシェルもがんばった。
でも、ひと口でいい。
残りの胃袋は、すべてタルトで満たそう。
このサイズなら、3人分くらい食べても、問題ない。
クチをもぐもぐしながら、あたりを見渡した。
もう、大宴会だ。
声はほとんど怒鳴り声だった。
ケンカしているわけでもないのに、ものすごく騒がしい。
これが、盗賊の宴会なのか。
地面にはイビキをかいているおじさんと、すでに飲みほしたらしき、ワインボトルが転がっていた。
どこからともなく、誰かが唄い出すと、大合唱が始まった。
もしここが居酒屋だったら、間違いなく次から出禁だ。
唄はウガーラ語のようだ。
まったくわからないけど、メロディーは普通に西洋の民謡っぽい。
もしかしたら、この唄も、スコットランド民謡のパクリだったりして。
ミラーさんとかなら、知ってたりして。
もはや、だいぶ懐かしい。
何十年も前のことのように感じる。
てか、ウガーラ族って、雰囲気がミラーさんになんだか似てる。
だから、ウガーラ族といっしょにいれば、ミラーさんのことも忘れないね。
みんなの様子を眺めながら、次のタルトを引きちぎって口に入れた。
そのとき、ふと思い出した。
ダストスがいない。
近くにいたおじさんに尋ねる。
「ねぇ、ダストスは?」
「おかしらぁ? さあなぁ? もう寝たんじゃねぇか?」
グックはと首を回したら、すぐ近くにいた。
井戸にもたれ掛かり、いびきをかいていた。
ジンゲの背中に声を掛けた。
「ジンゲー!」
「おお? なんでやすかヒメ様。ワインいただいてやす、ごっそさんです」
「それはいいんだけど、ダストスは?」
「おかしらぁ? そういや見ませんねぇ」
どこ行っちゃんたんだろ。
「探しにいきますかい、ヒメ様」
「どこ?」
「たぶん、矢倉にいると思いますよ」
「え、なんで?」
「ダレかが見張ってなきゃいけないですからね。こういうときはいつも、おかしらが見張りについてくれてるんですよ」
「そっかぁ。すごいなぁダストス」
「ただ……ワインボトル1本、そっくり持って行っちまいましたけどね」
「あははは」
いいや。
そっとしとこ。
「ジンゲ」
「へい。ヒメ様」
「またちょっと、出かけてくるね」
「わかりやした。ワインの追加ですかい?」
「あはは、足りなそう?」
「酒はいくらあっても、足りたためしがありやせん」
「あっはは。もらえるか聞いてみる。行ってくるね」
「へい。いってらっしゃい。ヒメ様」
コップをポーチに戻し、ピーチサイダーの瓶を抱え直す。
やっぱり、この世界のNPCは、みんなとてもいいヒトだな。
ログインデバイスを出して、噴水広場へ渡った。
ルシアはどこだろう。
拠点に近づくと、ここでも大宴会だった。
焚火の周りで、大工さんたちが大騒ぎしている。
知らない通りすがりのようなオッサンもちらほら。
タデクはなぜか、大工さんと殴り合っていた。
ケンカしてるのかと思ったけど、違うのかもしれない。
こういう光景にも、最近慣れた。ほっとこう。
厨房にいくと、フリッツと調理人たちは、みんなそこにいた。
石窯の火はすでに落ちていて、ミシェルたちもワイングラスを片手に、食事を楽しんでいるようだ。
最初に声をかけてくれたのは、クララ。
「おかえりなさいませ、マドモワゼル」
そのあとにフリッツ。
「出張フォリオは、いかがでございましか?」
「ありがとう。最高だったよ。みんな大喜び。みきも鼻高々だよ」
「それはよかった。お客様にお喜びいただけてなによりです」
「ルシアは?」
「おそらく、宿舎の方におられるかと」
「ありがと」
建設現場を迂回して、宿舎へと向かう。
壁の切れ目から、ロウソクの灯りが漏れていた。
のぞき込むと、ルシアとロズが、テーブルで向かい合って座っていた。
「ル~シア」
「ミキー! オララ~!」
「なんか、ルシアも酔ってるね……ってか、この部屋お酒臭っ!」
「あらそんなことないわよ。アル中なんだから、酔ってるんじゃなくて、これが自然体なの」
「そんな自信満々にアル中って言われても……ディルは?」
「もう、テントに戻って寝ますわって」
「あはは。もしかしてディルも食べ過ぎ?」
「食べすぎ、呑みすぎね、あれは」
「ディルってなにげに、食べるの好きだよね」
「ッフフ。おふたりは仲良しなのですね」
ロズの声。
「ルシアと、ロズさん、なんか新鮮なコンビだ」
「聞いて、ミキ」
「うん?」
「私とロズね、めちゃめちゃ気が合うわ」
「ふーん」
「とにかく、ミキも座って。呑みなおすわよ」
「みきはお酒呑まないからね。しかもこれ、ワインじゃないでしょ」
「ロズが持ってきたウィスキーよ」
「じゃあ、ピーチサイダーで割って呑んでみたら?」
「それ……ありだわ……」
「ありですわね」
ロズも、ちょっとほろ酔いのようだ。
ロウソクに照らされる、ほろ酔いロズの横顔。
それは、ますます妖艶で、美しい。




