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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
572/586

6.6.23


 案内された家は、近づくほどオンボロだった。


 明らかに屋根も壁も傾いている。

 他の家よりは少し大きいせいか、オンボロさが他の家よりも際立って見える。

 そしてその家が、ダストスらが住む家だと、グックが言った。


 生活をする家というよりも、雨風を凌ぐ屋根と壁。

 その壁も、強風で何度も飛ばされたのか、太い丸太を何本も斜めに立て掛け、補強されている。

 しかもその圧力で変な傾きかたをしているのか、家全体が、歪んでいる。


 ダストスは、玄関とおぼしきドア枠の向こうにいた。

「ミキじゃない。どうしたのよ。なんでここに?」

「あのね、衝動的に、ジンゲとグックについてきちゃった」

「なにそれ、アッハハハ」


 ジンゲが、牛車の荷台を指してダストスに言った。

「みてくだせぇ、おかしら。ヒメ様からの頂き物です」

「なによこのガラクタ」

 次はグックがヒゲを動かした。

「ひっでぇなおかしら。ヒメ様が捨てるか燃やすっていうから、うちらで引き取ってきたんだぜ」


 ジンゲとグックが、ガラクタの説明を始めた。

 ぱらぱらと、周囲からヒトが集まって来る。


 みんな中年かそれ以上の年寄りばかり。

 男性は手斧を持ち、弓を背負っているヒトもいる。

 アゴヒゲのない、女性とわかる人影もあるが、ほんの数人。

 みんな、手作り感のある毛皮のベストを羽織っていた。

 はためには、どうみても、盗賊の集団だ。


「鉄も結構あるだろ、おかしら」

「溶かしてコインに戻せば、200枚近く作れますぜ」

「そうね。ねぇ、ミキ、ホントにもらっていいの?」

「いらないって言われて、ここから持って帰れっていわれてもムリだからね」

「じゃあ全部もらうわね。ありがとねミキ」

「えへへ。よかった」

「今日はどうするの? ここに泊っていくの?」

「うん。ひとりじゃ帰れないし」


「いいわよ。明日、アタシが送って行ってあげるわ」

「え、ダストスが?」

「ちょうどマスターに話したいことがあるのよ」

「そっか。じゃあお願い」

「その代わり朝早いからね。今日は早く寝なさいよ」

「はーい……あっ!」

「どうしたのミキ?」


「今夜、オーブン祭り!」

「え?」


「ちょっと、みき、出かけてくる。またあとでねダストス」

「ええ、どこ行くの、ひとりじゃあぶないわよ?」

「記憶の回廊だよ。ちょっと待っててね」


 ゲートを出し、ダストスに手を振りながら、虹の幕に吸い込まれる。


 夕方にはまだ少し早いが、拠点へと向かう。

 近づくほどに匂いが……凄まじい……


 トマトや、オリーブ。バターやクリームの甘い香り。

 新規オープンのピザ屋とタルト屋が、ドアも窓もあけっぱなしで営業を始めたような、複雑だが胃袋を引っ掻き回す香ばしい匂い。

 その空気が、辺りに漂いまくっていた。


 調理場は焚火ではなく、建設中の厨房エリアに移ったようだ。

 厨房は、小川を渡って右側のエリア。

 石を敷き詰めた灰色の床が、白い壁で囲まれている。

 柱はおそらく樫。壁はたぶん漆喰。


 ミシェルとハンナちゃんが、ちょこちょこと動き回っている。

 その一角に煙突が生えた2基の石窯が鎮座していた。

 まだ天井がないので、空高くそびえる煙突の先から煙が見えるし、少しケムい。


 傍らのテーブルには、すでに多くの食べ物が並んでいた。

 フリッツとクララ、ルシア、タデク。そしてディル。

 あたらしく加わった、ロズもいる。

 その6人が立ち姿で長テーブルを囲み、試食をしていた。

 窯の深さだとか、火の入り具合がどうのこうのと会話をしている。


 お皿に盛りつけられているのは、ハンナちゃんの予告通り。

 巨大なピザ。

 特大のタルト。

 焦げ目のついた山盛りのロースト野菜。

 そして、丸焼きにされた複数のウサギさん。

 ウサギさんだけは、ちょっと怖いけど、美味しそうに見える。


 横からフリッツの声。

「おかえりなさいませ、マドモワゼル。今夜は立食会になってしまいますが、お好きに手に取って、味をご確認ください」

「うん、あ、あのねフリッツ、お願いがあるんだけど……」

「はい?」


 わたしは、フリッツに事情を説明した。

 メモリアでお世話になっているダストスについても簡単に説明。


「かしこまりました。村には何名ほどいらっしゃるのでしょうか?」

「20人くらい?」


「ウィ、マドモワゼル。確かに承りました。

 クララ、ロズ、それと……タデク様」


「ウィ?」

「ああ?」


 口の周りにいろいろくっつけたルシアも反応した。

「ちょっとフリッツ、私も手伝うわよ、なんで呼んでくれないの!」


「ではルシア様も。20名のご予約を承りました。すぐに用意を始めてください」

「ウィ、ムッシュ!」


「え、え、ちょっと、そんなに大丈夫?」

「問題ございません。フォリオ・ノーメルシーのマイスターである、マドモワゼルの威厳を損なうなどあり得ません。最高の準備をさせていただきます。30分ほどお待ちください」


「う……うん……」


「ロズは、料理のとりわけをお願いします。クララはペアリングワインの準備を」

「オレは? なにするんだ?」

「ルシア様と共に、噴水広場までの荷運びのお手伝いをお願いたします」


 なんだか、とんでもないことになっている。

 相談するヒト、間違えたかも。


(みきちゃん、みきちゃん)

(え……あ、ハンナちゃん)

(元々ね、食べきれる量じゃないから、問題ないよ)

(そうなの? じゃあ大工さんたちにもわけてあげたら?)

(大工さんにも、まかないのピザ出すけど、それでもあまりまくりだよ)

(ふーん……どんだけ作るの?)

(50人分くらい?)


「マドモアゼル。よろしいですか」

「うい? むっしゅ?」

「ピストン輸送を行いますので、噴水広場のほうでお待ちください」



「うい……らじゃ」



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