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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
566/586

6.6.17


 牛車の荷台はカラだ。

 グックが荷台に乗れというので、荷台に座った。

 グックが、牛のお尻をひっぱたくと、木の車輪がカラカラと音を立てる。



 遅い。


 歩くのと大してかわらない。

 おやしろに着く前に、陽が暮れるかもしれない。


 荷車は動いているのに、台の端っこに蝶が止まって羽を休めている。

 木の車輪が、石ころを踏んづけて飛び上がると、蝶はまたどこかへ飛び立っていく。


 のどかだ。

 遅いから、のどかだ。


 御者台に座るグックが顔を向けた。

「乗り心地はどうだい、ヒメ様」

「お尻が痛い。歩いたほうが楽かも。ジンゲは乗らないの?」

「あっしは、痔主なんで、やめときます」

「地主?」


 荷台の荷物は、端っこにうずくまるズタ袋だけ。

「この袋は?」

「それは、帰りの弁当です」

「ふーん。今日帰るの?」

「そうでやすね。夕方に発って、適当に途中で野宿すれば、明日の午後には戻れやすね」


「娘さんはどんなヒト?」

「娘っていっても、もうハタチを過ぎてますよ。ヒメ様よりも少し年上ですね」

「へー。グックも?」

「うちはもう三十過ぎだ。旦那もいるし、孫もいるよ」

「そっかぁ」


「この村のおかげで、娘たちも平穏に暮らせてるよ。ありがてぇこった」

「そっか。森での生活は大変?」

「畑は少ししかねぇけど、川に行けば魚も獲れるし、森に入ればなんでも手に入る。文明的とは言えねぇが、ずっとそれを続けてるよ」


「王様に狙われてるの?」

「どうだろうなぁ。もう25年も経っちまって、女王様も代替わりしたらしいし。狙われてるとしても、おかしらだけかもしれねぇな」


「ダストスが、ずっと狙われるの?」

「脱獄してきたまんまだからな。捕まえる理由は、永久につき纏う」

「そっかぁ。あんなにいいヒトなのにね」

「いいヒトか。そうだな。ありがとうよ、ヒメ様」


「ダストスには、子供とかいないの?」

「……それは俺たちにゃ、聞かねぇでくれ」

「うん?」




 おやしろに着いた。

「ホントにこれ、貰っていいんですかい、ヒメ様」

 ガラクタの山を見た、ジンゲとグックは、喜んだ。

 わたしから見たらゴミの山だが、このふたりには、宝の山らしい。


「あ、あとね、階段も修理してほしいんだけど、できる?」

「階段?」


 おやしろのドアを開けて、中を見せる。

「あの階段」

「おお、あれか。いい加減に作ったからなぁ」


 おどろいたことに、グックが家の中に入っていた。

「え、中に入れるの!」

「あぁ? 入っちゃまずかったか?」

「いいけど、入れないと修理できないし」


「作り直すとなると、大変だから補強だな。それであと25年くらいはもつだろ」

「ふーん。すぐにできそう?」

「もう陽が暮れるし道具もねぇから、今日はムリだが、始めたら半日で終わるよ」

「じゃ今度直しにきて!」

「まぁ……いいけどよぉ。今度な」



「積み込みおわりやしたぜ」

「おぅ、じゃあ帰るか」

「アジトに帰るの?」

「アジトって言うなよ……せめて隠れ家とか」


 なんか、わたしも、行ってみたい。

 どうせヒマだし……


「ねぇ、みきもいっしょに行っていい?」

「どこに?」

「隠れ家」

「なにしに?」

「うーん、遊びに?」


「本気かよ、ヒメ様」

「うん。いまヒマだし」


「どうするよ、ジンゲ」

「いいんじゃねぇですか? あっしらがいれば、道中も安全でしょう」


「ちなみにね、旅には慣れてるから、心配しないで」

「ほう?」



「これでも、いちおう、わたしびと様だからね!」




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