6.6.19 - ふる里
こんな夜の野営地で、リンリンと鈴の音。
音の出所を探そうと、顔を巡らせたが、あたりは真っ暗だ。
明るいのは、焚火に照らされる草地だけ。
川は真っ黒。川岸の岩や石ころだけが、ゆらゆらと焚火に照らされている。
周囲に茂っているのは、わたしの身長と同じくらいの葦。
川の反対側は平原で、その先は真っ暗。
はるか遠くと感じられる闇の先に、いくつもの星が光っていた。
音は、川のほうからだ。
川辺の左側には、牛のお尻。
草を食んでいるのか、あるいは水を飲んでいるようだ。
すぐ近くにグックとおぼしき影もみつけた。
わたしは、パンケーキの入ったカゴを焚火の傍に置いて、音のする場所を探した。
聞こえるのは、グックがいるのとは反対。
川に向かう右側。
葦の茂みの先だろうか。
リンリン、リンリン。
近づいたと思うのに、音の大きさは変わらない。
葦の中に踏み込んでいく。
数歩で、真っ暗闇になっていた。
葦をかきわける手元が闇に沈み、足元はなにも見えなくなった。
なのに、怖いとは思わなかった。
不気味にも感じない。
その音はなんだか子守歌のようで、こっちにおいでと、わたしを手繰りよせていく。
振り返りもせずに、暗がりを進んでいく。
進むほどに、川音が大きくなる。
鈴の音の大きさはそのままだが、数が増えている気がする。
最後の葦とおぼしき草の感触。
それをかきわけて、わたしは前へと進んだ。
光りの粒が、川面を照らしていた。
赤色、黄色、青色。
鈴の音もそこから。リンリン、リンリン。
ネオンサインを反射した、水たまりのような川面。
鈴をつけた浮き輪を浮かべて、子供たちが、水遊びをしているような音色。
わたしはその場でしゃがみ込み、光の粒に目をこらした。
あれはなんだろう。よく見えない。
カラフルな蛍のような小さな虫が、川面を飛び回っていた。
4匹、5匹……いや、6匹。
数え間違えたわけじゃない。
飛び回る光の粒が、増えていく。
気がつけば、わたしの、すぐ傍にも。
その姿は、羽の生えた小さな人形……
妖精……?
気付くと、わたしは、蛍の群れの真っ只中にいた。
地面から、暗い空間から、川の上から。
ポツポツと増えていく光の粒。
それを灯す、小さな妖精。
その妖精たちが飛び回っている。
わたしの目の前を横切っていく。
不思議そうな顔をしながら、微笑みかけながら、おっかなびっくりの顔を向けながら。
いったい何匹いるんだろう。
真っ暗闇だった川のほとりが、妖精の光でぼんやりと照らされている。
もう数えることもできない数の光る妖精。
その粒が、わたしの周囲を覆いつくしていた。
おもわず、目を閉じた。
心地よい、ウィンドチャイムのような鈴の音。
何十、何百と鳴り響いているのに、少しも耳障りに感じない。
それどころか、包み込まれるような懐かしい気持ちが湧き上がる。
揺りカゴの中で聞く、ベッドメリーのようなやさしい音色。
目を開けた。
しゃがんだまま、右手を広げた。
右手を前に出しただけ。
どうしてそうしようと思ったのか。
そうしてほしいと言っている気がした。
青い光を放つ妖精が、わたしの右手に上で浮遊した。
男の子なのか、女の子なのか。
はっきりしないカラダ。服は着ていない。
年月を経た、樹皮のような肌色。
頭は花のつぼみのように、くるんとしている。
黒く窪んだ昆虫のような目と、膨らんだ鼻。口はあるのだろうか。
背中から伸びるのは、柳の葉のような細長い羽。
青い光りは、羽から滲みでている。
妖精と目が合う。
窪んだ黒目で、不思議そうに、わたしの顔を見上げていた。
わたしはおもわず、フフッっと微笑んだ。
「お名前は?」
妖精はクビを傾げた。
それなら、意識で。
お名前は……?
おなまえ?
おなまえって、なに?
わたしはね、みき。
みき……
みき……みき……
ああ……みき。
そうか。やっと、帰ってきたのか……
みき……
おかえり。
みき……




