6.6.17
牛車の荷台はカラだ。
グックが荷台に乗れというので、荷台に座った。
グックが、牛のお尻をひっぱたくと、木の車輪がカラカラと音を立てる。
遅い。
歩くのと大してかわらない。
おやしろに着く前に、陽が暮れるかもしれない。
荷車は動いているのに、台の端っこに蝶が止まって羽を休めている。
木の車輪が、石ころを踏んづけて飛び上がると、蝶はまたどこかへ飛び立っていく。
のどかだ。
遅いから、のどかだ。
御者台に座るグックが顔を向けた。
「乗り心地はどうだい、ヒメ様」
「お尻が痛い。歩いたほうが楽かも。ジンゲは乗らないの?」
「あっしは、痔主なんで、やめときます」
「地主?」
荷台の荷物は、端っこにうずくまるズタ袋だけ。
「この袋は?」
「それは、帰りの弁当です」
「ふーん。今日帰るの?」
「そうでやすね。夕方に発って、適当に途中で野宿すれば、明日の午後には戻れやすね」
「娘さんはどんなヒト?」
「娘っていっても、もうハタチを過ぎてますよ。ヒメ様よりも少し年上ですね」
「へー。グックも?」
「うちはもう三十過ぎだ。旦那もいるし、孫もいるよ」
「そっかぁ」
「この村のおかげで、娘たちも平穏に暮らせてるよ。ありがてぇこった」
「そっか。森での生活は大変?」
「畑は少ししかねぇけど、川に行けば魚も獲れるし、森に入ればなんでも手に入る。文明的とは言えねぇが、ずっとそれを続けてるよ」
「王様に狙われてるの?」
「どうだろうなぁ。もう25年も経っちまって、女王様も代替わりしたらしいし。狙われてるとしても、おかしらだけかもしれねぇな」
「ダストスが、ずっと狙われるの?」
「脱獄してきたまんまだからな。捕まえる理由は、永久につき纏う」
「そっかぁ。あんなにいいヒトなのにね」
「いいヒトか。そうだな。ありがとうよ、ヒメ様」
「ダストスには、子供とかいないの?」
「……それは俺たちにゃ、聞かねぇでくれ」
「うん?」
おやしろに着いた。
「ホントにこれ、貰っていいんですかい、ヒメ様」
ガラクタの山を見た、ジンゲとグックは、喜んだ。
わたしから見たらゴミの山だが、このふたりには、宝の山らしい。
「あ、あとね、階段も修理してほしいんだけど、できる?」
「階段?」
おやしろのドアを開けて、中を見せる。
「あの階段」
「おお、あれか。いい加減に作ったからなぁ」
おどろいたことに、グックが家の中に入っていた。
「え、中に入れるの!」
「あぁ? 入っちゃまずかったか?」
「いいけど、入れないと修理できないし」
「作り直すとなると、大変だから補強だな。それであと25年くらいはもつだろ」
「ふーん。すぐにできそう?」
「もう陽が暮れるし道具もねぇから、今日はムリだが、始めたら半日で終わるよ」
「じゃ今度直しにきて!」
「まぁ……いいけどよぉ。今度な」
「積み込みおわりやしたぜ」
「おぅ、じゃあ帰るか」
「アジトに帰るの?」
「アジトって言うなよ……せめて隠れ家とか」
なんか、わたしも、行ってみたい。
どうせヒマだし……
「ねぇ、みきもいっしょに行っていい?」
「どこに?」
「隠れ家」
「なにしに?」
「うーん、遊びに?」
「本気かよ、ヒメ様」
「うん。いまヒマだし」
「どうするよ、ジンゲ」
「いいんじゃねぇですか? あっしらがいれば、道中も安全でしょう」
「ちなみにね、旅には慣れてるから、心配しないで」
「ほう?」
「これでも、いちおう、わたしびと様だからね!」




