6.6.21
夜が更けた。
グックとジンゲのくだらない会話を聞いていた。
ほんのひととき、目蓋を降ろしただけなのに、わたしは寝てしまった。
騒音で目が覚めると、グックとジンゲが、焚火の反対側で特大のイビキをかいていた。
焚火の勢いは変わっていない。
全員寝込んでいたのも、長い時間ではなかったと思う。
って言うか、わたしは、イビキがうるさくて起こされただけだ。
ものすごく眠い。
なのに、ちょっとまってよ。
見張りはどうするの。
灯巫女が出たせい?
安全だと信じ切っているの?
それならそれでいいんだけど、わたしは悩んだ。
また眠ってもいいものかどうか。
ものすごく眠いのだから、ちょっと横になるだけで、数秒で眠りに落ちる自信がある。
座ったままでも熟睡できると思う。
グックとジンゲは、気持ちよさそうにイビキを繰り返している。
ふたりの寝顔を見ているだけで、ますます眠くなる。
このまま、水辺のある森の近くの原っぱで、眠りこけたらどうなるのか。
このふたりは放っておいて、安全な拠点に帰って寝ようか。
そんなことしたら、火の番もいなくなる。
焚火の火は、絶対に絶やしてはいけないと、おにいちゃんに何度も言われた。
こんな場所で、真夜中で、火の番がわたしだけ。
とりあえず、薪木をくべた。
少し分散して、少しでも長く燃えるように。
夜空を見上げながら、どうしたらいいかと考えた。
おにいちゃんだったら。
文句言いながら、朝まで起きてるかも。
タデクだったら、どうするか。
寝ちゃうね。
寝てるふたりを、叩き起こしてから寝るね。
アルベールだったら。
こんな事態には、ならないね。
まゆさんだったら……
魔法……
リュウタを呼んで、朝まで見張ってもらう……
ダメだ。そんなに長い時間、リュウタを出し続けるのはムリだ。
警報魔法も、わたしは使ったことがない。
その手の魔法を発動していたのは、いつも、まゆさんだった。
わたしがやったことといえば、温泉魔法くらいだ。
みんなが、ぐっすり眠れて、朝になったら起きる魔法。
ダメだ。これじゃ完全に寝てしまう。
朝までダレも起きない。
川辺に、青い光がふわふわと浮いていた。
光りの粒は、ソレひとつだけだった。
わたしはしばらく、それを眺めていた。
消えもせず、近づくこともない。
ただ、ふわふわ、ユラユラと、川辺で揺れているだけ。
あれも、灯巫女かなぁ。
安全なのかな。
揺れ動く光を眺めていると、それはもう、催眠術の振り子ようで。
眺めていると、意識が……霞んでいく。
……
「おい、ヒメ様」
ダレかがわたしの肩を叩いている。
「う……ん」
「ヒメ様、おきろ。朝だ」
「え……」
目を開けると、日の出の色はなく、完全に朝。
辺りには、ヒラヒラと、蝶々が舞っている。
寝ていた。完全に。
「あれ……寝てた?」
「おう。寝てたな。目ぇ覚めたか?」
「うん……おはよう」
「夕べは済まなかったなぁ。俺もジンゲも寝ちまったよ」
「うん、大丈夫だった?」
「おう。嬢ちゃんが起きて、火の番をしててくれたおかげだ。助かったぜ」
「え? 寝てたよみきも」
「うん? 起きてたろ、俺と交代したところで、すぐに寝ちまったけどな」
「そうなの?」
「なんにも言わねぇで、パタッと寝ちまうから、怒らしちまったのかとヒヤヒヤしたぜ」
寝落ちするタイミングで、グックが起きたのかな。
「じゃあ、見張りは大丈夫だったの?」
「おう。問題なしだ。死なずに朝を迎えたよ」
「そっか。よかった」
「そんじゃ、出発するか」
「うん」
ジンゲは、荷車に牛を繋いでいた。
そのあとふたりは、革水筒のキャップを開けて、エールを煽る。
わたしも呑むかと勧められたけど、昨日残しておいたパンケーキを食べる。
そういえばわたし、マントは羽織っているけど、それ以外の旅の装備を、なんにも身に着けてなかった。
ふたりにちょっと待っててと告げて、噴水広場へ行き、顔だけ洗った。
念のため、広場を見渡したけど、世川君の姿はない。
こんなところで、1日中座って待っているのは嫌だ。
メモリアに戻り、旅を再開。
わたしは、グック、ジンゲと共に、ウガーラ族のアジトへと向かった。




