6.6.16
やることがない。
レストラン云々も、しばらくわたしの出番はないらしい。
ふらふらと遠くに出歩くわけにもいかない。
うろうろしてると邪魔になる。
座っていると、わたしにお茶を運ぶフリッツの仕事が増える。
それならピエールはと探したが、また行方不明だった。
噴水広場に行った。
石の囲いに座って、世川君はいつ来るんだろうなどと、ぼんやりと考えたりした。
周囲は、建築の音が響き渡っているけど、以前と比べて、噴水周辺を歩き回る人は少ない。
飽きたので、メモリアへ。
まだ少し早いけど、布団を取り込むことにした。
ギシギシと音をたてる階段の上り下りが怖い。
山積みのガラクタも、どうにかしたい。
ダストスさんと、連絡を取るには、どうしたらいいんだろうか。
布団を取り込んでから、まだ明るいので、酒場へ行くことにした。
なんだかわからないけど、酒場はいつも忙しそう。
営業時間は朝から夜まで。
混むのは夜だけど、昼間もチラホラとお客さんが来る。
それ以外にも、相談事で訪れるヒトもいる。
レクサムかコンフィが言ってたけど、実際のところ、マスターはこの村の相談役で、村長のような存在だった。
「みきちゃん、いらっしゃい。ご飯食べにきたの?」
ガロムちゃん。
今日は、スバナちゃんを背負っている。
「ヒマだから、遊びにきた。なんか手伝うことある?」
「いまはないかなぁ。お父さんは仕込みしてるけど」
スバナとガロムちゃん。
姉と弟だと思うけど、ぜんぜん似てないなぁ。
「ねぇガロムちゃん。ダストスてどこに住んでるの?」
「ダストス? この村には住んでなくて、南の方の森の中に住んでるよ」
「ふーん。別の村?」
「村っていうか、拠点? ねぐら? 隠れ家?」
「アジト?」
「うん。そんな感じ。ウガーラ族は反逆者集団だからね。王様にみつかったら、討伐されちゃうかもだからって」
「じゃあ、会いたかったらそこまでいくの?」
「緊急のときは、のろしをお父さんが焚いたらすぐ来てくれるよ。このあいだのオオカミのときもそう」
「ふーん。南の森って遠いの?」
「あたしも行ったことあるけど。歩きだと朝早く出て、ギリギリ陽が落ちる前に着くくらいの距離だから、近くはないね」
「そんなに遠いのかぁ」
「どうしたの? 緊急?」
「緊急じゃないけど。普段は、どうしてるのかなーって」
「うーん。ふだんは盗賊? たまにお店にくるから、毎日くればそのうち会えるよ」
やっぱ盗賊カヨ……
自警団じゃないのカヨ……
「ダストスはいねぇけど、グックとジンゲなら、娘に会いにきてるぞ」
マスターが店から出て来た。
「娘?」
「さすがに、娘に盗賊の真似事みてぇなことはさせたくねぇだろ。この村はよ、ウガーラ族2世とか、盗賊が嫌になったとか、老齢で引退したやつとかの拠り所でもあるからな」
「へー」
海賊アイパッチと、うさんくさいサンタクロースの娘か。
気になる。
「あいつらでいいなら、夕方前に顔出すんじゃねぇか? 待ってりゃそのうち会えるぞ」
「娘は気になるけど、グックとジンゲ会ってもなぁ……」
「腹は減ってるか? なんか食ってくか?」
「もう、どうして、みきの顔みると、いつもお腹空いたなの!」
「なんだ、減ってねぇのか」
「減ってる……おカネはないけど」
「ッハハハ。じゃあ、ちょっと待ってな」
マスターは、蒸したようなリンゴの切り身を出してくれた。
砂糖も蜂蜜も使ってなさそうだが、外側はサッパリ。内側は甘い。
レモンを使って蒸したのかもしれない。
フレンチだと、バターやらハーブやらで風味が豊かになるけど、やっぱこういうストレートな味の方が、わたしには合っている。
リンゴの切り身を、ガロムちゃんと、スバナちゃんとも分け合って、いっしょに食べた。
「おや、ヒメ様じゃねぇですかい。お久ぶりで」
白ヒゲサンタのジンゲだ。
この村の住人は、酒場以外では、わたしはヒメ様で定着していた。
村のヒトだけかと思ったら、ジンゲまでそう呼んだ。
もういい。それでいい。
「グックは?」
「馬車を取りにいってますぜ」
「馬車あるんだ。スゴイね」
「ウガーラ族の最後の財産でさぁ」
「ふーん」
「で、いまは、昼飯ですかい、ヒメ様」
「ねぇ、ジンゲ。ガラクタを捨てるにはどうしたらいい?」
「ガラクタ? 燃やしたらどうですかい?」
「燃えなさそうなのも混じってるかも」
「燃えないって、鉄とかもですかい?」
「うん。たぶん鉄。錆び錆びだけど」
「捨てるんなら、あっしらが貰っちゃってもいいですかいソレ」
「いいけど、ゴミだよ?」
「まぁ、ゴミかどうかは、見てからでも」
ゴトゴトと、木製車輪が、地面を擦る音。
顔を向けると、あれ……馬車?
巨大な体躯の牛。
引いているのは、どう見ても、馬じゃなくて牛。
アタマから生えた大きなカギ型ツノが2本。
ツノも含めて、全身が白い。
前足部分の背中が、コブのようにモコっと膨らんでいる。
バッファローかバイソンというやつかもしれない。
怒ったら、すごく強そう。
でも、白い。真っ白の牛。
とにかくあれは、馬車ではない。
御者台と荷台だけのシンプルな牛車。
御者は、海賊アイパッチのグック。
「おや、ヒメの嬢ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな」
「ねぇそれ! 馬車じゃなくて、牛車だよね!」
「いまはな。15年前まで馬が引いてから馬車だ。またどっかで馬を手に入れたら、将来も馬車。めんどくせぇから、いまも馬車だ」
「んで、ヒメ様。廃材ってのはどこですかい。おやしろですかい?」
「あん? 廃材?」
「うん。おやしろ」
「んじゃあ、いまから、回収しにいきゃしょう。その廃材、ぜんぶ馬車に積んでもってかえりますぜ」
「牛車でしょ」
「馬車でやす」
いや、牛車だ。
眺めていたら、ウシの頭にオレンジ色の蝶々が止まった。
全体的なみためはゴツイけど。
カワイイ……




