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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
569/586

6.6.20


 おかえり?



「おっ……おい、ヒメ様っ。どうした!」


 グックの声が聞こえたのとほぼ同時。

 鈴の音が、上から引っ張られたかのように、一斉に闇に吸い込まれた。

 光の粒もすべて消えてしまった。


 あっというまに、闇夜の川辺になっていた。


「グック……」

「なんだよ、いまの。まさか灯巫女(あかりみこ)か? いやいや、あんなにたくさん? いやいやいや、信じられねぇ」


「いまね、すっごい邪魔したと思う」

「はぁ?」


「うーん……まぁいいや。ご飯たべよう」

「お、おう」




 焚火に戻ると、薪木を抱えたジンゲもいた。

 わたしが持ってきたカゴを眺めている。

「ヒメ様、これ、あっしらに差し入れですかい?」

「うん。パンケーキ8枚もあるから、グックとジンゲにも2枚づつあげるね。あとこれも、みきは1杯だけでいいよ」


「もしかしてこれ、酒ですかい?」

「うん。シードル」

「シードル?」



 そのまま3人で、ささやかな宴。

 グックとジンゲは、シードルのボトルを奪い合いながら回し飲み。

 バターは3等分して、パンケーキにつけて食べる。


「バターをつけて、こんなフカフカなパンを食うなんて。生まれて始めてだ」

 もう50を過ぎているだろう、グックがそう言った。

 オート麦だからだろうか。

 フカフカではない。

 外はパサパサ。

 でも噛むと、クセになりそうなモチモチ食感。


「リンゴ酒も美味いですぜ。安物のアップルワインよりも断然うめぇ」

 パンケーキよりも、シードルの方が、ふたりは気に入ったようだ。


 2人が作ったのは、雑草と黒パンのシチュー。

 ライ麦でも大麦でもなさそうな、ちょっと青臭い香りのパン。

 その鍋にエールをかけて出来上がりらしい。

 匂いはほぼエール。

 わたしも、ひとくち……

 幼稚園でつくった泥団子を煮て食べたら、こんな味かもしれない。


「さっきのは、灯巫女だよなヒメ様。俺も初めて見たぜ」

「あかりみこ?」

「あれ、知らねぇのか?」

「うーん、聞いたことあるような……」


「灯巫女がでてくるんじゃあ、この辺りは安全だ。夜も安心して眠れるぜ」

「へー。なんかお守りみたいな小人さんだね」

「ジンゲんとこの娘も、小さい頃に見たつってたよなぁ?」

「ホントかどうかは知らねぇですが、そう言ってやすね」


「子供のところには出てくるの?」

「夜中に迷子になった子供の近く出てきて、助けられたって話が、この辺りにはたくさんあるんですよ」

「そうなんだー。やさしいんだね、灯巫女って」

「どうだかなぁ。そのまんま森に誘い込まれて、帰ってこなかった……なぁんてハナシもある」

「そうそう。大昔は、妖し巫女とも呼ばれてたらしいですぜ」

「あやしみこ……急にコワ」


「って言っても、カタセ村ができる前は、この辺りにはだーれも住んじゃいませんでやしたから。ホントかどうか。それこそ妖しい話です」


「にしても、あんなにたくさん出て来るなんてなぁ。

 あのまま、ヒメ様が引きずり込まれちまうんじゃねぇかと思ったぜ。なにしてたんだい?」


「うーん、お話?」

「お話って……大丈夫かい、ヒメ様?」

「うん。あのまま連れ去られてたのかなぁ」


「どんな話をしてたんでやすか? 灯巫女と会話したなんて、子供の与太話でしか、聞いたことありやせんぜ」


「おかえりって、言われたと思う」

「へぇ……なんかおっかねぇな……やっぱり引きずり込もうとしてたんでやすかね」


「ヒメ様はもしかしたら、灯巫女に好かれる体質なのかもな。ッカカカ」

「体質?」

「どんな体質ですかい?」


「そんなもん、俺が知るかよ。言ってみただけだ」



 妖しい感じなんて、ぜんぜんしなかった。

 どっちかと言えば、パパとママに似たような、懐かしい感じ。

 もういちど会ってみたいなぁ。


 ん?


 ふと、小川のほうに視線を向けると、遠く対岸に3つの小さな灯り。

 ヒト魂とは違う。

 羽虫が発光しているような、ぼんやりとした小さな光が、ふわふわと浮かんでいた。


「ねぇ、あれだよね?」

「え?」


 ジンゲとグックが、視線を向けると、またふっと、消えてしまった。


「あ、消えちゃった」

「ホントに……大丈夫かい、ヒメ様?」


「なんで、みきのところには、出てきてくれたんだろう」

「さぁな。子供と間違えられたんじゃねぇか」

「ムムム。怒るところ?」


「ヒメ様はいま、いくつなんですか?」

「じゅうろくだよ」

「へぇ。じゃあ、ガロムのひとつ下か」

「え……っ」


「ガロムはいまたしか、17じゃねぇか」

「えーっ! ガロムちゃん、みきより年上なの?」

「おぅ。おかしらが脱走してきたのが24年前。生まれたのはその7年後だからな。17で間違いねぇ」


「ガロムちゃん、見た目より、だいぶ年長だった」

「そうだなぁ。おかしらも、小さい頃は童顔だったからよ。でも、おかしらの若い頃に、よく似てる。っつーかそっくりだぜ」


「えーと……まって、それ。それは、みきが聞いてよかったこと?」

「あれ、俺いま、なんつった?」


 まぁでも。だいたい予想はしていた。

 ガロムちゃんは、やっぱり、ダストスさんの娘なんだね。

 だって、ぜんぜんマスターと奥さんには似てないもん。


 それよりも。

 13歳くらいだと思ってたガロムちゃんが、わたしより年上だったというほうが驚いた。


「すまねぇ、ヒメ様。このことは黙っといてくれ」

「うん。もちろん。ダレにも言わないよ。ガロムちゃんにもね」

「ああ。頼むよ。ヒメ様」



 ダストスは、王国から指名手配されている、ウガーラ族の族長の娘。

 ガロムちゃんが、そのダストスの娘だと知れたら……


 捕まったら、どうなっちゃうのか。

 カタセ村には住めなくなるかもしれない。

 処刑なんてことになったら、わたしが絶対助けに行く。

 だから、そんなの怖いから、ダレにも言わない。


 でも、そっかぁ。

 ガロムちゃんは、ウガーラ族の次の族長なんだね。



 ダレにも言わないけどね。




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