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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
565/586

6.6.16


 やることがない。

 レストラン云々も、しばらくわたしの出番はないらしい。


 ふらふらと遠くに出歩くわけにもいかない。

 うろうろしてると邪魔になる。

 座っていると、わたしにお茶を運ぶフリッツの仕事が増える。


 それならピエールはと探したが、また行方不明だった。



 噴水広場に行った。

 石の囲いに座って、世川君はいつ来るんだろうなどと、ぼんやりと考えたりした。

 周囲は、建築の音が響き渡っているけど、以前と比べて、噴水周辺を歩き回る人は少ない。



 飽きたので、メモリアへ。

 まだ少し早いけど、布団を取り込むことにした。

 ギシギシと音をたてる階段の上り下りが怖い。

 山積みのガラクタも、どうにかしたい。


 ダストスさんと、連絡を取るには、どうしたらいいんだろうか。



 布団を取り込んでから、まだ明るいので、酒場へ行くことにした。


 なんだかわからないけど、酒場はいつも忙しそう。

 営業時間は朝から夜まで。

 混むのは夜だけど、昼間もチラホラとお客さんが来る。

 それ以外にも、相談事で訪れるヒトもいる。


 レクサムかコンフィが言ってたけど、実際のところ、マスターはこの村の相談役で、村長のような存在だった。


「みきちゃん、いらっしゃい。ご飯食べにきたの?」

 ガロムちゃん。

 今日は、スバナちゃんを背負っている。

「ヒマだから、遊びにきた。なんか手伝うことある?」

「いまはないかなぁ。お父さんは仕込みしてるけど」


 スバナとガロムちゃん。

 姉と弟だと思うけど、ぜんぜん似てないなぁ。


「ねぇガロムちゃん。ダストスてどこに住んでるの?」

「ダストス? この村には住んでなくて、南の方の森の中に住んでるよ」

「ふーん。別の村?」

「村っていうか、拠点? ねぐら? 隠れ家?」

「アジト?」

「うん。そんな感じ。ウガーラ族は反逆者集団だからね。王様にみつかったら、討伐されちゃうかもだからって」


「じゃあ、会いたかったらそこまでいくの?」

「緊急のときは、のろしをお父さんが焚いたらすぐ来てくれるよ。このあいだのオオカミのときもそう」

「ふーん。南の森って遠いの?」

「あたしも行ったことあるけど。歩きだと朝早く出て、ギリギリ陽が落ちる前に着くくらいの距離だから、近くはないね」

「そんなに遠いのかぁ」


「どうしたの? 緊急?」

「緊急じゃないけど。普段は、どうしてるのかなーって」

「うーん。ふだんは盗賊? たまにお店にくるから、毎日くればそのうち会えるよ」


 やっぱ盗賊カヨ……

 自警団じゃないのカヨ……


「ダストスはいねぇけど、グックとジンゲなら、娘に会いにきてるぞ」

 マスターが店から出て来た。

「娘?」

「さすがに、娘に盗賊の真似事みてぇなことはさせたくねぇだろ。この村はよ、ウガーラ族2世とか、盗賊が嫌になったとか、老齢で引退したやつとかの拠り所でもあるからな」

「へー」


 海賊アイパッチと、うさんくさいサンタクロースの娘か。

 気になる。


「あいつらでいいなら、夕方前に顔出すんじゃねぇか? 待ってりゃそのうち会えるぞ」

「娘は気になるけど、グックとジンゲ会ってもなぁ……」


「腹は減ってるか? なんか食ってくか?」

「もう、どうして、みきの顔みると、いつもお腹空いたなの!」

「なんだ、減ってねぇのか」

「減ってる……おカネはないけど」

「ッハハハ。じゃあ、ちょっと待ってな」


 マスターは、蒸したようなリンゴの切り身を出してくれた。

 砂糖も蜂蜜も使ってなさそうだが、外側はサッパリ。内側は甘い。

 レモンを使って蒸したのかもしれない。


 フレンチだと、バターやらハーブやらで風味が豊かになるけど、やっぱこういうストレートな味の方が、わたしには合っている。


 リンゴの切り身を、ガロムちゃんと、スバナちゃんとも分け合って、いっしょに食べた。



「おや、ヒメ様じゃねぇですかい。お久ぶりで」


 白ヒゲサンタのジンゲだ。

 この村の住人は、酒場以外では、わたしはヒメ様で定着していた。

 村のヒトだけかと思ったら、ジンゲまでそう呼んだ。

 もういい。それでいい。


「グックは?」

「馬車を取りにいってますぜ」

「馬車あるんだ。スゴイね」

「ウガーラ族の最後の財産でさぁ」

「ふーん」

「で、いまは、昼飯ですかい、ヒメ様」


「ねぇ、ジンゲ。ガラクタを捨てるにはどうしたらいい?」

「ガラクタ? 燃やしたらどうですかい?」

「燃えなさそうなのも混じってるかも」

「燃えないって、鉄とかもですかい?」

「うん。たぶん鉄。錆び錆びだけど」

「捨てるんなら、あっしらが貰っちゃってもいいですかいソレ」

「いいけど、ゴミだよ?」

「まぁ、ゴミかどうかは、見てからでも」


 ゴトゴトと、木製車輪が、地面を擦る音。

 顔を向けると、あれ……馬車?


 巨大な体躯の牛。

 引いているのは、どう見ても、馬じゃなくて牛。

 アタマから生えた大きなカギ型ツノが2本。

 ツノも含めて、全身が白い。

 前足部分の背中が、コブのようにモコっと膨らんでいる。

 バッファローかバイソンというやつかもしれない。

 怒ったら、すごく強そう。

 でも、白い。真っ白の牛。


 とにかくあれは、馬車ではない。

 御者台と荷台だけのシンプルな牛車。

 御者は、海賊アイパッチのグック。


「おや、ヒメの嬢ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな」

「ねぇそれ! 馬車じゃなくて、牛車だよね!」

「いまはな。15年前まで馬が引いてから馬車だ。またどっかで馬を手に入れたら、将来も馬車。めんどくせぇから、いまも馬車だ」


「んで、ヒメ様。廃材ってのはどこですかい。おやしろですかい?」

「あん? 廃材?」

「うん。おやしろ」

「んじゃあ、いまから、回収しにいきゃしょう。その廃材、ぜんぶ馬車に積んでもってかえりますぜ」

「牛車でしょ」

「馬車でやす」


 いや、牛車だ。

 眺めていたら、ウシの頭にオレンジ色の蝶々が止まった。


 全体的なみためはゴツイけど。


 カワイイ……





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