6.6.13
4月29日。土曜日。
世川君を、まゆさんの家まで案内するのは、わたしの役目だ。
14時に駅で待ち合わせ。
場所は、コンビニ寄りの改札の前。
世川君は、ほんとうにスマホを持ってないらしい。
待ち合わせの場所は、前日のうちに念入りに決めておいた。
3分前に到着したけど、世川君の姿は無い。
なのに、どこに潜んでいたのか。
世川君は時間ピッタリに視界に現れた。たぶん、誤差は数秒。
同じ電車に乗っていた可能性すらある。
今日はコンタクトではなく、メガネをかけている。
ずいぶん度が強そうなメガネで、レンズ越しだと、肌の線がだいぶ違う場所にズレている。
服装は、前回とほぼ同じネズミ色。
ちがうのは、シャツの色が紺色なだけ。
今日も地味だ。
「世川君は、いつも時間通りだね」
「あ、はい」
「こっちだよ」
「はい」
「今日はメガネだね」
「はい」
会話はまったく続かない。
もしかしたら、わたし、嫌われてるのかもとすら思う。
心当たりもなくもない。
とにかく、まゆさんちへと向かう。
ひさしぶりに訪れた、まゆさんの豪邸。
違和感を感じて、なにかとしばらく眺めたら、1階のカーテンが開いている。
普通の家だとなんとも思わないけど、この家のカーテンが開いているのを、わたしは初めて見た。
まゆさん以外でダレかいるのかと思ったけど、チャイムのあとにドアを開けたのは、ジャージ姿のまゆさんだ。
「ん、来たか。あがって」
「おじゃまします……」
「おじゃましまーす。まゆさんち来るの久ぶり」
「んん」
家の中に明るく陽が差しているが、静かだった。
やっぱり、ダレもいなそうだ。
まゆさんを先頭に、階段を上がってまゆさんの部屋へ。
以前にも増して殺風景なのは、壁に掛かっていた制服がなくなったからかもしれない。
机と複数のモニターと、ベッドがあるだけ。
「セガワは、カウント22には行けたの?」
「はい。行けました。言われた通りに調合した薬を飲んでログアウトしたら、カウントがくりあがってました」
「ん。よくやった。ついでに毒薬の実験もできた。完璧」
「は、はい……」
まゆさんと、世川君は、部活の先輩と後輩のようだった。
でも、なんだか。新手のイジメではとも思ってしまう。
「世川君、カウント22に行けたんだね。エレメント・ノードにも行けそう?」
「それがですね。ガーディアンを突破できません」
「そっか。今回は、セガワ自身がガーディアン。自分との闘いか」
「はい」
「なにを要求してたの?」
「それが、よくわからなくて。どうすればいいんでしょう」
「なんか武器とか持ってた?」
「いえ。ぼく、武器とか使えませんし」
「じゃあ、普通に剣とか持って行って、倒しちゃえば」
「それも考えたんですけど、自分とソックリな相手を剣で斬り刻むって、できますか普通……」
「ん……難しいよね」
「みきさんは? 自分のガーディアンはどうやって倒したの?」
「みきは、小学生のみきがいて、お花をあげて通してって言っただけだよ」
「ん、参考にならなかった」
「まゆさんは?」
「わたしが欲しがってたのは、新しい定理か、法則」
「なにそれ……」
「カウント24の時には気がつかなかった、新しい定理」
「ふーん。なんか見つけたの?」
「ん。推測はいくつかあるけど、証明できるのは1つしかなかった」
「証明? できたの?」
「んー。できたけど、いまは言えない……ナイショ」
「えーっ!」
「ん? セガワ、どうかした?」
世川君は、部屋の真ん中に立って、ぼーっとしている。
「いえ、あの、この部屋って」
「もしかして、女子の部屋入って、緊張してるとか」
「いえ、そんな感じはぜんぜんしないんですけど」
「なにそれ、ちょっとイラ」
「この部屋、すごく静かです」
「ん。住宅街だし。車もあんまり走ってないしね」
「いや、そうではなくて、耳鳴りがしません」
「耳鳴り?」
「ぼくはいつも、耳鳴りが聞こえるんです」
「ふーん。ノイローゼ?」
「小さい頃からずっとなんです。なんどか病院には行ったんですが、異常なしと言われるだけです。スマホを近づけると特にうるさいんですけど、それ以外にもずっとです」
「低周波ノイローゼみたいな感じ? うるさいって、どんな音?」
「音っていうか、振動っていうか。耳の奥がゴロゴロと。生活に支障があるほどではないんですけど、南を向くとよく聞こえます」
「南? じゃあ、南はどっち?」
「こっちですね」
世川君が、カーテンの方を向いた。
「すげぇ……じゃあセガワは、南がわかる人間なの? 鳥みたいだね」
「物心ついたときから、こうなので、自分では普通のことなんですけど」
「いや、普通じゃないよそれ」
「ぼくが遺伝子に興味を持ったのもこれが理由で。もしかしたらぼくの遺伝子には、鳥と同じような遺伝子とかがあるのかもって」
「ニフィル・ロードでも、うるさいの?」
「それが、あの世界では、まったくうるさくありません」
「セガワ」
「はい」
「この部屋はね、壁もカーテンも、その扉も。電磁波シールドが入っててね。だから電磁波が入りにくいし外にも出にくい。うるさくないのは、そのせいかも」
「そうなんですか。この部屋は体験したことがないくらい静かです。だから南もよくわかります」
「鳥だね、完全に。ますます興味が湧いた。いろいろ実験しよう、セガワ」
「は……はぁ。ぼくでですか?」
「みきさん」
「うん」
「今日はお泊りセット持参?」
「うん、もちろん」
「セガワは?」
「ぼくは、帰るに決まってるじゃないですか……」
「何時までいられる?」
「何時まででもいられますけど。家に帰っても父も仕事でいませんし」
「じゃあとりあえず、みきさんは、ログインしててもいいよ。セガワは、わたしといっしょに、ガーディアン突破対策を考えてからにしよう」
「うん。わかった」
「みきさん、いま何日進んでるの?」
「あぁ……えっと、何日目だろ。25日目くらいかなぁ」
「セガワは?」
「ぼくは、5日目です」
「わたしとセガワは作戦を練る。セガワを25日から30日以内に、エレメント・ノードに送り込むから、みきさんは、あっちで待ってて」
「わかった!」
「……そんなにうまくいくんでしょうか」
「ん。まかせろ」
「じゃあ、先にいってるね」
「ん。いってらっしゃい」
ログインデバイスを右手に持って、まゆさんの部屋からログインした。
このドタバタな感じでのログイン。
久しぶりだ。




