6.6.10 - 攻略ルート
世川君と3人で、1時間くらい会話。
来週の土曜日。
まゆさんちで、ログインしようという約束をして、世川君だけ先に帰った。
わたしとまゆさんは、もうしばらくお茶する。
「セガワ、面白いヤツだった」
「まゆさんと、気が合いそうでよかった」
「じゃあ、次は、みきさんのクエストを攻略しよう」
「クエスト?」
「まずは、最重要人物のコイツ」
まゆさんも、ナップザックから、タブレットを取り出した。
「ウィルツ・フォン・シュタインバッハ」
「……もしかして、ウィルツおじさん?」
画面に映っているのは、タイプライターで書かれたような文書の写真。
ぜんぶ英文だけど、右上に白黒の人物写真も添えられている。
カッチリとした髪型。貼り付けたような紳士髭。
少し若く見えるけど、白黒写真に写ってるのは、ウィルツおじさんだ。
「この文書をみつけるの、けっこう苦労した」
「ふーん、こんなの、どこでみつけたの?」
「出所は聞かないで」
「うん……それで、ウィルツおじさんがどうしたの?」
「表向きは、ヴィルヘルム2世の外交補佐官」
「うん?」
「でも裏の顔は、当時のドイツ帝国に存在していた、ニフィル・ロードに関する秘密局の幹部だったらしい」
「秘密局……って?」
「要は、1900年代のニフィル・ロード研究所みたいな組織だね」
「へぇー……」
「で、アルベールと名を変えたウォルターが、その男の部下」
「うん」
「スパイ映画すぎて、萌えるんだけど」
「なにそれ」
「わたしの推測だと、ウォルターは知恵から派遣されて、アルベールと名を変えて部下として潜り込んでいるスパイ」
「あー、そんなこと言ってたようなそぶりはあったかなぁ」
「どんな思惑があるのかはわからないけど、みきさんを知恵に送り出そうとしているウォルターは、とりあえず信用していいと思う」
「そうなの?」
「もしかすると、ウィルツも、知恵にスパイを送り込もうとしてるんじゃないかな」
「スパイ?」
「ウォルター。つまり、アルベールをね」
「え……と? ぜんぜんわからなくなってきた」
「ウィルツは、自分の手駒としてアルベールを知恵に送り込む。
アルベールは、ウォルターとして知恵に戻るだけ。
みきさんは、皇族の分家に扮して、知恵に行きたいだけ。
三者の思惑はバラバラだけど、やりたいことは同じ。
三すくみの状態で、それぞれが、相手を利用しようとしている」
「ふーん? えっと、みきも?」
「みきさんは無自覚だけど、どっぷり巻き込まれてるよ」
「えぇ……」
「でもね、みきさんが知恵に辿り着くまでは、みんな味方のはず」
「辿り着くまで?」
「アルベールは知恵だからまだいいけど、ウィルツは注意したほうがいい」
「なんか、みんな、ウィルツおじさんを怖がるね」
「この報告書を読む限り、ウィルツは安全な場所から部下を操る悪徳政治家。誘拐、拷問、粛清、詐欺に偽装、とにかくなんでもやらかしたらしい」
「そんな風には見えなかったけどなぁ」
「それがウィルツのやりかた。信頼させて安心させて、その上で非道な仕事を命令して、不都合がでたら笑顔を見せているうちに排除。最悪の親玉だよ」
「えぇ……信じられない」
「もしかしたら、ウォルター、じゃなくてアルベールにも、知恵についたら、みきさんを殺せくらいの指示は、してるかもしれないよ」
「ええ、コワ……いけど、そんなのも想像できない」
「これもわたしの推測だけど、もし、アルベールが、みきさんの部下として偽装したい、そう言ったなら、みきさんは最後まで安全」
「どうして?」
「ウィルツの手駒として、アルベールに堂々とスパイ活動をさせることができる。つまりウィルツの方針が、みきさんを最後まで利用する方向に決まったということ」
「うん。やっぱりわかんない」
「って言っても、アルベールは最初から知恵側の工作員だから、ウィルツに渡るのは知恵にとって都合のいい情報だけだろうけどね」
「じゃあ、アルベールが、そう言わなかったら?」
「知恵に辿り着くか、その直前で、みきさんを殺せと、ウィルツから指示を受けている可能性がある」
「うーん……考えすぎじゃない?」
「ん。そうかも。ちょっと熱が入り過ぎた」
「あはははっ」
「とにかく、ウィルツの恨みを買わないこと。知恵に辿り着くまでは、ヘタなウソも、裏切るような行動もしちゃダメだよ。あの時代で、しかもプロイセンの政治家なんて言ったら、現代の価値観で対処できるような存在じゃない」
うん……
それを知ったところで、わたしには、なにもできないけどね。
流されるままだね。
「みきさんが知恵に辿り着ければ、みきさんの勝ち。カウント22は、みきさんにとって、そういう世界になりつつある」
「みきの……勝ち?」
「ウィルツは最後、1903年に帰宅の途中で行方不明になったままなんだって。この文書もそこで終わってる」
「え……じゃあ、ウィルツおじさん、あと数年で死んじゃうの?」
「行方不明だからわかんないけど、1900年の時点で57歳。その時代の平均寿命で考えたら、どっちにしろ長くはないよ」
「そっかぁ……じゃあ、チコリチョコたくさん持って行ってあげようかな」
「ん、チョコ?」
「パティシエのハンナちゃんがね、チョコつくったの」
「ふーん。すごいね。ニフィル・ロードでチョコなんて」
「毎日、美味しいものいっぱい食べてて、ダメ人間になっちゃいそう」
「おいしいものかぁ。わたしは、ピザかグラタンがいいな」
「まゆさんち、高級フレンチとか普通に食べてそうだけど?」
「めんどくさいよあんなの。うっとおしくて、退屈で、つまんない」
「そうなの?」
「美味しいって言わされるんじゃなくて、自分で美味しいって言いたい。静かな部屋で、ネットしながらピザ食べて、チャットでメシテロするほうがいい」
「ふーん」
そういうもんなのかな。
大金持ちの感覚。
やっぱり、謎だ。




