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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
562/586

6.6.13


 4月29日。土曜日。


 世川君を、まゆさんの家まで案内するのは、わたしの役目だ。

 14時に駅で待ち合わせ。


 場所は、コンビニ寄りの改札の前。

 世川君は、ほんとうにスマホを持ってないらしい。

 待ち合わせの場所は、前日のうちに念入りに決めておいた。


 3分前に到着したけど、世川君の姿は無い。

 なのに、どこに潜んでいたのか。

 世川君は時間ピッタリに視界に現れた。たぶん、誤差は数秒。

 同じ電車に乗っていた可能性すらある。


 今日はコンタクトではなく、メガネをかけている。

 ずいぶん度が強そうなメガネで、レンズ越しだと、肌の線がだいぶ違う場所にズレている。

 服装は、前回とほぼ同じネズミ色。

 ちがうのは、シャツの色が紺色なだけ。

 今日も地味だ。



「世川君は、いつも時間通りだね」

「あ、はい」

「こっちだよ」

「はい」

「今日はメガネだね」

「はい」



 会話はまったく続かない。

 もしかしたら、わたし、嫌われてるのかもとすら思う。

 心当たりもなくもない。

 とにかく、まゆさんちへと向かう。


 ひさしぶりに訪れた、まゆさんの豪邸。

 違和感を感じて、なにかとしばらく眺めたら、1階のカーテンが開いている。

 普通の家だとなんとも思わないけど、この家のカーテンが開いているのを、わたしは初めて見た。


 まゆさん以外でダレかいるのかと思ったけど、チャイムのあとにドアを開けたのは、ジャージ姿のまゆさんだ。


「ん、来たか。あがって」

「おじゃまします……」

「おじゃましまーす。まゆさんち来るの久ぶり」

「んん」


 家の中に明るく陽が差しているが、静かだった。

 やっぱり、ダレもいなそうだ。


 まゆさんを先頭に、階段を上がってまゆさんの部屋へ。

 以前にも増して殺風景なのは、壁に掛かっていた制服がなくなったからかもしれない。

 机と複数のモニターと、ベッドがあるだけ。


「セガワは、カウント22には行けたの?」

「はい。行けました。言われた通りに調合した薬を飲んでログアウトしたら、カウントがくりあがってました」

「ん。よくやった。ついでに毒薬の実験もできた。完璧」

「は、はい……」


 まゆさんと、世川君は、部活の先輩と後輩のようだった。

 でも、なんだか。新手のイジメではとも思ってしまう。


「世川君、カウント22に行けたんだね。エレメント・ノードにも行けそう?」

「それがですね。ガーディアンを突破できません」


「そっか。今回は、セガワ自身がガーディアン。自分との闘いか」

「はい」

「なにを要求してたの?」

「それが、よくわからなくて。どうすればいいんでしょう」

「なんか武器とか持ってた?」

「いえ。ぼく、武器とか使えませんし」

「じゃあ、普通に剣とか持って行って、倒しちゃえば」

「それも考えたんですけど、自分とソックリな相手を剣で斬り刻むって、できますか普通……」

「ん……難しいよね」


「みきさんは? 自分のガーディアンはどうやって倒したの?」

「みきは、小学生のみきがいて、お花をあげて通してって言っただけだよ」

「ん、参考にならなかった」


「まゆさんは?」

「わたしが欲しがってたのは、新しい定理か、法則」

「なにそれ……」

「カウント24の時には気がつかなかった、新しい定理」

「ふーん。なんか見つけたの?」

「ん。推測はいくつかあるけど、証明できるのは1つしかなかった」

「証明? できたの?」

「んー。できたけど、いまは言えない……ナイショ」

「えーっ!」


「ん? セガワ、どうかした?」

 世川君は、部屋の真ん中に立って、ぼーっとしている。

「いえ、あの、この部屋って」

「もしかして、女子の部屋入って、緊張してるとか」

「いえ、そんな感じはぜんぜんしないんですけど」

「なにそれ、ちょっとイラ」


「この部屋、すごく静かです」

「ん。住宅街だし。車もあんまり走ってないしね」

「いや、そうではなくて、耳鳴りがしません」

「耳鳴り?」

「ぼくはいつも、耳鳴りが聞こえるんです」

「ふーん。ノイローゼ?」


「小さい頃からずっとなんです。なんどか病院には行ったんですが、異常なしと言われるだけです。スマホを近づけると特にうるさいんですけど、それ以外にもずっとです」


「低周波ノイローゼみたいな感じ? うるさいって、どんな音?」

「音っていうか、振動っていうか。耳の奥がゴロゴロと。生活に支障があるほどではないんですけど、南を向くとよく聞こえます」

「南? じゃあ、南はどっち?」

「こっちですね」

 世川君が、カーテンの方を向いた。

「すげぇ……じゃあセガワは、南がわかる人間なの? 鳥みたいだね」

「物心ついたときから、こうなので、自分では普通のことなんですけど」

「いや、普通じゃないよそれ」


「ぼくが遺伝子に興味を持ったのもこれが理由で。もしかしたらぼくの遺伝子には、鳥と同じような遺伝子とかがあるのかもって」


「ニフィル・ロードでも、うるさいの?」

「それが、あの世界では、まったくうるさくありません」


「セガワ」

「はい」

「この部屋はね、壁もカーテンも、その扉も。電磁波シールドが入っててね。だから電磁波が入りにくいし外にも出にくい。うるさくないのは、そのせいかも」


「そうなんですか。この部屋は体験したことがないくらい静かです。だから南もよくわかります」

「鳥だね、完全に。ますます興味が湧いた。いろいろ実験しよう、セガワ」

「は……はぁ。ぼくでですか?」


「みきさん」

「うん」

「今日はお泊りセット持参?」

「うん、もちろん」

「セガワは?」

「ぼくは、帰るに決まってるじゃないですか……」

「何時までいられる?」

「何時まででもいられますけど。家に帰っても父も仕事でいませんし」


「じゃあとりあえず、みきさんは、ログインしててもいいよ。セガワは、わたしといっしょに、ガーディアン突破対策を考えてからにしよう」


「うん。わかった」

「みきさん、いま何日進んでるの?」

「あぁ……えっと、何日目だろ。25日目くらいかなぁ」

「セガワは?」

「ぼくは、5日目です」

「わたしとセガワは作戦を練る。セガワを25日から30日以内に、エレメント・ノードに送り込むから、みきさんは、あっちで待ってて」

「わかった!」

「……そんなにうまくいくんでしょうか」


「ん。まかせろ」


「じゃあ、先にいってるね」

「ん。いってらっしゃい」


 ログインデバイスを右手に持って、まゆさんの部屋からログインした。



 このドタバタな感じでのログイン。

 久しぶりだ。

 


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