6.6.23
案内された家は、近づくほどオンボロだった。
明らかに屋根も壁も傾いている。
他の家よりは少し大きいせいか、オンボロさが他の家よりも際立って見える。
そしてその家が、ダストスらが住む家だと、グックが言った。
生活をする家というよりも、雨風を凌ぐ屋根と壁。
その壁も、強風で何度も飛ばされたのか、太い丸太を何本も斜めに立て掛け、補強されている。
しかもその圧力で変な傾きかたをしているのか、家全体が、歪んでいる。
ダストスは、玄関とおぼしきドア枠の向こうにいた。
「ミキじゃない。どうしたのよ。なんでここに?」
「あのね、衝動的に、ジンゲとグックについてきちゃった」
「なにそれ、アッハハハ」
ジンゲが、牛車の荷台を指してダストスに言った。
「みてくだせぇ、おかしら。ヒメ様からの頂き物です」
「なによこのガラクタ」
次はグックがヒゲを動かした。
「ひっでぇなおかしら。ヒメ様が捨てるか燃やすっていうから、うちらで引き取ってきたんだぜ」
ジンゲとグックが、ガラクタの説明を始めた。
ぱらぱらと、周囲からヒトが集まって来る。
みんな中年かそれ以上の年寄りばかり。
男性は手斧を持ち、弓を背負っているヒトもいる。
アゴヒゲのない、女性とわかる人影もあるが、ほんの数人。
みんな、手作り感のある毛皮のベストを羽織っていた。
はためには、どうみても、盗賊の集団だ。
「鉄も結構あるだろ、おかしら」
「溶かしてコインに戻せば、200枚近く作れますぜ」
「そうね。ねぇ、ミキ、ホントにもらっていいの?」
「いらないって言われて、ここから持って帰れっていわれてもムリだからね」
「じゃあ全部もらうわね。ありがとねミキ」
「えへへ。よかった」
「今日はどうするの? ここに泊っていくの?」
「うん。ひとりじゃ帰れないし」
「いいわよ。明日、アタシが送って行ってあげるわ」
「え、ダストスが?」
「ちょうどマスターに話したいことがあるのよ」
「そっか。じゃあお願い」
「その代わり朝早いからね。今日は早く寝なさいよ」
「はーい……あっ!」
「どうしたのミキ?」
「今夜、オーブン祭り!」
「え?」
「ちょっと、みき、出かけてくる。またあとでねダストス」
「ええ、どこ行くの、ひとりじゃあぶないわよ?」
「記憶の回廊だよ。ちょっと待っててね」
ゲートを出し、ダストスに手を振りながら、虹の幕に吸い込まれる。
夕方にはまだ少し早いが、拠点へと向かう。
近づくほどに匂いが……凄まじい……
トマトや、オリーブ。バターやクリームの甘い香り。
新規オープンのピザ屋とタルト屋が、ドアも窓もあけっぱなしで営業を始めたような、複雑だが胃袋を引っ掻き回す香ばしい匂い。
その空気が、辺りに漂いまくっていた。
調理場は焚火ではなく、建設中の厨房エリアに移ったようだ。
厨房は、小川を渡って右側のエリア。
石を敷き詰めた灰色の床が、白い壁で囲まれている。
柱はおそらく樫。壁はたぶん漆喰。
ミシェルとハンナちゃんが、ちょこちょこと動き回っている。
その一角に煙突が生えた2基の石窯が鎮座していた。
まだ天井がないので、空高くそびえる煙突の先から煙が見えるし、少しケムい。
傍らのテーブルには、すでに多くの食べ物が並んでいた。
フリッツとクララ、ルシア、タデク。そしてディル。
あたらしく加わった、ロズもいる。
その6人が立ち姿で長テーブルを囲み、試食をしていた。
窯の深さだとか、火の入り具合がどうのこうのと会話をしている。
お皿に盛りつけられているのは、ハンナちゃんの予告通り。
巨大なピザ。
特大のタルト。
焦げ目のついた山盛りのロースト野菜。
そして、丸焼きにされた複数のウサギさん。
ウサギさんだけは、ちょっと怖いけど、美味しそうに見える。
横からフリッツの声。
「おかえりなさいませ、マドモワゼル。今夜は立食会になってしまいますが、お好きに手に取って、味をご確認ください」
「うん、あ、あのねフリッツ、お願いがあるんだけど……」
「はい?」
わたしは、フリッツに事情を説明した。
メモリアでお世話になっているダストスについても簡単に説明。
「かしこまりました。村には何名ほどいらっしゃるのでしょうか?」
「20人くらい?」
「ウィ、マドモワゼル。確かに承りました。
クララ、ロズ、それと……タデク様」
「ウィ?」
「ああ?」
口の周りにいろいろくっつけたルシアも反応した。
「ちょっとフリッツ、私も手伝うわよ、なんで呼んでくれないの!」
「ではルシア様も。20名のご予約を承りました。すぐに用意を始めてください」
「ウィ、ムッシュ!」
「え、え、ちょっと、そんなに大丈夫?」
「問題ございません。フォリオ・ノーメルシーのマイスターである、マドモワゼルの威厳を損なうなどあり得ません。最高の準備をさせていただきます。30分ほどお待ちください」
「う……うん……」
「ロズは、料理のとりわけをお願いします。クララはペアリングワインの準備を」
「オレは? なにするんだ?」
「ルシア様と共に、噴水広場までの荷運びのお手伝いをお願いたします」
なんだか、とんでもないことになっている。
相談するヒト、間違えたかも。
(みきちゃん、みきちゃん)
(え……あ、ハンナちゃん)
(元々ね、食べきれる量じゃないから、問題ないよ)
(そうなの? じゃあ大工さんたちにもわけてあげたら?)
(大工さんにも、まかないのピザ出すけど、それでもあまりまくりだよ)
(ふーん……どんだけ作るの?)
(50人分くらい?)
「マドモアゼル。よろしいですか」
「うい? むっしゅ?」
「ピストン輸送を行いますので、噴水広場のほうでお待ちください」
「うい……らじゃ」




